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中編5
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約束

20年前の僕が小学四年の夏の日のことだった。

 毎年、夏休みは祖母の家で過ごすのが恒例になっていたのだが、都会育ちの僕が、一夏だけ田舎で過ごす……当然、友達なんかいなかった。

 同年代の子達も、余所者の僕をチラ見するくらいで、話しかけては来ないし、僕も話しかけない。

 だから、毎年、夏休みは憂鬱だった。

 一人で山に虫を取りに行ったり、川で魚釣りしたり……そんな毎日に飽き飽きしていた。

 同じ毎日を繰り返している内に、僕は退屈をこじらせ、ついに隣町まで足を伸ばした。

 隣町はまぁまぁ栄えていたが、所詮は田舎……僕のいる町よりは寂れた町だった。

 僕はただ、適当に町中を自転車で流した。

 細い路地を抜け、少し広い道に出ると、褪せたコンクリ製の二階建ての建物があった。

 平たくて、一階部分に三枚並んだ閉まっている大きなシャッターがあり、一見すると廃工場だった。

 その建物の二階のベランダには、肩までの黒髪を下ろした少女が立っていた。

 円らな瞳の可愛らしい女の子で、僕の二つ下くらいに見えた。

 僕が見上げていると、少女は僕に気付き、ニコリと微笑んで手を振った。

 僕も少し照れながら、手を振り返す。

 すると、少女は僕に手招きした。

 自転車を降り、ベランダの真下まで行くと、少女はしきりに下を指差した。

 ベランダ下のシャッターのことだと思い、大きなシャッターに手を掛け、力一杯持ち上げると、シャッターは重いながらも少しだけ上がった。

 僕はその開いた隙間から潜り込み、中へ入る。

 外は日が高かったが、中は薄暗く、ホコリっぽい。

 乱雑に床に転がった発泡スチロールの欠片や壊れた木箱を見て、水産工場だと分かった。

 僕は少女がいた二階への階段を探す。

 今は動かないダムウェーターの傍に、階段を見つけた。

 そこを上がり、二階に行くと、右側は窓のない煤けた壁、左側に冷たい鉄製のドアが奥に向かってぽつりぽつりと並ぶ、一本道の細い廊下が伸びていた。

 僕は少女がいるであろう部屋のドアに向かって歩き出し、突き当たりに一番近いドアを開ける。

 部屋の中は外の光が射し込み、明るかった。

 部屋の大きな窓の外のベランダに、少女がこちらを向いて立っていた。

 「どっから来たの?」

 気さくに僕に話しかける少女に、僕は嬉しくなって答えた。

 しばらく話していると、少女が「かくれんぼしようか?」と言ってきた。

 これだけ広いんだ……隠れる場所なんて一杯ある。

 僕は快諾して、かくれんぼをすることにした。

 ルールは工場から出てはいけないこと、百まで数えたら捜索開始すること、そして、必ず見つけること。

 じゃんけんをし、一発で僕は負けた。

 僕は百まで数え、捜索を開始した。

 まずは二階の部屋、今いる場所以外は二部屋しかないから、簡単だった。

 シートを捲り、空の段ボール箱をどかしたりしたが、あの子はいなかった。

 既に一階に当たりをつけていた僕は、すぐに一階に降りた。

 ダムウェーターの扉を開けたり、空の発泡スチロールの箱を蹴散らしたり、積み上げられた木箱の間をするすると通り抜けながら探したが、あの子はいなかった。

 探してないのは、高い壁に隣接している錆び付いた業務用冷蔵庫だけ……もうここしかない。

 ズラリと並ぶ扉を片っ端から開けていく。

 いない…いない……いない………。

 開けても開けてもあの子の姿はなかった。

 最後の扉を開けたが、やはりあの子はいなかった。

 担がれたのか……。

 僕は悔しさと悲しさで、廃工場を後にした。

 その日の夕方、突然両親が迎えに来て、僕は町へ行くこともなく、そのまま都会へ帰った。

 都会に帰ってすぐの夜、あの子の夢を見た。

 夢の中のあの子は暗い所で屈んで泣いていた。

 話しかけようと、あの子の肩に手を置こうとした時、あの子はクルリと首を向け、怒りと悲しみを含んだ形相で僕を見上げて言った。

 「必ず見つけるって約束したのに……許さない!!」

 僕は恐ろしさのあまり、声を上げて飛び起きた。

 その日以降、夏休みだろうが、祖母の家に行くことはなくなった。

 しかし、その夢は毎日20年間続き、まさに悪夢の日々を過ごしていた。

誰にも打ち明けられず、ただひたすら夢の中の少女に謝る夜を続けてきた。

 そして、祖母が死に、葬儀のために久々にやって来た田舎。

 さらに過疎化は進み、あの町も人の気配はまばらになっていた。

 祖母の納骨の後、僕はあの廃工場へ向かった。

 20年の時が、無情にも建物を蝕み、風化は進んでいた。

 僕は錆び付いたあのシャッターを力任せにこじ開け、中へ入る。

 あれから誰も入ってないのだろう……ホコリの量は多くなったが、他は見覚えがあった。

 僕は二階から探した。

 同じルートを同じように探したが、やはり二階はハズレのようだ。

 本命の一階に降り、またダムウェーターを開けた。

 いない……。

 高々と積まれた木箱も、僕が成長したせいか、低く感じた。

