大学三回生のお正月明け、神様の出てくる話は信じないポリシーを貫く私は、初詣にも行かず、寝正月を決め込んでいました。
こたつは人をダメにするのは本当です。
必要最低限以外はこたつで過ごすという怠惰な生活を送っていると、インターホンが鳴りました。
来やがった……。
私の至福のぬくぬくタイムを邪魔するヤツなんて、アイツしかいない……。
私は初めて居留守を使うことにしました。
出るから入れなきゃならないんだ……なら、出なきゃ入れなくていいんだ!!
もっと早く気づくべきだったことに、若干呆れながらも、暖かいこたつに入ってぶどうゼリーに舌鼓を打っていると、玄関が騒がしくガチャガチャします。
寝転んだまま、玄関に目をやっていると、ガチャンとドアが開き、A子と管理人がバタバタと入って来ました。
「アンタ!!大丈夫!?」
私に駆け寄り、グラグラと揺さぶるA子を呆然と見ていると、A子はギュッと私を抱き締めます。
「良かった!!返事がないから、アタシ…てっきり……」
縁起でもないこと言わないでよ……。
抱き抱えられる私に、冷たい刺すような視線を向ける管理人に、私は申し訳なさそうに笑うしかありませんでした。
管理人が帰った後、A子がケロッとして私に言います。
「ちゃんと出ないと、こうなるんだよ?」
確信犯か!!
私はいつかA子を訴えてやろうと思いながら、「ゴメン……」と謝りました。
「最近、アンタの様子がおかしいと思って来てみたら、やっぱりだよ」
A子を避けてるのは、標準仕様だけど?
そう言いかけるのを自制して、A子を見ると、A子はあろうことか、窓という窓を全開にしていきます。
「ちょっ……止めてよ!!寒いじゃん!!」
私がこたつシェルター内に避難すると、後ろからA子の悪魔の腕が私を引きずり出そうとしました。
「止めてぇぇ!!鬼ぃ!!悪魔ぁぁあ!!」
私はこたつの足を掴んで、必死に抵抗しましたが、A子がこたつをグイッと持ち上げます。
こたつは宙に浮き上がり、あえなく私は天国から寒風吹き込む部屋の床に投げ出された格好になりました。
「さ…さぶい……死んでしまふ……」
ガタガタと震える私の背中に、A子が何やら指で書き始めると、あまりのこそばゆさに身をよじりました。
「動くんじゃない!!」
A子は一喝して、背中の指を首元へ跳ね上げると、うなじの辺りをむんずと掴み、勢いよく引っ張ります。
グワッと体の中から何かが出ていくのを感じた私は、A子に振り向きました。
「何したの?」
私の問いかけに、A子はニンマリと不気味に笑って言います。
「とうとう入り込まれるようになったねぇ……」
は?入り込むのはA子じゃん……。
私の訝しげな視線に、A子は口角を歪めて言いました。
「アンタ、こないだ猫の霊が部屋に入ったの覚えてるよね?」
「うん、あの時はありがとね……で、それが何?」
じわじわと嫌な予感が滲むのを感じていると、A子が開け放った窓を閉めて回りながら言いました。
「今度は中に入ってたよ?アンタの体の中!!」
何ソレ……。
「憑依ってヤツだよ。アンタいっつもカイロやら厚着して暖かくしてるでしょ?」
「冬なんだから当たり前じゃない」
私が突っかかると、A子は苦笑して言います。
「普通はそれでいいんだけど、アンタの場合は何でか動物霊が寄り付きやすくてね……特に猫がアンタをお気に入りなんだよ」
マジか……。
「だから、外にぶん投げてやったよ。どう?体が軽くなったでしょ?」
確かに、こたつがそんなに恋しくない……。
「人が寄り付かない分、猫の霊が寄ってくるとは、御愁傷様だね」
やかましい!!
言わなくていいことを言いながらも一泊していったA子の背中を見送りつつ、A子との付き合い方を考えさせられたのは、また別の話です。
作者ろっこめ
読み専とは言いながらも、やっぱりせっかく書いたので、これから週1ペースくらいで投稿してみようかなと思います。
お目汚しとは思いますが、お暇潰しになれば幸いです。
下記リンクから前話などに飛べます。
第9話 『恋文』
http://kowabana.jp/stories/28130
第11話 『溜め息』
http://kowabana.jp/stories/28183