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中編5
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高山さんと折鶴様

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いらっしゃいませ おでん屋でございます。

大根、牛すじ、ちくわにはんぺん...各60円で販売しております。

60円がないお客様には特別に、おでん1つにつき怖い話1つで販売しております。

今日はそんな60円もない高山さんのお話です。

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俺が小学生の頃なんだけどよ、家に小さい神棚があったんだ。

白い布がしいてあって、手の平くらいの小さい木箱とおちょこに入った酒と折り紙の鶴が2羽のってたんだよ。

母さんは毎朝酒替えてお祈りしてた。

小学2年生くらの頃だったか、学校で折り紙が流行ったんだ。

手裏剣とかメダルとかやっこさんとか皆色々作ってて、その中に鶴を折った奴がいたんだ。

これなら家にあるし俺でも折れるかもって思って、家に帰ってこっそり神棚から鶴を1つとったんだ。

インターネットもない時代だったから調べられなくてな

神棚の鶴を一度開いて同じように折っていこうとしたんだ。

...まぁ、わかるだろ?

1回開いたもんを元に戻せなくなっちまったんだよ。

さすがに神棚の鶴が1羽減ったら母さん気が付くだろうし、

怒られるだろうなぁって思って死ぬ気で試行錯誤を繰り返してなんとか元の形に戻したんだ。

かなりくたびれて変な皺とか入っちゃったんだけど、元の形に戻っただけで大満足だったんだよ。

折り方を覚えるのは諦めて母さんが帰ってくる前にくたびれた鶴をそっと戻しておいたんだ。

あの頃の俺にはバレない自信があったね。

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夕方になってパートから母さんが帰ってきたんだ。

いつもは朝しか触らないのに、その日は帰ってくるなり俺にただいまも言わず神棚の所に走っていったんだよ。

そしてそこに立ったまま「いない!いない!」って騒ぎ出したんだ。

やべぇもうバレた!

でも戻しておいたのにいないって何だろうって

ドアに隠れてそっと神棚の部屋を覗きに行ったんだ。

母さんが神棚に頭突っ込むくらい前のめりになって

「いない...!!いない!!!」って、まだ言ってる。

怒られるのは怖いけど勇気を出して話しかけたんだ。

「おかえりなさい」って。

母さんは勢いよく振り返って

「あんた折鶴様どこにやったの!!」

「どうしてくれるの!!」

「あんたのせいで!!馬鹿野郎!!」

「死んじまえ!!」ってさ。

母さんに死ねって言われたのはあれが初めてだったなぁ。

俺泣きながら謝ったんだけど

母さんはそんな俺を無視して、木箱と俺が触っていない方の鶴をもって出て行ってしまった。

追いかけようって気にもなれなくて泣きながら布団にもぐったよ。

まだ夕方だし飯も食ってないから寝られなくて

布団の中でなんでバレたんだろうとか、あの箱は何だろうとか、色々考えてた。

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母さんが帰って来ないまま夜になり、更に朝になった。

初めてのひとりぼっちの朝に戸惑って俺はまた泣いたよ。

学校なんか行ってる場合じゃなくて、母さんを探すために朝から近所中走り回った。

途中ばあちゃん家に寄って泣きながらあったことを話した。

学校に腹痛で休むと連絡してくれて、その後一緒に母さんを探し回った。

母さんのパート先にも電話したが出勤していないみたいだった。

探しても探しても見つからなくて、それでもお腹はすくもんで、夜ご飯を食べるためにばあちゃんの家に行った。

味の薄いご飯を食べてると電話がなった。

警察からだった。

母さんの様子が変だったから保護した、迎えに来て欲しいって言われて

ばあちゃんと交番まで迎えに行ったんだ。

母さんは出て行った時のままの格好だったが、無表情でブツブツ独り言をつぶやいてるんだ。

「ごめんなさい ごめんなさい」って。

警察に御礼をしてばあちゃんの家に帰った。

ばあちゃんが何を聞いても返事はしない。

ただずっと「ごめんなさい」ってつぶやくだけ。

ばあちゃんも神棚のことは知らないようで、変な宗教に入ったのかって心配してた。

俺はあの神棚に祀られてるのが何なのかは知らないけど

母さんが狂った原因は俺が鶴をいじった以外にないもんだから、もう一度謝ったんだ。

「鶴ぐちゃぐちゃにしてごめんなさい」って。

そしたら母さん、勢いよく顔だけこっちに向けて

「死ね」って一言。

ばあちゃんが息子に向ってなんて事言うのかって怒ってた。

でもそんなの聞いてなくて母さんはスッと立ち上がって猛ダッシュで出ていってしまった。

追いかけるにも追いかけられなくて、とりあえず警察に電話して探してもらった。

その時は母さんは木箱も鶴も持っていかなかったんだ。

家に残された木箱を見たばあちゃんが、

「なんだろうねこれは」って木箱を開けたんだよ。

あっさり開いたよ。中には魚の骨みたいなのと切った爪が沢山入ってた。

あまりにも気味が悪いのでばあちゃんはそれ以上は俺には見せてくれなかった。

他の部屋に追いやられた俺は、朝から走り回ってたのもあってぐっすり寝ちゃったよ。

翌朝になっても警察から連絡はなく、母さんは見つからなかった。

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母さんが見つからないまま年月が経って、ばあちゃんが死んだ。これは老衰だ。

