僕のバイト先のコンビニの店長はいつも穏やかで明るい人で、そんなに怒ったりしないんだ。
でも、だからこそ最近店長が怖い。
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前のシフト、たばこの箱を取りに事務所の中に入った時、ノートが一冊机の上にあったんだよ。
何だろうとチラッと表紙を見てみるとひらがなで「まっくろのーと」と書かれてたんだ。
その下には漢字で店長の名前が書いてある。
その異様さに何だかとてもその中が気になった。
ちなみにその時は店長はいない。
僕はこそっとノートを手に取り中身を見たんだ。
そこには
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『○○が憎い殺してやる殺してやる殺してやる帰りたい帰りたい殺してやる殺してやる殺してやる……』
汚い言葉がページ一面にそれこそページが「真っ黒」になるほど書き殴られていた。
文字の大きさも字体も全く統一されていない。
さらにページをめくる。
『うるさいうるさいうるさいうるさいだまれだまれだまれだまれ□□□も殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……』
もはや意味が分からない言葉もある。
僕はビビりながらも次々とページをめくっていった。
そこにはやはり「殺す」だの「帰りたい」だののネガティブに溢れた言葉や「いやだいやだいやだ」やら「助けて助けて助けて」やらの少し不気味な言葉が敷き詰められていた。
またページをめくろうとした瞬間、
ガチャ
事務所の扉が開いた。
店長が帰ってきた。
僕はノートを開いて手に持っている。
「あっ店長、おおつからさまです。」
ノートを机に投げ捨てあたふたしながらカミカミの挨拶をした。
めちゃくちゃ気まずい、と思ったんだが
「ああ。それはデトックス日記って言ってね、暗い感情を書き殴ってストレスを無くす物なんだ。」
店長は全く気にしていない様子で話してきた。
「は、はあ。そういうのもあるんすね。」
「大人はストレスだらけなんだよ。実は流行ってるらしいよコレ。」
店長はそう言って「まっくろのーと」を手に取った。
「まあ恥ずかしいからあんま見ないで欲しいのは確かだけどね。どのくらい読んだの?」
「えーと1/4くらいすかね?何か意外でした。」
「えーそんなに読んだの?」
店長は何だか楽しそうに笑ってる。良かった。いつも通りの店長だ。
でも、店長はコレが流行ってるって言っていた。
こんなものが流行る社会はおかしいんじゃないか。
店長はどう見ても普通の人、それと同じような普通の人の大勢が裏ではこんなことを書いている。
僕は少しゾッとした。
終
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・
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後日談
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その日も店長はいなかった。
その日はいつものシフトにちょっと前急にバイトを辞めた人のシフトも入るので、ロング勤務だった。
なので休憩時間があり、事務所で一人夕御飯を食べたりしていた。
そこでふと本棚に目が行った。
あ。あった。
いつかの「まっくろのーと」だ。
店長には悪いと思いつつ、めちゃくちゃ気になり、また途中から読み始めてしまった。
人間には怖いもの見たさ、隠れてるもの見たさがあるから仕方がない。
ノートの内容は前見たページとさほど変わらない。
ネガティブな言葉で真っ黒なページが続いていた、
のだが、
半分以上読み進めた時、
異質なページが現れた。
そのページは真っ黒では無かったのだ。
真っ白のページの真ん中に一言
『ついにやった』
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やったって何を?よく分からない。
前のページを見てみると、いつも通り『△△殺してやる』がぎっしり。
そう、ぎっしりと
殺してやると、
書いてある。
まさか、もしかして、
僕は少し不安になりながらとりあえず読み進める。
それ以降はまたいつものようなページ。
でもとても気になるページがあった。
『みられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたみられたあいつもころすころすころす……』
ヤバイ。僕はノートを一気にパラパラとめくった。
また異質なページが現れた。
真ん中に一言、『やばかった』。
さらにパラパラめくる。
また異質なページ。
今度は真ん中に、『1/4ならセーフ』と書かれていた。
全身冷や汗でびっしょり、でも何故かページをめくるのを止められない。
そして最後のページ。それより先には何も書かれていないページにたどり着く。
そこには、左上に『さようなら』とだけ書かれていた。
!
僕はノートを投げ捨てキョロキョロする。
……
どこからか笑ってる声が……
少し背の高いロッカーから聞こえている?
僕は今まで座っていたパイプ椅子を武器として手に取り、
バンッ!と
思い切りドアを開けた。
店長が
縄でぶら下がっていた。
作者和一
人生色々、店長も色々、
まさにストレスフル社会!