トントントントン!!
ジャ〜!!
カチャカチャ。
……ん?
何の音だ?
俺は眠たい目を擦りながら、枕元の時計を見る。
まだ六時じゃねぇか?!
ったく…。
何処の馬鹿が朝っぱらから騒いでやがる。
バァン!!
匠「うわぁっ!!」
勢い良く寝室のドアが開かれ、その音に思わずさけんでしまった。
蛍「匠〜!いつまで寝てるの?
もう朝だよ?
朝ごはん作ったから食べよ?」
匠「お前なぁ…。
ビックリさせんじゃねぇよ…。」
俺はダラダラと歩き、朝食が並べられたテ―ブルへ向かう。
蛍「今日学校の帰りに友達と遊びに行きたいんだけど、ちょっとだけ遅くなってもいい?」
匠「男か?(笑)」
蛍「そんな訳ないでしょ!」
匠「なんだつまんねぇなぁ。
分かった。あんまり遅くなるなよ?」
蛍「うん!
ありがとう(笑)
じゃ私、部活あるからもう行くね。
洗い物は置いといてね。
いってきま〜す!」
蛍は元気に出掛けていった。
一人が長かった俺には、蛍との暮らしは新鮮で大変で、でも充実していた。
蛍もそうなんじゃねぇかな?
祓い屋なんて仕事をしている以上、危険な目にも合って来たが、家に帰れば蛍が居た。
それだけで十分だった。
勘違いするなよ?
恋愛感情なんてもんじゃねぇ。
それ位、充実してたんだ。
あっという間。
本当にあっという間に、六年が経っていた。
出会った時は、十歳だった蛍が今は十六歳。
変わらず、優しく明るく育ってやがる。
「ずっとこのままでいいよなぁ〜。」
俺はそう呟いた。
その後、依頼があった俺は外出し、八時頃帰宅した。
蛍はまだ帰ってねぇのか。
ソファーに腰掛けた俺は、早起きのせいか、そのまま眠ってしまった。
蛍「ただいま〜!!」
…ん?
蛍が帰って来たか。
時計を見ると21時。
匠「何だ?
えらく早いじゃねぇか?
男に振られたのか?(笑)」
蛍「そんな訳ないじゃん!
それよりアタシ今、物凄く気分がいいの!」
匠「蛍…?」
俺は帰って来た蛍の言動に何か違和感を感じ、目を向けた。
?!
匠「蛍!お前…それどうした?!」
蛍「なに〜?どうかしたぁ〜?」
匠「何って!お前その目!何があった!」
蛍の目が、髪色とおなじく透き通る様な青に変わっていた。
蛍「あぁこれ?綺麗でしょ?
カラコンじゃないよ?(笑)
正真正銘、アタシの目!」
俺は蛍に駆け寄り問い詰める。
匠「お前、何処で何をして来た!」
蛍「ちょっ!ちょっと!痛いって!
せっかく気分良く帰って来たのに何なのよ!」
やっぱりおかしい…。
青く変色した目は勿論だが、この言動、明らかにいつもの蛍じゃねぇ。
俺は、渋る蛍を更に問い詰め、今日あった事を聞き出した。
蛍を含む五人で、学校帰りにファミレスに寄って、何をするわけでもなくただ話をしていたらしい。
すると友人の一人が、近くの廃ホテルへ肝試しに行かないか?と提案して来た。
女性ばっかりだったのだが、時間も早いので特に危険は無いだろうと、友人達は賛成した。
だが、蛍は、俺が常日頃からそういった場所へは行くなと忠告している事と、自分に特別な力がある事で、行くのを拒んだ。
だが、友人達はすっかり肝試しモ―ドに入っており、蛍は半ば強引に連れて行かれたらしい。
バスに乗り、歩く事、三十分。
目的地の廃ホテルに近付いた時、蛍は嫌な空気を感じ取っていた。
そして廃ホテルに到着した時、蛍は確信した。
「間違い無くこの廃ホテルにはいる。
それも、凄く性質の悪いモノが…。」
そう確信した蛍は、再度、友人達に引き返す事を提案した。
だが、さっきと同じ様に友人達は蛍の言葉に耳を貸さなかった。
そして、遂に友人の一人がホテルへの扉を開けた。
ゆっくりと中に入って行く友人達。
蛍は一番最後にホテルへと足を踏み入れた。
ホテルへと足を踏み入れた瞬間、蛍は妙な違和感を感じた。
が、その違和感の正体は分からない。
先に進む友人達の後を追い、二階へ上がる階段前に差し掛かった時、蛍は違和感の正体に気付いた。
さっきまでは…このホテルに入るまでは、すぐにでもこの場から立ち去りたかった。
でも今は違う。
殺したい。
殺してやりたい。
友人達の事ではない。
このホテルに住まう何者か。
ソイツを見つけ出し、殺してやりたい。
蛍はそう思う様になっていた。
友人達が二階へと上がる階段前を通り過ぎ、一階の奥へと足を進め出した時、蛍は衝動を抑えられ無くなっていた。
違う!そっちじゃない!
