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少女の名前は、村崎 紫(ムラサキ ユカリ)
小学二年生。
この年頃の子は紫をユカリと読めない子が多く、クラスメイトからはムラサキという読みから、むーちゃんと呼ばれていた。
そんな少女のお話。
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両親が共働きであまり家に居ないため、祖母がゆかりの面倒を見ており、ゆかりはお祖母ちゃん子だった。
休日になると、祖母に散歩や買い物に連れて行ってもらったりしていた。
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ある休日、ゆかりはお祖母ちゃんと一緒にショッピングモールへ買い物に出かけた。
いろんな服や雑貨などを見てまわり、そろそろ帰ろうかという時、色とりどりの天然石が並ぶ店を見つけた。
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ショーケースに飾られた、赤、緑、黄、青、紫の石達。
ネックレスやブレスレット、ストラップ…ゆかりは初めて見る輝きに心奪われた。
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商品を眺めていると、店の奥に木製の箱の上面にガラスがはめられたケースが目に留まった。
中には天然石の指輪が並べられていた。
横には『天然石シルバーリング全品2000円 サイズ#5~#15』と手書きのポップが貼ってある。
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ゆかりは紫色の石がついた指輪を手に取り、中指にはめた。
自分の名前にもなっている紫。大好きな色。
指輪自体は凝った装飾などついていない、円形の石台に天然石がはめられただけのシンプルなデザイン。
輪の部分に糸でつけられた小さな札には【アメジスト(紫水晶)】と書かれている。
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(アメジストって言うんだ…すごくキレイ)
手を傾けると照明の光を反射しアメジストがきらりと光る。
ゆかりはこの指輪を気に入り、祖母にねだった。
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「あらあら、ゆかりもお洒落する年頃になったんだねぇ…そうだねぇ、誕生日ももうすぐだし…どれ、少し早いけど誕生日プレゼントに買ってあげようねぇ」
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買ってもらった指輪の入った紙袋を大事そうに抱えるゆかりを見て、祖母は優しく頭を撫でた。
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「石にはねぇ…不思議な力があるんだよ、大切に大切にしてあげれば、石の妖精さんがお礼を言いに来てくれるんだよ」
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ゆかりは祖母の言葉を信じ、常に指輪を身につけた。
学校へ行く時はこっそりランドセルに忍ばせ持って行き、帰ってくると指にはめて飽きることなく眺めた。
寝る前には欠かさず柔らかい布で磨いて、小物入れにしまってから眠った。
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ある晩。
時刻はとうに日付を越えた頃、ベッドで眠っていたゆかりは物音で目を覚ました。
体を起こしじっと耳を澄ますと、どこからかカタカタと物音がする。
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(何の音だろう?窓は開いてないし…)
しばらくその音を聞いていると、どうやら机の方からなっているようだった。
ゆかりはそっとベッドから降りると暗闇の中、物音を立てないようにゆっくり机へ向かった。
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徐々に暗闇に目が慣れてくると、机の上に置いてある小物入れがうっすらと浮かび上がる。
寝る前に指輪をしまった小物入れだ。
よく目を凝らして見ると、それはカタカタと小刻みに揺れていた。
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ふと祖母の言葉が脳裏によぎった。
(もしかしたら、妖精さんが来てくれたのかも知れない!)
ゆかりはデスクライトを点け、緊張で震える手で小物入れの蓋を開けた。
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小物入れの中には、手のひらほどの大きさの人がしゃがんでいた。
首にはあの指輪がかかっていて、時折ゆらりと浮く。
そしてソレはゆっくりと立ち上がると、ゆかりの方を見上げた。
目が合った瞬間、ぞくりと背中に寒いものが走った。
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ゆかりを見上げているソレ。
妖精だと思っていたその風貌は、ゆかりが想像していた妖精とはかけ離れていた。
髪は黒く、全身を黒い布きれのような服をまとい、幼い少女が想像する妖精のような羽など生えていない。
そして人間であれば白目であるはずの部分が、深い紫色に染まっていた。
その紫色の目がじっとゆかりを見つめる。
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蓋に手をかけたまま、ゆかりは金縛りにあったかのように身動きが取れず、ただソレを見ていた。
(妖精さんじゃ…ない…?…なんか怖い…)
怯えた表情で見ているゆかりを、ソレはわずかに目を細めてじとりと睨みつけ、だるそうに呟いた。
『あー…お前、持ち主か…』
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目が合ったまま逸らせない。
「妖精…さん…なの?」
ゆかりはなんとか言葉を搾り出し、ソレに問いかけた。
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ソレはにやりと笑う。
『あー…まぁそんなもんだ。お前、この指輪が大事か?』
ソレはゆかりから目線を逸らさないまま問いかける。
「…うん、き、気に入ったから、ちょっと早いけどお誕生日プレゼントにって…おばあちゃんに買ってもらったの…」
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ゆかりが問いに答えると、ソレは再びにやりと笑った。
『へぇ…じゃあ、コレ、お前にやろうか?』
ソレの言うことが理解できず、ゆかりは言葉に詰まった。
(この指輪は私が買ってもらったもの…私のものなのに…お前にやろうってどういう…)
『もう一度聞く。コレ、お前にやろうか?』
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考える間も与えず再度問いかけられ、ゆかりは無意識に頷いた。
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ゆかりが頷いた瞬間。
一瞬、視界がぼやけた。
ほんの一瞬の出来事だったが、視界が再びはっきりすると、景色がまるで違っていた。
そして目の前には先ほどのソレが自分の何倍ほどの大きさになり、自分を見下ろしている。
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「え…?あれ…?」
ゆかりが目をこすりながら見上げるとソレは一言呟いた。
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『約束どおり、それはお前にやるよ』
その言葉を聞いた途端、首にずしりとした重みを感じた。
いつのまにか首には、白く光る金属の大きな輪がかかっていた。
大きい輪といっても頭より小さいため外せそうにもない。
輪の一部には円形の石台がついている。
その石台にはアメジストがはめこまれ、デスクライトに照らされ淡く光っている。
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「え…指輪…?なんで…」
ゆかりは頭の整理がつかないまま、再度ソレを見上げた。
自分より何倍にも大きくなったソレは、何も言わずにやりと不気味に笑った。
その歪められた目は紫色の部分が徐々に白くなっていく。
ゆかりはいまだになにが起こったのか理解できず、ただ呆然とソレを見つめるしかなかった。
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そしてその視界は、徐々に紫色に染まっていった…
作者レイ
自分の創作キャラの説明文を、どうにか怖い話にならないかと書き加えてみました。
怖くはなりませんでしたが…;
もともとの指輪の精の設定はこんな恩知らずじゃないです。
大事にしてくれた人にお礼を言うためだけに出てきたギャグキャラです笑