いらっしゃいませ。裏伽噺へようこそ。
本日は御一人様でご来店でしょうか。
ここに辿り着いたということは・・・
おやおや、お客様もすでにこちら側のようですね。
えぇ、後ろは振り向かないことをおすすめ致します。
しかし・・・
ふむ。
ならば遠慮はございません。
好きな噺をお持ち帰りくださいませ。
本日の伽噺は、米は飲み物(日本酒)だと思っている男の幼少期にあった不思議な体験の噺でございます。
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これは私が小学生だった時の体験談である。
夏休みになると恒例のお泊り会があった。
自治体のグループ同士が集まり、自治会館で宿泊するのだ。
小学1年〜6年までの子どもが12人くらい。その保護者である父親や母親が15名くらい。
学年が違えど、普段から顔を合わせているメンバーなのでそれほど疎外感や人見知りもなく、とても楽しく過ごせていた。
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当時私は5年生だったのだが、一つ下の学年にお寺の住職の息子(Aとします)がいた。
ただ、皆が考えるような霊が視えるだのお寺に霊が出るなど、そういった話をそのAからは聞いたことがなかったし周りでもそんな噂はなかった。
どこにでもいるような男の子で、何度かお寺に遊びに行ったこともあったくらいだ。
皆と違うのは、今回のような学校以外のイベントには一切参加しない、したことがない、ということだけだった。
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しかし、ダメ元で誘ってみたところ、なぜか今年は参加するというのだ。
ちょうど来年から住職になる修行をするために転校することが決まっていたAが、今年で最後だからということで特別に許可してくれたらしい。
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参加を諦めていたAも、どうせ断られると思っていた皆もそれはもう喜びで、
朝から上がりっぱなしのテンションをそのままにバーベキューもプールも大いに楽しんでいた。
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夜になると例年であれば川辺に行き花火なのだが、
今年はなんとAのお寺の横にある墓地で肝試しをしようということになったのだ。
子どもたちが皆
「えー!」とか
「聞いてない!」などと騒いでいたので、おそらくは保護者のうちの誰かが言い出したのだろう。
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本当に勘弁してほしい。私は正直ビビリなのだ。
霊感は無い。
無いと思う。
無いんだ!
でも・・・怖いんです。
本当に怖い。
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そもそも墓地でなんて不謹慎極まりないし、なぜそんな怖いことをやろうとするんだろう。
子どもでも分かるでしょ?「怖い」そう感じるだけですでにリスキーだ。正直ジェットコースターも怖い!!
そんなものを進んでやろうとするなんて・・・このドMどもが!!
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・・・ふぅ、ちょっとだけ感情的になってしまいました。申し訳ない。
しかしAもノリノリだったのは意外だった。
今考えると、肝試しをするにしてもさすがにお寺(Aの親)に使用の許可を承諾してもらわなければならないはずだ。
そして、それを許可するとは到底思えないのだ。やっぱり何かがおかしい。
そんなぶるぶる震えていることを必死で隠そうと強がっているうちに肝試しは始まってしまった。
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ルールはありきたりで、お墓のどこかにある井戸にお札(印刷用紙に札って書いた簡単なもの)を置いてあるらしい。
それを見つけて取って帰ってくるというものだった。
幸いそんなに広い墓地でもないし、肝試し中には保護者が道中含め墓地内にも立って見守っていてくれるとのことだ。
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「よかった〜!大人がいるならまだ安心だ!!」と下級生。
(いやいや、その安心を餌に大人たちはきっと驚かせてくるんだよ。
世の中そんな甘くない。まだまだ若いな・・・)
と恐怖を通り越して悟りを開きつつあった私は心の中で毒づいたのだった。
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そんな時、緊急事態が発生。
なんと6年生と5年生は1人ずつ行くことになったらしい。
6年生と5年生は学年の人数が少なかったため、私の自治体には1人ずつしかいなかったのだ。
「それなら2人で行けばいいじゃん!」
・・・と必死な訴えも虚しく、かえって強がっていたことがばれてしまった私を放置して肝試しはスタートしてしまった。
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順番は年齢順で、6年生のBからだ。
しばらくしてBの
「ギャー!!」
「うわー!!!」
といった叫び声が響いてきた。
「やれやれ・・・これじゃぁお化け屋敷じゃないか。
でも霊的な恐怖はないからまだ良かったかな。」
と思える余裕は出てきたのは救いだった。
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息を切らして帰ってきた6年生は、恥ずかしそうにしながらも
「全然おばけとかいなかったからつまんないな!」と強がっていたが、
悲鳴を聞いた私たちは違う意味で震え上がっていた。
気を遣って大人が驚かせてくることは黙っていたのだろうが、バレバレだ。
そういえば近くにいた大人たちが妙にニヤニヤしていたので、上手くいったと喜んでいたに違いない。
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さて・・・次は私の番だ。
行きたくないとは思いつつ、行かなければ冷やかされるのも分かっているので私はしぶしぶスタートした。
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墓地までは暗いが舗装されている道なのでそれほど怖くはなかったが、
墓地に一歩踏み入れた瞬間・・・
明らかに空気が変わった。
まるでそこだけ別空間を切り取ったかのように冷たい、しかしじとーっとした空気が纏わりついてきた。
先ほどまで吹いていた風なんて今では全く感じず、あの煩かった虫の鳴き声すら聞こえない。
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当初、これは怖すぎて周りが見えてないんだと思っていたが、空気や音だけじゃなく、わからないがとにかくずっと違和感を覚えていた。
早くお札を見つけて帰らないと何かがヤバい。
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しばらく探索していると、先ほどの違和感の正体に気づいてしまった。
そう、驚かそうと待機しているはずの大人たちが見当たらないのだ。
探索をし始めてから10分は経とうとしてまだ一度も出てきていない。
少なくとも3〜4人は隠れているはずだが、どこを探しても、「おーい」と声をかけてもいない。
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いつのまにか手に持っていたはずの懐中電灯も無くなっていた。
なぜ気付かなかったのだろう。
やばい。
やばいやばいやばいやばい!
