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いらっしゃいませ おでん屋でございます。
大根、牛すじ、ちくわにはんぺん...各60円で販売しております。
60円がないお客様には特別に、おでん1つにつき怖い話1つで販売しております。
今日は小銭を募金に使い果たした榎本さんのお話です。
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もう30年も昔の話なんだけど、いいかしら。
うちは親が動物嫌いでね、犬や猫はもちろん小動物も飼えなかったの。
でも私はどうしてもペットが欲しくて、小学校で飼育されていた鶏が産んだ卵をこっそり持って帰って孵化させようとしたの。
その頃は有精卵だとか無精卵だとかの知識がなくて、卵は温めれば孵化するって信じていたのよ。
タオルを敷いて、自分の部屋の窓際に置いていたの。
でも3日もしないうちに私の不注意で卵を落としてしまって、足元で軽い音を立てて割れてしまったの。
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慌てて戻そうとしたけれど、戻せるわけもなくて…
今ならすぐ捨てるようなものだけれど、当時の私はその卵をお皿に移して再び窓際に置いて温めたの。
すると翌朝、目が覚めると卵がヒナになりかけていたの。
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なんて言えばわかりやすいかしら…。
卵黄部分にね、くちばしや羽が生えている感じなんだけど。
卵白部分はそのままで、外の桜が反射して映っていたわ。
その子はその卵白部分に映った花を卵白ごと食べていたの。
毎日少しずつ卵白が減っていって、完全になくなる頃にはその子は普通のヒヨコのようにちゃんとした小鳥になっていたわ。
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他の鳥と違うのはうっすらと体にお花の模様があったことくらいかしら。
とても可愛くて、私はその子に「はなちゃん」って名前をつけた。
卵白がなくなってしまったから別のものを食べさせなきゃって思って、
野菜やお肉、フルーツなど色々なものを与えてみたけれど、どれも食べてはくれなかった。
唯一口にしたのはお水だけ。
それも外の花が映ったお水だけだったわ。
それだけで大丈夫なのかと心配したけれど、弱ることも痩せることもなく元気に育っていたから、そのまま水だけで育てていたの。
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半年近く経って季節が秋になると、部屋から見える花たちはどれも枯れてしまって、家でご飯を与えるのが難しくなったの。
流石に水も飲まないとなると元気も無くなってきたわ。
私ははなちゃんをカバンに入れて近くの公園へと向かったの。
公園の花壇ならまだ花が咲いていたから…。
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公園に着いて、カバンからはなちゃんを出した。
そして花に近づけて食べるように促したの。
でもはなちゃんが花を食べる事はなくて、困ったような目で私を見たわ。
そして…
クルルルルル...と高く可愛く鳴いて、私の左目をつつき始めたの。
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咄嗟に目を閉じたけれど手遅れで、瞼を突き破られながらどんどん左目が食べられていったわ。
痛みで気を失って、気付けば部屋のベッドの上だった。
夢…だったら良かったんだけど、左目には大袈裟に包帯が巻かれていた。
いつの間にか行われた治療のおかげなのか痛みはなかったけれど、いきなり片目が見えなくなると距離感がわからなくなるのね。
歩いたり物を掴んだりするのがとても困難になったわ。
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そんな目にあっても私ははなちゃんが大好きで、一緒に暮らしたいと思っていたの。
でもはなちゃんはあの日以来私の前に姿を現す事がなくなってしまった。
冬になってエサがなくなって死んでしまったのかも…と思っていた頃、
こんなニュースが街を騒がせたの。
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『鳥に目をつつかれ 失明する人が続出』っていうニュース。
10件以上続いて、その鳥を捕まえようと多くの人が動いたみたい。
でもその鳥は見つからないまま、いつの間にかそんな事件すら起こらなくなったの。
不謹慎だけれど、そのニュースが流れるたびに
はなちゃんは元気で生きているんだって実感できて嬉しく思っていたものだから、そのニュースがなくなると不安で仕方なかったわ。
もう30年も経ってしまったし、流石に生きてはいないのかしら…。
もし生きているならまた一緒に暮らしたいんだけどねぇ。
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そう話し終えると榎本さんは玉子を食べて帰って行きました。
作者おでん屋
画像一枚減らしても良かったかも…というくらい前半コロコロ変わりますm(_ _)m
百物語が実話風だったのでこっちでは創作で。
鳥だとヨウムやオウムなど大きくてお喋りしてくれる子が好きです。
百物語をこれから投稿する方々
蝋燭の画像を下にずらすことになってしまい申し訳ありませんm(_ _)m