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いらっしゃいませ おでん屋でございます。
大根、牛すじ、ちくわにはんぺん...各60円で販売しております。
60円がないお客様には特別に、おでん1つにつき怖い話1つで販売しております。
今日はお祭りに来た琴音ちゃんのお話です。
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ねぇ、これと似たようなお面つけた男の子、見なかった?
私8年前までこの街にいたんだけど、引っ越す最後の年にお父さんとお母さんと3人でこのお祭りに来たことがあるの。
今よりも屋台は少なかったけど、美味しい匂いとキラキラ光る電飾にすごく浮かれてた。
スーパーボールを掬うゲームをして、すごく大きなボールが取れたの。
お母さんが家まで持っててくれるって言ったんだけど、ずっと持っていたくて断ったの。
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でもね、やっぱりっていうか...そのボール、落としちゃったのよ。
ポンポンと弾みながら人混みの奥へ奥へと行ってしまったの。
お父さんが止めるのも聞かずに追いかけたわ。
人が多かったから追いつかれることのないまま、気が付けば神社の奥の林の中まで来てた。
スーパーボールは完全に見失っていて、当ても無くただただ林の中を探していた。
そしたらね、男の子がいたの。
狐のお面をつけてる10歳くらいの男の子。
「どうしたの」って聞かれて、
「スーパーボールを探してるの」って答えた。
「お母さんは?」ってさらに聞かれると、
なんだか急に心細く...寂しくなって、泣き出しちゃったの。
男の子は泣きわめく私の頭をポンポンとやさしく撫でてくれて、大きな飴を1つくれた。
「一緒に探そうか」
私が泣きやむとそう言って林の中を一緒に探してくれたの。
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ずっと下を見ていた私の背後から、目がチカチカするような大きな光がパッと咲いて
少し遅れてドン...ドン...って大きな音が鳴った。
スーパーボールを探している内にかなりの時間が経ったみたいで、花火が打ち上がり始めたの。
花火はすごく近く見えて、その迫力に圧倒されてた。
「きれいだね!」
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そう言って男の子を見ると、いつから見ていたのか男の子も私を見ていたの。
口元しか見えなかったけど、すごく優しい顔をしていたと思う。
花火が終わる頃「また一緒に花火見たいな」って言うと、
「いつか見たこともないような珍しい花火を見せてあげるね」
優しく微笑みながら、そう言ってくれた。
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お父さんやお母さんが心配してるからって、スーパーボールは諦めて神社の境内まで送ってもらった。
またねって手を振ると、男の子は林の中へ消えていったの。
5分...いや、3分もしないでお母さん達が来て、私はまた泣いた。
せっかくとれたスーパーボールをなくしてしまった事を謝り、お父さんにおんぶされて家に帰ったの。
その後すぐに引っ越しちゃって、8年間ここのお祭りには来られなかったんだけど、もう中学生になったし行けるかもって...1人で来ちゃった。
でも「いつか」は今年じゃなかったみたいね。
ちょっと残念だけど、見たこともないような花火を想像しながらまた1年待つのも悪くないかな。
ねぇ、どんな花火だと思う?おでん屋さんは見たことある?
...黒い花火?なにそれ。見えないじゃん。
そんな変な花火じゃないよ。きっと。
すごくすごく綺麗なカラフルな花火だと思う!
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そう話し終えると、琴音ちゃんはスーパーボールのように丸い...
いえ、飴玉のように丸いつみれを食べて帰っていきました。
今回はお祭りなので、サービスです。
作者おでん屋
飴玉は、10年舐めなくても大丈夫なやつです。
お返しのつもりが出番ちょっぴりですみませんm(_ _)m