 もう隙間を縫うようには入れない体になっていた僕は、木箱を退かして探したが、ここもハズレだった。

 どうしても冷蔵庫が怪しい……。

 僕は冷蔵庫の扉を次々に開けていった。

祈るような気持ちで、冷蔵庫の扉を開けていく。

 ことごとく空の冷蔵庫を見て、苛立ちまぎれに天板を殴りつけた時、ふと、僕は気づいた。

 子供の頃、見えなかった冷蔵庫の天板を見て、奥に隙間を見つけたのだ。

 まさか……。

 僕は服が汚れるのも構わずに冷蔵庫の上に乗り、壁との隙間に目を凝らした。

 そこには、小さな黒い塊が横たわっていた。

 「ゴメン……やっと見つけてあげられたね」

 僕は廃工場を出て、警察に通報した。

 後の警察の調べで、あの子は水産加工場の娘で、22年前に行方不明になっていたことが分かった。

 一日中動いていた冷蔵庫のモーターが、あの子を腐敗させることなく、ミイラ化させたため、誰も気づかなかったのだろうとのことだった。

 20年越しの約束を果たせた今、あの子が夢に出てくることは……もうない。

Concrete
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鏡水花様

わたしから見たら神ですよ。

50話以上も消えたんですか⁉

1話100万円なら、ざっと5000万円の損失ですよ⁉

読みたかったです……。

なんでもっと早くこのサイトに登録しなかったんだ‼
言え‼
何でだ‼
(錯乱)

休日は皆様の作品にガシガシコメントさせていただきますよ。

早く日曜日にならないかな……。

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とんでもないです(((◉□◉;)))))

雲の上のお方と言うのは、今月の上位にいらっしゃる方達です(⁀▽⁀)

嗣人様、まめのすけ。様、群青様、よもつひらさか様。
どの方のお話しも外れがなく、間違いなく面白いです(*´ω`*)♬

特に、まめのすけ。様、よもつひらさか様は、作品数も多く、私の憧れです(//艸//)

私は一度退会をしまして、それまで投稿をしていた53~5作品を削除してしまいました(^^;)
復帰しましたのが11月の終わりで、今は投稿作品はアレだけなんです( ̄▽ ̄)ww

そして、突然に素晴らしい新人さん達が増えて、未だ皆さんのお話しも読み切れない状況ですが、少しずつ拝読させて頂きますので、もう少しお待ちくださいね(*´ω`*)♬

力のある書き手さんが増える事は、本当に嬉しい(*´艸`)

微力ながら、全力で応援して行きます(*゜▽゜)ゞ

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ふたば様

やだ……照れちゃう(/≧∀≦\)

そんなに深く考えて書いてませんでしたなんて言えない空気になってますよ……。

ス、スゴいだなんてとんでもないですよ!
(;・Д・)

たまたまいい感じで出来上がっただけです。

皆様のレベルの高さに戦々恐々してますもん。

今夜はいい夢が見られそうです。

本当にありがとうございます‼

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鏡水花様

お褒めの御言葉、恐縮至極です。

創作怪談を発表する企画があり、ムチャブリに何とか応えただけでしたが、苦労して書き上げた甲斐がありました。

レベルが雲の上にいらっしゃる方々からの有り難い御言葉に、もうテンパりすぎて小躍りしちゃいます。

独り暮らしで良かった……。

鏡水花様の作品も、楽しませていただきますね。

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mami様

こちらでもコメントありがとうございます。

この作品は企画参加ものだったので、大変でした。

そして、身に余る御言葉に恐縮するばかりです。

作品の良し悪しは作者には分からないので、感想をいただけるだけでも有り難いのに、暖かい御言葉をくださり、本当に感謝しております。

今はいろいろ書き貯めた作品をアップしているので、新作はまだ書いていませんが、沸々と意欲が湧いています。

本当に本当にありがとうございます。

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いさ様

ありがとうございます。

この話は、なかなか苦労して書き上げた作品です。

制約の中で、どれだけ怪談に出来るかに挑戦しました。

いつもなら、オチ→キャラ→ストーリーの順に作っていくのですが、三題を盛り込むためにストーリー→キャラ→オチの順に作らなければならなかったので、オチの部分は弱いかなぁ……と思っていました。

慣れないことに挑戦したので、元よりない自信が、さらになくなるというデフレスパイラルに陥っていたので救われました。

何かコツのようなものがありましたら、是非ともご教授くださると嬉しいです。

暖かい御言葉、誠にありがとうございます。

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