SDカードを抜き取ると、カメラをベットの上に放り投げる。そこで僕はやっと人間的な感情を取り戻す。今日のことを思い出して、顔が熱くなる。心臓が凍てついたように冷たくなる。
パソコンの電源をつけ、部屋の鍵がきちんとかけられているか確認をする。
青白く発光するディスプレイが暗い部屋を仄かに照らし出していた。
SDカードをパソコンに差し込み、僕は意味もなくキーボードをクリックした。心臓が高鳴る。背徳的な気持ちになって更に気分が高揚する。自分が人間ではないような感じがする。
青白い光は僕の目を毒していく。その毒は目から注入されて体全体を犯していく。
気づけば、僕は『映像』を見ていた。
映像の中には脱衣所が映っている。特に変わったものはないが、一番最初に目につくのは洗面台に置いてある小さなナイフのようなものだろう。護身用のものなのだろうがああいう刃物が僕は一番怖いと思う。あんなので刺されたらじわりとした厭な痛みが体を襲うのだろう。
程無くして、一人の女が入ってくる。髪の長い女だ。
黒いTシャツを着て、下には少し小さなジーパンを履いている。彼女は誰かに会いに行くとき以外、あまり服装には拘らない。だがそのラフな格好が僕の性欲を掻きたてた。黒いTシャツには彼女の乳房の形が浮き出ており、そこからくびれた腰の線が容易に想像できた。少しきつめのジーパンにも尻、太腿の肉付き具合がよく浮き出ている。全体的に見て彼女のスタイルは抜群と言えよう。それに加え、顔は整っており、綺麗な黒髪は何日見ても飽きない。
彼女は携帯を少し弄った後、それをカゴの中に放り投げ、何の躊躇いもなく衣服を脱ぎ始めた。彼女の白く美しい肌が姿を見せる。白いブラジャーのホックを外すと、程よく盛り上がった二つの乳房が僕の目を癒す。ピンク色の乳輪はとても魅惑的で美麗だ。見とれてしまう。僕はズボンとパンツを下ろして、自分の股間を握った。
彼女の手はジーパンに伸びる。多分、ジーパンは脱ぎにくいのだろう。ジーパンを脱ぐのには少し時間がかかった。
すらっと伸びた足。むっちりとした太腿。普通なら衣服に隠された彼女の姿。そして、彼女はそれを見られていることに気付いていない。
僕の興奮は絶頂に達していた。
そして彼女はパンティーを脱いだ。
彼女は下の毛までも美しい。僕の目は彼女の恥部に釘付けになった。彼女の姿が画面から消えても、僕の興奮が消えることはない。
僕は独り部屋で喘いだ。
彼女は決まって六時三十分に鍵もかけずにコンビニに行く。鍵をかけないのはほんの数分でコンビニから帰ってくるからだろう。僕はその『日課』を利用した。つまり、その数分間で部屋に忍び込み、脱衣所にカメラを設置するのだ。積まれたタオルの中にカメラを紛らせ、外から見ても違和感がないようにする。
最初のうちは勿論、緊張した。バレたら僕は一巻の終わりだ。社会的抹殺では済まされない。生きていられなくなる。
だがそんな背徳的な感情が僕を興奮させた。僕は性欲に勝てなかったのだ。
それから僕は感情が爆発しそうになるといつも『コレ』を行っている。これは何よりも僕の心を落ち着けてくれる。
カメラを回収しに行くのは彼女が風呂を上がって、またどこかに出る時だ。彼女は風呂を上がった後に必ずまた何処かに出かけるのである。何処に行くのかは知らないが、これが絶好のチャンスであった。
彼女はそろそろ帰ってきただろうか。僕が今、何を見ているかなんて知る由もないだろう。
何も映っていない場面を見ていても仕方がないので、僕はカップラーメンでも食べることにした。画面の中から聞こえるシャワーの音を背中で聞きながら、僕はカップラーメンにお湯を注いだ。白い煙がもくもくと僕の視界まで昇ってきては、空気の中に消えていく。
シャワーの音が止まった。いつもはニ十分ぐらい続くのに、今日はやけに早い。カップラーメンの蓋を閉じて、箸を置き、画面の前に戻る。
そこには全身を濡らした彼女が映っていた。濡れた彼女の肌に出来上がった艶はとてもエロティックだった。濡れた長髪が肩に張り付き、乳房に枝垂れて、乳輪を隠している。先程射精したはずなのに、また性欲が湧き上がってきた。
彼女がパンティーを履いて、ブラジャーをつける。そして、だぼだぼのズボンを履いたところで動きが止まった。髪からぽたぽたと水が滴っている。
僕ははてと首を傾げた。
どうしたのだろう。
彼女はゆっくりと首を回すと、僕を見た。画面の中の彼女と目が合う。
彼女は無表情だった。
「バレてないと思った?」
冷徹な声である。人に向けられる声ではない。
「いつもいつもいつもいつもいつも、気持ちが悪い。気持ちが悪いのよ! あんたはああああぁぁぁあ!」
彼女が暴れだす。
「もう我慢できない! あんた、私の行動見ているからわかるでしょう? 私、お風呂に入ったあと、外に出るよね。出るよね!」
彼女はそう叫ぶと、白いTシャツを乱暴に着て、洗面所に置いてあるナイフを引っ手繰って、脱衣所を出ていった。
僕は戦慄した。普段の彼女の面影など微塵もない。
彼女はお風呂を上がった後、今日もいつものように外出した。そして、僕はいつものようにその隙を狙って、カメラを取りにいった。扉を少し開けて、部屋を出ていく彼女の姿をしっかりと確認してから。
だぼだぼのズボンに白いTシャツ――そして肩にぶら下げたバック。
あの中には――。
ピンポーン。チャイムが鳴った。
ピンポーンピンポーンピンポーン。
扉の向こうの人物はかなり苛立っているようだった。
作者なりそこない