殺したい!殺したい!殺す!殺す!殺す!!
その衝動が爆発した時、蛍は先に進む友人達に背を向け、二階へと駆け出した。
階下から友人達が蛍の名を呼んでいる。
だが、蛍の耳には届かない。
二階、三階へと上がる度に、ソイツの気配が強くなる。
蛍はそれが嬉しくて嬉しくてしょうがなかった。
早く!早く!
蛍は一気に最上階である、五階フロアまで駆け上がるとゆっくりと歩き出した。
五階、最奥の部屋。
部屋の前で立ち止まった蛍は、乱暴にドアを開けた。
み〜つけた〜(笑)
真っ暗な部屋の中、カ―テンの閉められた窓辺にソイツはいた。
恐らく女性なのだろうが、髪は半分抜け落ち、顔は焼け爛れ、くりぬいた様に両の眼球は無かった。
普通の人間ならば、腰を抜かす、失神する、絶叫をあげ逃げ出す。のいずれかだろう。
だが、蛍はソイツを見て嗤っていた。
まるで何年も探し続けていた恋人と、運命の再開を果たした如く、蛍は高鳴り、高揚していた。
もう一回殺してあげる(笑)
蛍がそう言うと、ソイツがゆっくりと蛍から遠ざかる姿勢を見せた。
瞬間、蛍は一気に駆け寄り、ソイツの髪を鷲掴みにした。
蛍はソイツの顔前まで顔を近付けた。
もう一回殺してあげる(笑)
そう言うとソイツの顔を殴打した。
何度も、何度も、何度も。
ソイツが消滅するまで蛍の暴力は続いた。
その話を楽しそうに嗤いながら俺に聞かせる蛍。
そして、最後に蛍は言った。
蛍「あの汚い女、凄く怯えた目でアタシを見たの(笑)
あっ、でもあの女、目ないんだ!(笑)」
そう言うと、「今日は疲れたからもう寝る」と部屋へと入って行った。
俺は煙草に火を着けると、ゆっくりと煙を吐き出した。
両頬を涙が流れていく。
嗚咽が抑えられない…。
蛍に気付かれないよう、クッションに顔を沈め、泣いた。
泣き尽くした。
止まらない涙を流したまま、俺は電話を手に取る。
匠「あぁ、俺だ。」
??「ヒヨっかい?何だよこんな時間に!」
電話の相手はババアだ。
匠「ばあさん…。蛍が…。」
婆「始まったんだね…。」
俺は暫くババアと話し、電話を切った。
次の日、俺と蛍は遊園地に来ていた。
昨日とは違い、今日はいつもの蛍だ…。
蛍「匠!ジェットコースター乗ろ!(笑)」
匠「俺、高い所ダメなんだよなぁ…。」
蛍「大丈夫!私が一緒だから!
だから乗ろうよ!」
匠「ったく。お前が一緒だろうがこえぇもんはこえぇっての!」
蛍は俺の隣で、キャ―キャ―言いながらジェットコースターに乗っていた。
その後も蛍がせがむもんだから、絶叫と言われる乗り物には全部乗せられたよ。
笑っちまうのが、俺達二人でお化け屋敷に入った事。
二人共、身体の中に化けモン宿してるってのにお化け屋敷はないよな?(笑)
蛍は作り物の幽霊見て、泣きそうになってやがった。
夕方まで遊園地で目一杯遊んで、晩飯はお決まりのハンバーグ!
幾つになっても、子供みてぇに本当嬉しそうに食いやがるんだよ。
二百グラムが食いきれねぇって嘆いてたなぁ。
その後、店を出た俺達はババアの家に向かった。
ババアは家の前で俺達を待っていた。
婆「蛍ちゃん…。よく来たねぇ…。」
そう言うとババアは裏庭の方へ歩き出した。
匠「蛍?行こう。」
蛍はキョトンとしていたが、ゆっくりとババアの後に続いた。
池に到着したババアが蛍に言う。
婆「蛍ちゃん?水に足を浸けてくれるかい?」
だが、蛍は首を横に振る。
匠「蛍…。」
蛍は下を向き、小刻みに震えている。
その時、ババアが池の水を蛍に浴びせた。
「ぎぃぃぃぃぃぃ〜!!」
蛍から発せられた悲鳴の様な声。
それは明らかに蛍の声ではない。
パァ―ン!!!
