ねえ、あなた。
また今年も、みかんが実をつけたわ。
まだ小さくて青い実だけど、ちゃんとみかんの匂いがするのよ。
みかんだけじゃないわ。
今年の初夏に植えたさつまいもも、すごく大きく育ったのよ。
夏にはとうもろこしも獲ったし、茄子もとても良い形の物がとれたのよ。
あなたがいなくなって、もう3年も経っちゃったのね。
あなたは不器用で、農業に向いてなかったわね。
あなたが言う通りに作物を育てると、ことごとく失敗したっけ。
サラリーマンだったあなたは会社をクビになって、職もなく、仕方なくこの田舎で私の実家を頼って、農業をはじめたのよね。父も母も、あなたが職を失って心配したけど、農業を継いで、一緒に暮らしてくれるってことで、本当は喜んでいたの。私は一人娘だったから、帰ってきたのがうれしかったんでしょうね。
あなたは、農業になってからもヘマをやらかして、でも、決してそれを認めずに、すべて私の所為にしたわよね。
あなたが間違ったやり方をして、私が指摘しても聞かなくて、結局ダメになったら、お前が言わないのが悪いと言って責めたしね。お前が水やりを怠った、肥料のやり方を間違えた、病気になったのは、お前が農薬を間違えた。
なんでも私の所為にして、知らぬ顔をしていたけど、私はずっと、この人は不器用な人で、元々は私のように、百姓仕事をしたことがないのだから、仕方ないと我慢してたの。
でもね、私にも我慢ができないことくらいあるわ。
あなたが、あんな、自分の娘くらいの女と、しかも納屋であんなことをしているなんてね。
あの娘は、私の幼馴染の子供なのよ。
この田舎で、そんなことが知れたらどうなるのかとか、考えたことがある?
ところで、このミラクルリサイクルって凄いわね。
画期的な商品よ。
畑の横に置いてある、大きな蓋つきのバケツみたいなの。
家庭で出る生ごみはもちろん、枯草や、枯れ木をこの中に入れて、発効促進剤と、バイオ資材を入れておけば、微生物がすべて分解してくれて、すべてが肥沃な土となるんですものねえ。
最近の物は、薬剤の技術が進んでいて、動物の死骸までも分解してくれるんですって。
すごく便利ね。あなたが買ったもので、これだけが役にたってるわ。
あなたが土になって、こうして、毎年、実り多い秋が訪れるの。
これって最高のリサイクルじゃない?
家庭のゴミが、こうして毎年役にたってるんですもの。
美佐子は、たわわに実ったミカンを一つもぎ取ると、皮をむいて口に放り込んだ。
あなたのミカン甘いわ。
美佐子は、秋の収穫を楽しんでいた。
毎日毎日、収穫した秋の味覚を楽しんだ。
「美佐子、お前顔、どうした?」
ある朝、美佐子の父親が、美佐子の顔を不思議そうに見た。
「なあに?お父さん。」
寝ぼけ眼で、目をこすり、顔に何かついているのかと頬をなでた。
ジョリ。
え、何この感触。
美佐子はあわてて、鏡を見た。
なんで?女なのに髭が?
その日から、美佐子の体はどんどん変化していった。
豊満な胸はどんどん小さくなり、顔も顎がやけにごつごつしてきて、眉毛が濃くなっていった。
しかも、顔も、どんどん人相が変わって行き、まるで男のように変わっていった。
「なんで!いったい何が起こってるの?」
美佐子はヒステリーを起こして声を荒げたが、その声もまるで男のようだ。
男というより、どこかで聞いたことのある声だ。
「お前、相変わらず、説明書読まないんだな。」
美佐子の脳の中で、声が響いた。
誰?
薄々、美佐子にはわかっているけど問うた。
「ミラクルリサイクルは、動物も分解するが、その遺伝子情報が土に残るんだよ。土が情報を記憶する、だから、動物は入れないでください、って書いてなかったか?ミラクルリサイクルは植物性のゴミ限定だ。」
何それ、知らない。
「どうだ、俺になった気分は。これからは、ずっと一緒だぜ。死ぬまでな。」
作者よもつひらさか