うちには両親と私と。歳の随分離れた兄がいる。
まだ幼かった私が、兄に何度も「遊んで~」とせがんでも、「あっち行ってろよ」ってあまり遊んでもらった記憶はない。
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兄は超絶無口で、必要の無い事は喋らない。
思えば両親も、相手にしなかったなぁ~。
~
ある日、両親が結婚式があるとかで不在になる日があった。
よく判らないけど父が偉い人みたいで、母はいつも敬語を使ってたし、二人で留守にすることも多かった。
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・・あの秋口の・・寂しい雨が降ってる夜。
夕方から泊まりに来てる、学友の聖乃さんと毬菜さん、そして私の3人でコワイ話をしてた。
~
すると、いつの間にリビングに来たのか、兄がそこに立っていた。
「あ!兄様!!」友達の前だというのに、私は抱きついてしまった。
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「「こんばんは~」」聖乃さんと毬菜さんも挨拶したが、兄はコクリと頷いただけで挨拶も返さない。
「私の兄よ。悠哉って言うの」紹介したが耳に入って無いようだった。
「あら!お兄様、格好いい!」って。
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兄は目鼻立ちが良く、自慢の兄だったんだけど、滅多に外に・・いや部屋から出てこない。
今夜は機嫌がいいのかな?なんて思ったけど、表情は硬く声を掛けるのも気が引けた。
「沙希?遅くまで起きてないで早く寝ろよ」
それだけ言って、部屋へ戻ってしまった。
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聖乃さんも毬菜さんも、私もポカンとして、その背を見つめた。
「お兄様って、いつもあんな感じなの?」
「ん・・。そうかも。。」
「恰好いいのに、何だか残念ね。。」
~
何だか、話も変な方に向いたので、私達3人は話をやめて寝ることにした。
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聖乃さん、毬菜さんは、こっちのゲストルーム使ってね!
私は、正面の部屋だから。
そういって、それぞれがベッドに潜り込んだ。
~
・・・・・眠れな~い。
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時計は、深夜0時を回った所。
そっとゲストルームを覗いたけど、二人共眠っちゃったみたいだ。
微かな寝息が聞こえる。
~
私は、階下のキッチンで牛乳を飲みながら、さっきより激しくなった雨の音を聞いていた。
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時計のカチコチいう音と雨の音が混じって、淋しくなってきた。
(もう、寝ようかなぁ・・)
そう思った時に、不思議な音を聞いた気がした。
ドーーン。。ドーーン。。え?花火?太鼓?
裏庭の林の方から聞こえるみたいだ。
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ちょっとだけ耳を澄ましていたら、玄関ドアに砂利が当たるようなバラバラッって物音。
(え?何?門の音、しなかったけど・・)
それで、玄関を見に行こうとしたら、階段を下りてくる足音がした。
・・咄嗟に隠れた私。
キッチンからリビングへ抜けて、廊下のドアを薄く開けて窺っていた。
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暗い廊下を歩いてきたのは兄様。。
玄関から少しだけドアを開けると、何かを手渡されたようだった。
渡された物は合羽の様で、頭からすっぽりと被る黒い物。そして兄は嘴の様なのが付いているマスクを着け、黒い物で全身を覆った。
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つい先日、面白いと話題の映画、聖乃さん達との3人で観に行った、ハ〇ルみたいだな。なんて思ったけど、、。どうやら兄は、そのままの姿で外出するらしい。
玄関が完全に閉まった後、私は裏口から出て周りを見渡した。
(・・うん。誰も居ない。よし!)
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私の足音は雨に紛れて聞こえない筈だし、兄の後を追う。
ロウソクの灯るランタンを見つめながら、行列の後ろを隠れながら歩いた。
(・・やっぱり林の中に行くのね・・)
(でも、一体こんな夜中に変な格好して何があるの?気味が悪いわね)
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色んな事を考えてたら、目の前に兄が立ちはだかってるのに気付いた。
(!!!)咄嗟に謝ろうとしたら、口を押えられた。
そして飴玉を私の口の中に放り込んだ。
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「口を開いてはならない。開けば、他の皆にもお前の姿が見えてしまう。いいかい?
決して声を上げたりしちゃダメだよ?