とにかく焦った。
冷汗と脂汗を混じらせながら、それでもなぜか戻ろうとはせずお札を探し続けた。
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その時だ。
ふっと、緊張がほぐれた。今までの緊張と焦りが嘘のように消え去った。
安心した、というより何も考えられないような感じである。
そんな状況で唯一思ったこと。
「あっち側に行かなきゃ。」
そう思った時、私自身未だに信じられないがとんでもない行動に出たのだ。
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ここに限らず墓地というものは、墓が並んで置いてあるのが普通だろう。
小道があり、その両脇にお墓が奇麗に並んでいるはずだ。
なのに、
それなのに、、
あろうことか私は、、、
その並んだお墓とお墓の間、人が一人通れるかどうかの隙間をなぜか跨いで通ろうとしたのだ!!
墓石と墓石に手を着いて、あっち側に・・・
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その瞬間!
右手を着いていた墓石が
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shake
ぐらぐらぐらぐらぐらぐら
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揺れ始めたのだ。
手を着いた時に体重をかけたので傾いてしまった。。。
のかと思った。
しかしそれはどんどん速くなり、前後にとんでもない力で揺れるのだ。
音もしないのに。
まるで生きているかのように。。。
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一瞬にして血の気が引いた私は身近に死を感じつつ、それでも、まさに必死でそこから離れようとした。
しかしどんなに進もうとしても右手が墓石から離れない。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
流れ始めた涙も拭けず、ひたすらに謝り続けながら最後には生きることを諦めようとしていた。
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諦めかけた瞬間、気力を無くし力なく後ろに下がった拍子に手が離れた。
爆発しそうなほどの心音と全身を駆け巡る血流を一気に感じつつ、とにかくその場を離れようと思った。
なぜ手が離れたのか、墓石はどうなっていたのか・・・
そんな疑問を浮かばせる余裕すらなく、とにかく心の中で謝りながら一目散にその場から離れ皆のいるスタート地点目指して走り続けた。
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スタート地点に戻ると、意外にも皆何事もなかったかのように僕の帰りを待っていた。
体感だと20分くらいは経過していたように思えたが、現実では10分も経っていないという。
とにかく皆のもとに戻ってこれた安心感と、肝試しから必死に走って逃げ帰ってきたという恥ずかしさから咄嗟に汗を拭おうと右手で額を触った。
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「カサッ」
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・・・ん?
気付かなかったが何か右手に持っている。
見てみると、それは今回の目的であるお札だった。
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ドッドッドッド・・・・
再び心拍数が上昇してくる。
冷汗とも脂汗とも違う、なんとも言えないよく分からない汗が全身から噴き出していた。
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「な、なんで・・・」
独り言のように呟いている頃、後ろから追うようにして大人たちが戻ってきた。
そして周りの大人と何か相談している。
なにやら、驚かす人数を増やしもう少し怖くしようと相談しているようだ。
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動けずにいるとそのうちの一人が話しかけてきた。
大人「いやー○○君、全然怖がらないんだね!怖いの平気なの?」
私「いやいやいや、めっちゃ怖かったですよ!というか皆どこにいたんですか?」
大人「えー!何度驚かしても全然気にせず淡々とお札探して戻って行ったじゃないか。
だから今大人たちでもう少し驚かせ方とか工夫しようって相談しに戻ってたんだよ。」
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言葉がでなかった。訳が分からない。
私は確かに墓地へ行き、そして二度と思い出したくないようなあの体験をしたはずなのだ。
皆は誰を私だと思って驚かしていたのだろう。
そして私はどこにいたのだろう。
右手に持っていたお札は・・・?
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・・・私は誰なのだろう。
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結局それ以降、何があったということもなく生きてこれたのだが、
未だにあの墓地付近を通り過ぎる時は何度も何度も謝りながら通り過ぎている。
ただ、それでもあの墓地の近くを無意識に通ろうとするのは何かあるのだろうか。。。
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いかがでしたでしょうか。
常しえに人の裏には影あり闇あり悪意あり。
されど世に好き予期せぬ出会いあり。
このたびの出会い、お客様にとって好きものであることを願いつつ、この噺にささやかな闇と悪意を含ませ、差し上げたいと思います。
くくく・・・では、またのご来店お待ちしております。
作者ネストン
初めまして。
ついに駄作を投稿してしまいました。。
尊敬する書き手さんもたくさんいて、さらにはその方々による現在進行中の百物語を読んでいるうちにうずうずしてきまして…
初めての書き手。初めての投稿。
小学生の作文レベルですが、どうぞお付き合いくださいませ。
画面揺らす効果も入れてるのですが…動かないです…難しい。。。
そして登場人物のA君もB君も実は全く関係ないっていうね!