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中編5
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藤尾さんと男の子

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60円がないお客様には特別に、おでん1つにつき怖い話1つで販売しております。

今日は一万円札を崩したくない藤尾さんのお話です。

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昔から俺の周りは霊感がある奴が多くて、

皆には見えているものが俺には見えないっていう状況がちょっと悔しかったんだ。

だからある日ネットで見かけた

【霊感が身に付く方法】ってのを試してみたんだ。

かなり昔の事だからちょっとうろ覚えなんだけど、

川の水をいつも使っている茶碗に入れて

その中に梵字なのかな?模様みたいなもんを書いた半紙と自分の爪を入れて、

一週間かけてその茶碗の水を少しずつ飲むってやつだったと思う。

他の方法よりも簡単で金もかからないっていう手軽さが魅力的で、

その方法を知った次の日からすぐに実行したんだ。

学校帰りに近くの川で虫かごに水を入れて持って帰って

正月の書き初めの宿題で余った半紙に変な模様を書いて

親が寝た後に台所から茶碗を持ってきて、爪を切って...準備は完璧だった。

ネットで見つけた方法通り、俺は茶碗に入れた水を少し飲んだ。

いや、少ししか飲めなかった。

ものすごく変な味がするんだよ。

今考えれば当たり前だけどガキの俺には想像出来なかった。

川の水なんて飲めたもんじゃねえ。

でもこれだけ変な味がするんだから効果はあるんだろうって思い込んで、きっちり7日間かけて飲んだんだ。

7日目には味にも慣れ...なんてことは無かった。

7日間ずっと不味かったよ。

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不味さにも腹痛にも耐えて一週間。

朝目が覚めて、学校へ行って、帰ってきて、布団に入るまで、一切霊なんて見えなかった。

あんなに不味い思いをしたのにガセネタかよって

ネットの情報にも、信じた自分にも腹を立てながら眠ったんだ。

.

.

夢の中で俺は公園にいた。

小さい頃よく行っていた近所の公園だ。

ブランコの後ろの茂みで知らない男の子と何かをしている。

「明日も遊ぼうね」

そう言われて目が覚めた。

学校へ行く途中、いつもは通らないその公園を通ってみた。

散歩しているじいさんはいたけど

夢で見た男の子はもちろん、子供すらいなかった。

(ただの夢だよなぁ)って思って学校へ行った。

学校では相変わらず友達が

「水山先生の首から手が生えてる」とか言うんだが、俺には見えない。

学校帰りもあの公園に寄ってみた。

たくさん子供がいたけど、あの男の子はいない。

夕方まで待ってみたけど来なかった。

夢の中で見たブランコの後ろの茂みに行って

なんとなく、そこに消しゴムを置いて帰ったんだ。

.

.

その日の夢も、あの公園で男の子と遊ぶ夢だった。

茂みの裏にはちゃんと消しゴムが置いてあった。

ただの夢ではなくて現実なんだと認識して

君は誰なのかと男の子に話しかけようとしたけど、

夢の中で意識的に動いたり喋ったり出来ない俺は文字通りその夢を見ることしか出来なかった。

「消しゴム、いらないね」

「ここは折り紙を埋める所だから」

「持って帰ってよ」

そう言われて消しゴムを渡されて、目が覚めた。

朝起きると左手に消しゴムを握っていた。

かつてない不思議な体験に嬉しいような怖いような不思議な気持ちだったよ。

それからも毎日夢でその男の子と遊ぶんだ。

最初の頃は穴を掘ってた。

穴がある程度掘れると、折り紙をするようになった。

ブランコを台にして折り紙を折って、茂みの裏に掘った穴に埋める。

そんな夢だった。

その頃俺が折れるのは手裏剣と鶴くらいで、そればっかり折ってた。

現実でも時々その公園に行ってみたけど、その時は穴も折り紙もなくなっていた。

消しゴムは返されたけど、折り紙なら良いのかなって思って

夢と同じように鶴を折って、茂みの裏に置いて帰ったんだ。

その日の夢で男の子は鶴を持ってた。

「これ、すごいね」

「こんなの折れるなんて羨ましいなぁ」

「貰っていいかな」

そう聞く男の子に俺は小さく頷いた。

そして目が覚めた。

霊感は相変わらず身についていないが、この毎晩の不思議な体験は充分俺を楽しませてたよ。

この日までだったけどな。

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その日学校へ向かう途中、その男の子にあったんだ。

俺はびっくりして駆け寄った。

「俺のこと、わかる?」

そう聞くと男の子はにっこり笑って頷いた。

夢が現実と繋がって、すごく興奮した。

いざ会うと何を喋っていいかわからなくて言葉に詰まっていると

「貰いに来たんだ」

男の子がそう言った直後、俺の後ろから車が突っ込んできた。

スピードはあまり出ていなかったようで

死ぬような事故ではなかったが、俺は痛くて気を失った。

その時の夢は男の子が「ありがとう」って言って、走っていってしまう夢だった。

.

.

病院で目が覚めると母さんと父さんが心配しながらベッドの横にいた。

「生きててよかった」って。

「生きてるだけでも...」って。

俺は大袈裟だなと思いながらも、親の愛情に内心喜んでいた。

「大丈夫だよ」って

泣いてる母さんの手を握ろうとした。

手は母さんに当たらず、空を切った。

手を見ると...いや、手は見れなかった。

無かったんだ。手が。

「手がね、どうしようもなかったんだけど...生きてるから」

「生きてはいけるから」

「お母さん達といっぱい頑張ろう」って。

無くなった手と母さんの言葉で、事故で手が無くなったってわかったんだ。

わかったけど、すぐには受け入れられなくて俺はしばらく泣き続けたよ。

.

.

その日から男の子は夢に現れなくなった。

あの霊感を身に付ける方法は、なにか違うものを呼んじゃったらしい。

相変わらず俺は霊感なんてないまま今も生きてるよ。

あの子が言った「貰う」ってのは

折り紙の鶴をじゃなくて、その鶴を折った俺の手をって事だったんだろうな。

今更気付いても遅いけど、俺の人生で唯一の怖い話はこれだよ。

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そう話し終えると、藤尾さんは器用にこんにゃくを食べて帰っていきました。

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ケチって両手を失うなんて、やめて〜!って器用にどうやってこんにゃくおでんを食べたんだろうw

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