子供の頃は夜一人では寝れませんでした。トイレなんてもってのほか、昼間でも怖がっていました。
トイレの壁は石膏のような材質がそのまま出ており、壁紙が貼ってあるようなオシャレなものではありません。当時はどこもそうだったんでしょうか?友人の家とかどうだったか覚えていません、皆さんの家はどうでしたか?
その壁には人の顔のようなものが書かれていました。うん、多分顔だと思います。
瓜のような面長の輪郭に長方形が口の辺りに。二つの小さな丸が目の辺りに。なぜか片方だけグルグルと塗り潰されてます。頭にはリーゼントのようなものが乗っています。
顔は正面を向いていますが、その髪らしきものは右を向いています。某国民的アニメのキャラクターのような髪型です。
その絵が真ん中にドーンと描いており、その周りにはその絵をそのまま小さくしたものが円のように描いてあります。仏教の曼陀羅のような構図です。
怖くて仕方ありません。
一体これはなんなのでしょうか?
実は、これを描いたのは他ならぬ僕自身です。
呪われたとか取り憑かれたとかの話ではありません。自分の意思で描きました。ちゃんと記憶に残っています。
ただ何を描きたかったのかが思い出せません。が、多分深い意味はありません。子供のすることなんてそんなものです。
そんな話はどうでもよくて、とにかくえらい怖がりな子供でした。なのに怪談やら心霊ものが好きでよく見てました。
夏の間だけ昼のワイドショー内で怖い話がやってました。沢山の風車がくるくると回っている映像はトラウマです。
古い洋館で大バサミを持った子供に追いかけられるゲームをやってしまい眠れない日々が続きました。
そんな怖がりも成長し、自立を主張する青二才になると行動力が上がります。
心霊ビデオを借りたり心霊スポット巡りをしたりします。
心霊体験をしてみたい、と切に願いました。
呪われる病院、トンネル、映像、曲、絵、等々出来る限りやりました。
しかし成果は得られず平和な日々が続きました。
そのうちインターネットが普及し始め、いつの頃からか「都市伝説」なるものが登場しました。
話の豊富さとレベルの高さに驚愕しました。
そこでも呪われてみました。
ヌイグルミと隠れんぼしたり正方形の紙に星と文字を記入したり公衆電話から携帯に電話してみたり(宝くじが当たる売場を聞こうと思いました)実際に呪われた人の体験談を読んだり、とても楽しませてもらいました。
しかし、待てど暮らせど何も起こりません。
結局今までの人生で僕が経験できたのは「金縛り」ぐらいでした。(ラップ音らしきものを聞きましたが多分気のせいです。)
ただ残念なことに金縛りは睡眠障害の一種だということが判明してます。
何度も経験しましたし、あろうことかコツのようなものをつかみ、かなり高確率で出来るようになりました(毎回ではありませんが、あ、起きたかな~位のとき無理やり手足を動かそうとするとなってしまいます)
ただ昔から言われていることだし全くの無関係ではないんじゃないかと思うんです。
一つだけ忘れられない経験があります。
初めて金縛りになったときなんですが、当時僕は高校一年で夏休みの真っ最中でした。
宿題も勉強もせず遊び回り、昼過ぎまで寝てる「学生」という大義名分を得た最強のニートでした。
ある夜ふと目が覚めると体が動きません。
何が何だかわからず混乱していました。
「え!?なに、え!?」と頭の中で繰り返します。
恐怖で目が開けられず動かない体で精一杯もがきました。
一瞬のことなんでしょうがかなり長く感じます。
ようやく解放され一息つくと、今度は高揚感が湧いてきます。時計を見ると深夜2時になるかならないか。一人で舞い上がってました。
深夜にもかかわらず家の電話がなりました。2~3コールで消え、そのあと
ドンドンドンドン!
とすごい足音が響きます。
部屋の前まで来たかと思うとドアが勢いよく開きました。
そこには母親がいました。ノックぐらいしてください。
僕が今しがた自分の身に起こったことを話そうとするより早く母親が口を開きました。
「お婆ちゃん死んじゃった」
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少し前から祖母は体調を崩し入院してました。僕は婆ちゃん子だったのでよくお見舞いに行きました。
その日は昼から友人と会う約束をしてたので午前中にお見舞いに行きました。
年頃のせいか、照れ隠しか、憎まれ口を叩く僕を優しい笑顔でもてなしてくれました。
「じゃ、また近いうちくるよ」「うん、またね」
これが最後の会話になるとは夢にも思いませんでした。
出来すぎた話です。
偶然が重なっただけだと僕も思います。
しかしこう思わずにはいられません。
あれは祖母だったのでしょうか
もしあのとき目を開けていれば祖母に会えたのでしょうか
因みに二回目の金縛りを経験するのはそれから十年以上経ってからでした。
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今現在僕は同世代の人達に比べあらゆる面で差をつけられています。ひょっとしたらこれこそ呪いなのかもしれません。
作者こが