望田さんと絵

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いらっしゃいませ おでん屋でございます。

大根、牛すじ、ちくわにはんぺん...各60円で販売しております。

60円がないお客様には特別に、おでん1つにつき怖い話1つで販売しております。

今日はそんな60円が惜しい望田さんのお話です。

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あたし美大で油絵書いてるんだけどさ、

練習ってかほぼ趣味なんだけど鉛筆でデッサンもするの。

風景とか人とかをぱぱーっとね。

それである日、でんでん池にデッサンしに行ったの。

女の幽霊が出るぅ～なんて噂あるけど、あたし霊感ないし昼間だし気にせず行ったんだよね。

天気も良くて木漏れ日も絶好調って感じで、もう水彩画にすりゃ良かったってくらい綺麗だったの。

デッサンの域を超えるようなのが出来ちゃって超嬉しくてさ、

家に帰って余ってた額縁に入れて飾ったの。

数日間は暇があれば眺めて自画自賛してたんだけど

試験やら学際やらで忙しくなって、あんまり見なくなったのよ。

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忙しい学生生活を送ってたある日、お母さんが部屋に入ったみたいで

「机の横の絵綺麗だけど、あの女の子描かない方がもっと綺麗だったんじゃない？」って言われたの。

女の子なんか書いとらんわー!って感じだよね。

木の影とかが人の形に見えちゃったのかなぁって思って

久しぶりに寝る前にその絵を見てみたの。

そしたらさぁ、いるんだよねぇ。女の子。

小学校低学年くらいの赤いワンピース着た女の子が描いてあるの。

もちろんあたしは描いてないし、描き足すような人もいない。

お気に入りの絵だったけど流石に気持ち悪くなっちゃって

額縁から出してぐしゃぐしゃって丸めて燃えるゴミの袋に捨てたの。

徐々に振り向くとか近寄ってくるとかなったら怖いからね。

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次の日学校に行ったら友達に

「もっちーすごいじゃん！おめでとー！」って言われたの。

何のことだかわかんなくて聞いたら

「学際の展示に選ばれてるよ」って。

その展示っていうのが全校で20点しか選ばれないやつで、

もう嬉しくて嬉しくてどの絵が選ばれたのか見に行ったんだよね。

そしたらさぁ...

「デッサン:水辺の少女 2年望田」って書かれてるの。

あたしの専攻油絵だよ？

趣味でデッサンはするけど提出はしてないし

水辺の少女なんてタイトルで描いたことなんて一切ない。

でも残念ながら思い浮かぶのは昨日捨てたあの絵。

いやいやまさか...と思ったものの

もしアレだったら気味悪いから確認しに行って見せてもらったの。

担当の先生が「これよくかけてるなぁ」って言いながら見せてくれたのが

残念ながら昨日捨てたあの絵。

しかもシワひとつなくてすごく綺麗...。

振り返るとか近づくじゃなく戻ってくるパターンかぁっていうね。

気持ち悪いことに変わりはないから辞退させて貰おうかとも思ったんだけど

その展示に選ばれると、その...就活でアピール出来るなぁって思っちゃって

そのまま展示に使ってもらうことにしたの。

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手元に無いからあんまり気にしないでいたんだけど

その日の夜、お風呂入る時にドア開けるじゃない？

そしたら湯船の所に女の子が立ってたの。

びっくりして心臓とまるかと思ったよ。

ぎゃーって叫んだらお母さんが来て素っ裸のまま泣きついたんだけど

お母さんに説明しようと振り返ったらもう女の子がいないの。

「気のせいでしょ 早く入っちゃいなさい」って言われたけど

入れるメンタル持ち合わせてなくてキッチンで顔だけ洗って寝たの。

お風呂なんか１日くらい入らなくても大丈夫でしょ？

次の日は朝から雨が降ってたんだけど、まぁ出るわ出るわ…

水たまりの中にあの女の子がいるのよ。

でも雨だしどこもかしこも水たまりで避けて歩くなんて出来ないでしょ？

何の解決にもならないけど、下を見ないようにして小走りで学校へ行ったの。

学校についてからもトイレの中の水や

筆を洗う容器の中の水にことごとくあの子が映るの。

もう発狂しそうになって、やっぱり展示やめてもらうように言いに行ったの。

「勿体ないなぁ良くかけてるのに」って絵を返却されたんだけど

そこに女の子はいなくて、タイトルも「水辺の光」になってるの。

振り向く、近付くの段階すっ飛ばして出てきてるのよ！

もう二度と戻ってこないように、戻ってきたら不審だってわかってもらえるように、

返却された絵は先生の目の前でビリビリに破いて学校のゴミ箱に捨てたの。

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でもね、そんなのなんの意味も無かったみたいで

結局水があるところではその子は現れるの。

最近ではたまに笑うのよ。ニタァって。

お風呂は1人は怖いから毎日銭湯行ってるんだけどしっかり出てきてくれちゃって、

あたしもう疲れちゃって...今だっておでんのつゆの中にその子いるんだもん。

食べたくて来たけど食欲なくなっちゃった。ごめんね。さようなら。

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そう話し終えるとちくわに箸をつけないまま、望田さんは帰っていきました。