我が家は玄関を出ると真っ直ぐに道路に向かって数段の階段があり、階段の手前の横に、くの字の壁が作られていて外からは見えないようになっている。
私を含め我が家の喫煙者は、その角に椅子や灰皿を置き、タバコを吸う。
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我が家にはいつからかヤモリが住み着いている。
毎年暖かくなると、去年は見なかった小さな子ヤモリが壁を這っていて、ああ今年も無事子供が生まれたなぁ...と思いながらタバコをふかす。
たまに捕まえて写メを撮り、ヤモリに「ギーッ」と怒られたりもした。
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ある日の夜。
モコモコと暖かい寝巻きを重ねずに外でタバコが吸えるような季節だから、春頃だったと思う。
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夜型の私はいつものように、深夜に玄関の外で赤ワインの入ったグラスを片手にタバコを吸っていた。
ちなみにグラスは手作りだ。
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漫画アプリや怖話、某SNSなどを見ながら3本目のタバコに手をかけた頃。
足元から少し離れたところを1匹の毛虫が這っているのを見つけた。
私は心臓が止まってるんじゃないかというくらい驚き固まった。
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私は毛虫が死ぬほど苦手だ。
Gなら素手で窓の外に投げてやってもいいほどだが毛虫は別だ。
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幼い頃かくれんぼをしている時に、意地でも見つかってやるもんかとアパートの壁を乗り越えようとした時に、
壁に這う毛虫に気づかず素手で押しつぶしてしまい、恐ろしいほど手がかぶれた時以来とにかく苦手になってしまった。
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そんな毛虫が目の前に。
毛虫描いてみて〜と言われたら引かれるくらい精密に描けるほど、強烈なトラウマとなっている毛虫が目の前に。
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吸いかけのタバコを投げ捨てて家に入りたかったが、ヤツが這っているのは私が座っている椅子と玄関のドアとの間。
まっ茶色で毛がびっしりの毛虫。
全身鳥肌が立つ。
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ヤツがいなくならない限り家に入れない。
ヤツが居座るならここで夜を明かすしかない。
私にとってそれくらいの恐怖。
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毛虫を凝視したまま固まっていると、
どこからか1匹のヤモリが現れた。
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いつも壁を這っていて、近づくと逃げるようなヤツが、壁から降りてきて毛虫と私の間に入るようにやってくると、毛虫の方を向いた。
そしてしばらく対峙したかと思うと、毛虫に向かって行き勢いよく嚙みつき始めた。
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毛が口内を刺激しているのか、ヤモリは噛み付いた瞬間すぐに離れる。
毛虫はいきなりの攻撃に身をのたうち暴れる。
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何度もそれを繰り返し、とうとう毛虫は見えないところまで逃げていった。
毛虫が消えると、ヤモリはこちらを一瞥し、さかさかとまた壁を這って何処かへ消えていった。
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毛虫が去り、ヤモリが去り。
ヤモリって毛虫まで食うのか?口ん中痒くないのかな?食うとしたら結局食い損ねたよな??
などと考える余裕が出てくると、もしかしたら助けてもらったんじゃないかと思えてきた。
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なんだか嬉しくなった私は、燃え切ってフィルターまで焦げ始めたタバコを灰皿に入れ、どこへ隠れたかわからないヤモリに、「ありがとね」と言って無事に家に入った。
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その数年後。
いつものように夜中タバコを吸っていると、あの時のヤモリの何世代後かわからないけど、かさかさと若ヤモリが顔を出した。
あ、ヤモリだ。と思ったのも束の間、そいつは突如壁からジャンプ。
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玄関先の壁側に放置された、昔メダカを飼っていた水瓶にダイブした。
その水瓶は長いこと放置したためか、水面は繊維の多い苔や藻に覆われている。
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ヤモリはたまにジャンプするとは知っていたが、イモリと違い水に弱いヤモリ、なんでよりによって水瓶なんかに!と私は慌てて水瓶に駆け寄った。
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案の定、苔や藻に手足を取られもがいているヤモリ。
うわ、ボウフラとかいそう...と思いながらも手を突っ込み、かなり頑丈に絡み合った苔や藻をちぎった。
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なんとかヤモリを救い出すことに成功し、ヤモリを地面に放す。
しばらく動かなかったのでまさか...と思ったが、やがてさかさかと動き出し、壁を登りどこかへ去っていった。
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私は家に入り、「いつかの恩返しができたかなぁ」と思いながら、いろんなモノがついてそうな手を洗った。
作者レイ
怖くはないですがなんだか不思議な体験。
嘘だろ?と思われそうですが実話です。
後々調べたら、はっきりしたことはわかりませんがヤモリは毛虫は食べないみたいです。
イケヤモリ。