フフフ、どうも皆様初めまして......。
私ですか?フフフ......私に名など御座いませんよ......。
そうですね......「カタリヤ」とでも言いましょうか......。
語り屋でもカタリヤでもお好きにどうぞ......。
今宵、皆様に世にも奇妙な話を致しましょう......。
何......何も変哲もない怪異の話ですよ......。
フフフ......「人」と「怪異」、その2つの存在が出会う時、世にも奇妙な物語が生まれるのです......。
それでは今宵皆様にお話するのはとある男と狢の話です......。
フフフ......興味が出てきたようですね......。
それではお話するとしましょうか......。
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あるところに男が1人おりました......。
男は一人暮らしで、坂を登った古いアパートに住んでいました......。
ある夜男が帰宅すると、その窓が開いておりそこに猿のような生物がこちらを見ていました......。
shake
男は驚きました......。
通常の猿よりも大きなソレは、ギョロッとした二つの眼で男を見ていたのですから......。
男は包丁を手に取ると、ソレを追い払おうと近付いて行きました......。
しかしソレは逃げ出すどころか、逆に男に襲い掛かってきたのです......。
shake
男は咄嗟にソレに包丁を刺してしまいました......。
男に刺されたソレは悲鳴を上げると、その場から血を流して飛び出していきました......。
男はその夜、布団にくるまりながらガタガタと震えて一夜を過ごしました......。
フフフ......気の弱い男ですね......。
えっ?早く続きを話せって?......フフフ、せっかちな方ですねぇ......。
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翌朝、男は寝不足のまま出勤しました......。
しかし昨夜のアレが頭から離れず、男はその日仕事に集中出来ませんでした......。
その日の夜、男が帰宅するとまたしてもあの生物が窓に座っていました......。
shake
男は驚いてその場に固まってしまいました......。
男は後悔していたのですよ......。
何故なら咄嗟にとは言え、罪も無い生物に怪我を負わせてしまったのですから......。
フフフ......そうです。
男は虫も殺せないほどに優しい性格だったのです......。
しかし男は直ぐに気づきました......。
目の前にいる者は昨夜の者とは違う、と......。
男は言いました......。
「お前はもしかして昨夜の者の家族か?」
しかし目の前のソレはなにも言いません......。
ソレは男に近寄ってくると、男に手を伸ばしてきました......。
殺される......。
男は直感しました......。
何故ならソレの表情は憤怒に塗れていたからです......。
誰だって、大切な者を傷つけられたら怒るに決まっている......。
男はそう思うとソレの前に土下座して懇願しました......。
「俺を殺してお前の気が済むのなら、俺は一向に構わない!しかし暫く待ってくれ、もう少しで俺は故郷へと帰る。よってここを引き払うことになるのだ。それでここにあるすべての荷物を実家へと持ち帰ったら再びここに戻ってこよう......。そして、この部屋にてお前を待つ!その時にお前の好きにしてもいい!」
ソレは暫く考えた後、承諾するように去っていきました......。
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翌日、男はいつも以上に仕事に取り組みました......。
その働き用は、周囲の人々を驚かすほどでした......。
そして男は会社を辞め、故郷の実家に荷物を運び始めました......。
三日かけてすべての荷物を運び終えた男は、最後に両親に「最後にやらねばならないことがある。」と言って、約束を果たしに行きました......。
そしてアパートに戻ると、そこには約束通りソレが男を待っていました......。
さて約束通り命を奪おうとしたソレにまたしても男が懇願します......。
「最後に遺書を書かせてくれ......。でなければ両親が俺の死の理由が分からず、悲しみに暮れてしまう。」
ソレは男の懇願を承諾すると、男が遺書を書き終えるまで待ちました......。
そして男が遺書を書き終えると、ソレは待ってましたとばかりに男に襲いかかります......。
しかしここで男が最後の懇願をしました......。
「俺を殺した後は、必ず窓から放り投げてくれ。」
ソレは疑問を抱きました......。
一度抱いた疑問は払拭しない限りいつまでも己の心に留まり続けます......。
ソレは男に聞いてみることにしました......。
『何故、お前はこうも私に殺されたがるのか?』
男は正直に答えました......。
「これがお前から大切な者を奪ってしまった俺が出来る、唯一の贖罪だからだ。」
『そうか......。』
ソレは振り上げた腕をそっと降ろしました......。
男はソレに聞きました......。
「何故、俺を殺さない?」
ソレは答えました......。
『お前を殺してしまえば、私と同じように悲しむ者が出てくる。それでは私の妻を殺してしまったお前と同じ事をすると言うことだ。』
男の目から涙が溢れます......。
「ならば、俺はどうやってお前に詫びればいい?」
ソレは言いました......。
『ならば私の友人となり、私の孤独を癒してくれ。』
気づけば、男とソレは互いに抱き合い、涙を流していました......。
「お前の名はなんと言う?」
男の問いかけにソレが答えます......。
『私に名はない......狢と呼んでくれ。』
「それは友の名としては如何なものだな。そうだ、今日からお前をナジムと呼ぼう。」
『ナジム?』
男が出した名に狢は首を傾げます......。
「狢を逆さから読むとナジムとなるだろう......。それにナジムは『馴染む』とも言える。友になる者としては又と無い名ではないか?」
『なるほど......ならば私の事はナジムと呼んでもらおうか。』
こうして男と狢は互いに友人同士となりました......。
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その後男とナジムは切っても切れないほどの仲となりました......。
そして数十年後、男は天寿を全うして亡くなりました......。
男の葬式に並ぶ者達の中に、ナジムの姿があった事は誰も知るよしはありませんでした......。
その後ナジムは亡き親友の家族を、遠くで見守るのでした......。
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フフフ......如何でしたか......?
何でしょうか......全然怖くなかったですって......?
フフフ......言ったでしょう、これは世にも奇妙な話だと......。
フフフ......そろそろ時間のようですね......。
どこに行くのかって......?
フフフ......秘密ですよ......。
カタリヤは何処からともなく現れ、そして何処かへ去っていく存在ですから......。
フフフ......それでは皆様、またいつか何処かでお会いしましょう......。
フフフ......私も皆様と再びお会い出来ることを願いますよ......フフフ......。
作者語屋
フフフ......解説などと言う野暮な事は無しにしましょうよ......フフフ.........フフフフフフフフフ.........。