電話ボックスに丸い郵便ポスト
見覚えのある景色
冷たい雨が顔にかかる
わたしはパーカーのフードを頭に被った
ふとその手を見る
小さいわたしの手
片方の手袋がない…
もう一度あたりを見回す
息苦しも感じる風景
でも
すべてが懐かしく思える
中学に入る前に離れた町
そう、その角を曲がると
両親とおばあちゃんと住んでいた家ももう見えるはず
早くみんなに会いたい
笑顔で迎えてくれる家族に
きっと前みたいに…
寒いから入りなさいよって
コタツから言ってくれるよね…
ね、おばあちゃん
おばあちゃんに
遠足用に買ってもらったこのリュック
このパーカー
ただいま、って
見せてあげたい
もう少しで会えるよね
手袋をしてない手に雨がぶつかる
長くついた爪の跡がしみる
家の前に誰かいる
誰?
ゆうこ先生?
身体が揺れるたびに
首をガクンガクンと傾げている
その度に首がもげそうになる
もげちゃえよ…
ゆうこ先生が悪いんだからね
春馬先生がわたしに冷たくなったのは
わたしのことを
魔女みたい、なんか言うから
みんなの前で
傷ついたよ
ゆうこ先生が来なければ
春馬先生とわたしはうまくいっていたのに…
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わたしが家の前まで来ると
ゆうこ先生だったそれは
「これ…」
と、言うと
ゆっくりとこちらへ手を伸ばした
半分空を向いた顔は
雨に濡れた髪がだらしなく覆い
その髪から見える目は
魔女と蔑んだあの時のあの目…
わたしが手を出すと
遠足で無くした
片方の手袋が落ちて来た
手袋を握りしめる
土色の水が流れ出した
視線を戻すと
ゆらゆらとそれは通りを歩いていた
わたしは家に入ることもできず
しばらく眺めていることしかできなかった
すこし強くなった雨の中に
それは
少しずつ姿を消していった
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わたしは目を覚ました
白い壁に囲まれた部屋には
温かみを感じさせるものは何一つない
握りしめた手を開いてみる
何もない
先生を押した時のあの感触のほかは
作者月舟
アナフィラキシーの続編を考えてる時に
ふと浮かんだ話を…
駄文にお付き合い下さりありがとうございます!