俺も社会人になってもう母さんのことを思い出すことも少なくなっていた。

俺が30を超えた頃、母さんの名前で郵便物が届いたんだ。

俺はびっくりしたね。生きてたことにもだけど、俺の住所を知ってたことに。

とりあえず郵便物を開けてみたんだが、中身何だったと思う?

そうそう正解!あの箱だったんだよ!

でも中身はからっぽになってて鶴もいない。箱だけ。

気味悪いなって思ったけど送り主の所には母さんの名前以外書いてなくて送り返せないし、かといって捨てるのも気味が悪い。

俺は箱をダンボールに戻して押し入れの奥にしまったんだ。

それから時々、夢に鶴が出てくるんだ。折り紙の。

別に動くわけでも喋るわけでもない。

普通の夢のどこかに折鶴がちょこんと混ざってる感じ。

映像的には全く怖くないんだが、なんせ母さんの事があったから気味が悪くてさ

休みの日にお寺にその箱を持っていったんだ。

神棚にあったんだから神社かとも思ったんだけど近くにあったのが寺だったんだ。

住職に見せて、今までのことを話したら

神様として祀られてた神ではなかったものが呪いみたいなもんになっちゃってるって言われたんだ。

呪い殺すほどの力はないけど解くことも出来ない。

俺を呪い終わったら消えちゃうと思うって。

結局なんの解決にもならなかったよ。

このまま死ぬまでプチ不幸で生き続けるしかないらしい。

でもな、人間は慣れる生き物で不幸もあまりに続くと慣れちまうんだよ。

まぁ不幸の規模も小さいから尚更だな。

仕事クビになろうが彼女だと思ってた奴が詐欺師で貯金もってかれようが

再就職先で初日に怪我して再無職になろうが

今ホームレスで毎日ギリギリだろうが、慣れるのよ。

俺はもうこのちんけな呪いに勝ったと思ってるね。

ホームレス楽しいんだよ。なかなか。

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そう話し終えた高山さんは餅巾着をひとつ食べて帰って行きました。

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ラグトさん コメントありがとうございますm(_ _)m
あまりにも怖くなかった場合にも何も渡さないのは良心が痛むので辛子をプレゼントしております。
褒めていただいて嬉しいので特別に割り箸もおつけいたします。ありがとうございます┏●

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コメントをするのは初めてです。
ラグトと申します。

あ、あたらしい!おでん屋さんで怪談なんて!
私もこのお店行きたいです。

「親父さん聞いてよ、さっき私怖い体験しちゃった。
仕事が忙しい中、久しぶりに本屋さんに寄ったんだけど。
毎月買ってる雑誌の7月号の発売日だと思って見てみたら、8月号が売ってるのよ。
家にあるのは間違いなく6月号だったのは覚えてたから、1ヶ月飛んでたのよ!」

「は、はあ」

「え~と、それじゃあ、牛すじを」

「お客さん、困ります!」

こんな感じ?
え~と、とにかく何が言いたかったのかというと、こんな即興話が浮かんでしまうぐらいこのシリーズに惚れこんだということです。
失礼いたしました。

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河上マングースさん コメントありがとうございますm(_ _)m
そう言っていただけると嬉しいです。ありがとうございます。

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琉聖さん コメントありがとうございますm(_ _)m
内容ザックリしちゃってますがおでん屋に来てるおっちゃんの昔話っていう前提に助けられてます。
60円なくても土産話を持って是非┏●

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初めまして。
あんみつ姫です。
小さな不幸も積み重ねれば、いちいち気にもならなくなるのでしょうか。
あまり、深刻に捉えていない高山さん。
ホームレスと野心無き宗教家は、どこか共通点がありますね。

どうして、かなりの年月が経ってから、空の箱だけを送りつけてきたのか。
謎謎謎・・・お母様の奇行も併せ、すべてが謎に包まれたまま、サクッと終わってしまう。
読者は、置き去り。
オチもあってないような。

このテイストいいですね。
おでんは、庶民の味 ですものね。
気に入りました。

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mamiさん コメントありがとうございますm(_ _)m
もう少しプチ不幸の所とか書きたかったんですが
ただでさえダラダラした文章がもっと長くなるのか...と
謎のままでも大丈夫そうな所はサヨナラしました。

お酒は350円からになります。お話約6個分ですね。高い...。

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珍味さん コメントありがとうございますm(_ _)m
読む人がこの話を直接聞いてる感じになるといいなぁと語り口調にしたんですがすっと入っていったようで良かったです。
60円、お待ちしております^^

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