その日は物凄く寒かった。
雪こそふっていなかったが、逆にそれが不思議なぐらいに。
今年初の暖房起動。
電気代とか気にしてる場合ではない。
出掛ける用事もないし今日は家でゴロゴロしよう。
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布団に寝転がりパソコンで怖い話や動画など。
怖いのでTVを点けておく。
昼間からビールをグビリ!
最高の休日です。
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そのうち文章を読むのも疲れてきて一旦休憩し、仰向けになる。
TVから大好きな名曲が流れてくる。
いい曲だな、何度も聞いてきたから自然と和訳が頭に浮かぶ。
そういえば霊感を持ってるか調べられるって方法があったな。頭の中で家に入り一つずつドアを開けて…っていうやつ。
いい機会だし、やってみるか。
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曖昧ではあるが結構簡単に再現出来てる。
玄関から入りすぐにあるトイレのドアを開け、キッチンの食器棚を開け、風呂場のドアも開ける。
念のため洗濯機も。冷蔵庫も開けてしまえ。
今のところ誰もいない。
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さあ、問題はここからだ。
ついに部屋のドアを開ける。
いつもの風景が広がった。
誰もいない。
この部屋で開けるものはクローゼットぐらいだ。
クローゼットのドアを引く。
異常はないようだ。
窓も開けた方がいいのかな?
開けておこう。
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鍵を開け窓を開けたそのときだった。
風が口に当たった。頭の中で、じゃない。
現実の自分の口に、である。
生ぬるい。暖房だろうか?
いやさっきまでこんな風は感じなかった。
窓は締め切ってある。
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風は少し当たって止んで、また少し当たって止んで、を繰り返す。
このタイミングは…
そうだ…
呼吸だ…。
目をつむっているのにハッキリとその情景がわかる気がする。
気のせい気のせい。
自分に言い聞かす。
そのときTVから音が消えた。
ある程度点けっぱなしだと勝手に消える設定にしてある。だけど二時間も経ったかな?
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いつの間にか想像とは思えないぐらいリアルな風景になっていた。
辺りを見回し、その次に視線が下に向いていく。
そしたら居たよ、そこに居たんだ。
さっきまで誰も居なかったのに、布団に寝てる俺らしき奴が。
顔が見えない。誰かが跨いでいるからだ。
禿げ頭で真っ白な、とても細い体つきをしていて男か女かもわからない。
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頭の中の出来事が理解できずにいるうちに体にも異変が起こる。
至るところが痺れる。
体が動かないと言うより動かし方がわからないって感じ。
金縛りか?
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頭の中の俺は布団が掛かっているから体は見えないが、とても生きてる感じがしない。
死んで布団に横たわっているのと生きてる人が布団で寝てる違いがはっきりわかるように。
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跨がってるやつの顔がプルプル震えだした。
そしてゆっくりと、段々と振り返る。
その顔には目が無かった。鼻も耳も無い。
唯一口だけがあった。
唇は青白いどころではなく、もはや灰色だ。
生気を全く感じない。
普通の人間では不可能な所まで首がまわり、そしてまたゆっくりと元の位置に戻っていく。
寝ている俺と向かい合うかと思ったそのとき、すごい勢いで振り向いた。
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そして後ろに立つ俺へ顔を向ける。
口がはっきりと俺の方に向いている。
目が無いというのに凝視してるのがはっきりとわかる。
ゆっくりと口が開く。その中に歯は無かった。
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頭の中の俺が震える。いや、現実の俺か?
もうどっちがどっちだかわからない。
口が笑っているような形状に変わった。と、同時に普通なら目があるであろう位置から涙のようなものが流れてきた。
顔の白さのせいか、不気味に際立つ黒い液体。
その液体が口に流れ込み、ヨダレのように溢れている。
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逃げ出したいのに体がすくんで動けない。口は半開きで声もだせない。
そのとき、一瞬で俺の前にそいつは立った。
胸の辺りにある顔がゆっくりと上を向いてくる。
存在しない目が俺の顔を見たそのとき
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shake
「をぉがぁうれぇっ」
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その瞬間を俺はそいつのうしろから見ていた。咄嗟に叫び声を上げ立ち上がり、横にあった本棚を引き倒した。
本棚がそいつと、その前に立つもう一人の俺を押し潰す。
本棚の下から白と肌色の二つの手が見える。
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呼吸を乱しながら見下ろしていると体に激痛が走った。
膝が折れ、腕は体を抱き抱える。
そのとき、
「うぅあろあえぇぇっ」
という声と同時に白い手が床を力強く叩く。
肘を曲げ、震えながら、ゆっくりと這い出てきた。
今のうちに逃げたいが痛みで動けない。
ついに頭が出てきた。
黒い液体まみれの頭がこちらに向く。
俺の姿を確認したのか、またしても口が笑うように開いた。
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その時目を覚ました。
起き上がり辺りを見回す、異常はない。夢か?
いつの間にか寝ていたのか。
ホッと一息つく。心臓がバクバクする。体もまだ震えている。
こんな怖い夢見たことない。
TVから音が聞こえる、それだけで物凄く安心する。
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…ん?
さっき消えなかったっけ?
不思議に思いながらTVの方へ顔を向ける
。
消えてる。
じゃあなんの音?
恐る恐る顔を正面に向けたそのとき、
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shake
「うぉがらあっ」
作者こが