乾いた音が響く。
ババアが手を打ち、不動の法をかけた。
蛍の両腕が拡がっていく。
これで蛍は暫く身動きがとれない。
婆「ヒヨっ子!
ぐずぐずしてる暇はないよ!
私は術式の最中だ!
動けるのはお前だけだよ!」
覚悟は出来ていた…。
こうなる事は分かっていた。
ここに来るまではそう思えてた。
でもよ?走馬灯みてぇに流れんだよ。
初めて会った時、椅子に座って涙を流しながら微笑んだ蛍の顔…。
他人には見えねぇ犬を嬉しそうに撫でる蛍の顔…。
キャ―キャ―言いながら楽しそうに笑う蛍の顔…。
子供みてぇに旨そうにハンバーグを頬張る蛍の顔がよぉ…。
俺は動けなかった。
立っていることすら出来なかった。
婆「ヒヨっ子!!なにしとるか!
お前は蛍ちゃんを本当の化け物にしたいんか!!
今ならまだ蛍ちゃんの人格を残してやれる!
はよせんか!!」
蛍…。蛍…。
その時、周りの空気が震え、ババアが後ろへ飛ばされた。
ババア?!
?!蛍は?
すぐに蛍に目をやると、蛍は山の更に奥へと駆けて行く。
ババアはすぐに立ち上がり、蛍の後を追って行った。
俺もいかねぇと…。
分かってはいるが、身体が動く事を拒む。
動け!動け!
俺は拒む身体を無理やり動かし、這うように二人の後を追う。
早く!早くいかねぇと。
涙で前が見えず、身体も動く事を拒み続ける。
「ぎゃあ〜!!」
?!悲鳴?!
俺は必死で声がした方へ向かう。
?!
地面に座り込み、腕を抑えるババア。
それを見下ろす蛍。
蛍はババアを見下ろし嗤っている。
おいおい…。
これじゃあ、俺と同じじゃねぇか…。
過去の記憶が甦る。
母親を殺した俺。
死に行く母親を見ながら嗤う俺。
蛍も俺とおんなじになっちまうのか?
あんなに優しい蛍に人を殺させんのか?
蛍…。蛍!
蛍はゆっくりとババアに向かって手を伸ばす。
俺は二人の元へ駆け出そうとした。
「いっ!」
俺の左肩にある忌まわしいアザに激痛が走る。
痛みで動く事が出来ない…。
くそ!こんな時に何だよ!
蛍が…蛍が人殺しになっちまうんだよ!!
俺の邪魔してんじゃねぇぞ!
くそが!!
俺は身体中に力を込め、崩れかけていた身体を起こした。
ババアの首に蛍の手がかかる。
?!
次の瞬間、俺の腕は蛍の胸を貫いていた。
蛍の身体を傷付けてはいない。
俺の霊体で、蛍の核もろとも蛍に宿るモノを貫いた。
これで蛍に宿るモノは消滅する。
だが、それは同時に蛍の死を意味した…。
ゆっくりと崩れ落ちる蛍を抱きかかえる俺。
匠「蛍…。蛍!」
蛍「匠?どうし…たの?
何で泣いてる…の?」
匠「泣いてねぇ…よ…。
蛍…。ごめんなぁ…。」
蛍「ど…どうしたの?
きょうのた…たくみ変だよ…?」
匠「何でもねぇ…
何でもねぇよ…」
蛍「私…ど…どうしたん…だろ?
何だか…か…身体があったか…いんだ…。
風邪で…もひいちゃった…かな?」
匠「あぁ…。遊園地であんだけ馬鹿みたいに騒いでたら、そら疲れもでるよ!
ほんと…馬鹿みてぇに騒ぎやがってよ…」
蛍「そうだ…ね(笑)
疲れてるの…かも…。
ちょっと眠くなって…きちゃった…」
匠「あぁ…
ゆっくり寝ろ…
俺が起こしてやるから…
今はゆっくり…」
蛍「じゃあ…ちょっとだ…け寝るね…。
匠?私がおき…たら…
ハンバーグ食べにい………」
匠「あぁ!毎日でも、三食ハンバーグでも構わねぇ!だから…だから死ぬなよ!
蛍!蛍!
死ぬなよ〜!!また俺が一人になっちまうだろうが…。」
蛍はそのまま目を覚ます事は無かった。
髪は艶のある綺麗な黒髪に戻り、最後はちゃんと蛍のままで…。
「匠?ハンバーグ食べに行こ?(笑)」
作者かい