・・・・何を、見ても。絶対に、声を、出すな。いいね?」
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後半は、ゆっくりとだが、恐ろしく強い口調だった。
私は頷くと、また隠れながら行列の後を付いていった。。
~
林の頂上では、キャンプファイヤーの様に火が焚かれ、あの変な格好の人達が輪になって
踊っていた。もっともマスクには嘴が付いてなかったのだけど。
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兄が頂上へ到着すると、輪になって踊っていた人達が全員、その場にひれ伏した。
「おぉぉ!なんと素晴しい。」
「あぁ。なんて輝かしいのかしら」
口々に賛美の声を掛けるのを、私は背丈の高い草の間から見つめていた。
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兄は、まるで当然のように炎の中心に向かい歩を進める。
中心には石の台があり、兄はその台の上に立ち宣言した。
『もはや、私の話すべきことは無し。贄として捧げよ』
~
兄と共に、台の傍らに立った白いマスクの人が、兄から何かを両手で受け取った。
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何かを手渡すと、合羽の様なものを脱ぎ、兄は石の台の上に横たわる。
銀色に光る短剣の様だ。。文様が炎に照らされ、ユラユラと揺れている。
余りに現実味の無い光景は、これから恐ろしい事が起きる前触れの様で怖かった。
白い嘴の付いたマスクの人は、何かブツブツと唱えながら、台の周りをまわり始めた。
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何周か廻ると、高々と短剣を天に向けて・・振り下ろした。
白いマスクに大量の血が飛沫となって、紅く染めた。
・・それと同時に私も気が遠くなった。
(・・・にい・・さ・・ま・・)
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どの位の時間が経ったのだろう。
私は気を失った場所で目が覚めた。まだ空は暗い。さほど経過してないのだろうか?
(!!そうだ!兄様!!兄様はっ!?)
草陰から兄の横たわった場所を見ると、誰も居なくなっていた。
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私は、夢中で走った。(兄様!兄様!!)
炎など初めから燃えてなどなかったように石の周りはキレイだった。
が、石の台には兄が横たわっている。
喉から腹へ。そして両腕を繋ぐように切り裂いた跡。紅い十字架の様に見えた。
滑らかな白い肌と対照的で、何とも痛々しい。
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・・決して声を出してはならない。との約束も忘れ、私は叫んだ。
「兄様!兄様!!しっかりして!」
兄は、そっと私の頭に手を乗せた。
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「あぁ。。沙希。ちゃんと約束を守ったね。良い子にしてたね。」
兄は口など動かしてないが、声が聴こえる。
私は兄に縋り付いて泣いた。
「沙希?聞いてくれるかい?私の本当の名は、セラフィム。悠哉じゃないんだよ」
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「父。いや、神の遣いで世に降り立った。だが、残念ながら私の言葉に耳を貸すものはいなかった。もう時間がない。私が贄となることで、君だけは守れる。。そうさ。もう守ろうと思える者は、君だけだったんだ。」
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私はまだ泣いていた。
「いいかい?私は間もなく消滅する。だけど、いつでも君を守るからね。・・ほら、口から出してごらん?」
兄を追って来た時に口に押し込められた飴玉を取り出す。
「これは、身を隠し心癒すための物。なんだ」
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緑色に、白い翼の様な模様が入っている。
「辛くなったら、それを眺めるといい。さぁ、行きなさい。」
兄に促されるまま、涙を拭いてその場を去ろうとした・・。
一度振り返った時、光の焔で包まれるように辺りが明るくなり、兄の姿は消えていた。
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自室へと戻り、掌に握りしめていた飴玉・・いや。石を眺める。
心なしか温かい感じがした。
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聖乃さんも毬菜さんも起きてきた。
「「おはよう!」」
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私が、俯いてるのを不思議に思ったのか、毬菜さんが声を掛けてくれた。
「沙希さん?どうしたの?こんな素敵なお天気なのに!」
空を見上げれば、晴天この上ない天気だった。
「・・あのね、兄がね・・」
言いかけると、二人とも驚いていた。「あら?沙希さん。お兄様いらっしゃったの?」と。
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「・・・え?あ。あぁ・・親戚の兄様が亡くなったみたいでね・・」
言葉を取り繕うと、二人とも「まぁ!大変!それじゃ私達、お邪魔にならないよう帰るわね!ごきげんよう!」
そういって帰って行った・・・。
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程なくして、両親も帰って来たので、兄様の話を出した。
「父様、母様?悠哉兄様の事なんだけど・・」
両親とも、いつもと変わらぬ笑顔だった。
父が言った「なんだ?もう人形のおねだりかい?」
母も言った「ホント、この子ったら名前まで決めてあるのね」
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(・・・そっかぁ・・・初めから居ないことになってるんだ。悠哉兄様を覚えてるのは私だけ。。。)
そして、私は小さなガラス箱に、あの飴玉をしまいこんだ。
「・・セラフィムかぁ・・悠哉兄様・・」
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昼下がりの穏やかな晴天に、ガラス箱がキラキラ輝いていた。。
私の涙が映っただけかもしれないけど・・。
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石の名は『セラフィナイト』
熾天使セラフィムが、森の泉に現れた姿を模していると云われている。
ラブラドライトと並び、癒しの石として有名である。
作者退会会員
怪談師さま、アワードのお祝いを・・・
駄作ですが、ご査収下さると嬉しいです。
完全なる創作話は、これで二度目ですかね・・・
もう、脳みそ、、、、バーーーーンってなってますw
創作出来る方々、本当に尊敬の眼差しでみてます(*^^*)
なにはともあれ、アワードおめでとうございます!!m(__)m