大学の卒業を控えたある日、私が籍だけ置いているサークルに、久しぶりに顔を出した時のことでした。
「ねぇ……S君知らない?最近、来てないんだけど……」
幽霊サークル会員の私が知る訳もなく、私は首を横に振りました。
S君はサークルのムードメーカー的存在で、軽い感じのする私の苦手な人でした。
ゼミはサボっても、サークルには顔を出すような人で、その彼が一週間も音信不通なのだそうです。
「何かあったのかな?」
彼を心配する声が飛び交う中、一人のサークルメンバーが私に言いました。
「確か、あなたの友達に霊感が強い子いたよね?」
……そう言えば一人スゴいのが、いたかも知れない。
「A子のこと?」
私が名前を出すと、激しく首を縦に振りながら、肩を掴んできます。
「そうそう!A子さん!!連絡つけてくれない?」
「A子は高くつくよ?それよりまず、彼の住まいに行ってみたら?」
出来るだけ関わらないように努めていた私が、やんわりと拒否しますが、サークルの子は頑なにA子とのコンタクトを取りたがります。
「そんなの構わないから!ね?お願い!!」
私は仕方なく、A子の携帯に電話しましたが、A子は出てくれませんでした。
「……出ないね。とりあえず、S君の所に行ってきたらいいと思うよ?」
バッドタイミングでサークルに来たことを後悔しつつ、部屋を出ると、ぞろぞろとサークルメンバーも出てきて、私もろともS君のアパートへ向かいました。
「あの……何で私まで?」
私の当然の疑問に、さっきのサークルメンバーの子が答えます。
「A子さんと一緒にいるあなたなら、何か分かるかも知れないでしょ?」
何故、そうなるんだ!?
「私は何の力もないよ?ただの根暗な女子大生だもん」
自己弁護も虚しく、S君のアパートに強制連行された私は、部屋のドアの前に一人で立たされ、少し離れた所からサークルメンバー達がジッと見守っています。
私がサークルメンバー達の方を見ると、奴等は早く行けとばかりに、手を激しく振ってけしかけています。
お前らが行けよ!!このやろぅ!!
この理不尽なパワハラに、私は泣きそうになりながらドアをノックしようと、右手の拳を上げた途端、私の携帯が鳴りました。
着信画面を見て、私は初めて前向きな気持ちで電話に出ました。
「もしもしA子?」
私が今いる現状を話そうとする前に、A子の怒号が響きました。
「入っちゃダメ!!」
声が割れてしまうほどの大音量に、私は反射的に携帯から耳を離しました。
「その部屋は入っちゃダメだよ!!今、そっちに行くから、それまで離れて待ってて!!」
言うだけ言って電話を切ったA子に、ただ放心した私は、フラフラとサークルメンバー達の下へ行き、A子が来ることを知らせました。
歓喜するサークルメンバー達を恨めしく心の目で睨みつけていると、A子が血相を変えてやって来ました。
「ちょっとアンタ達!!アタシの親友に何させてんのよ!!張り倒すよ!?」
来るなり、サークルの代表に食ってかかるA子。
私のためにA子が怒る姿を見たのは初めてでした。
「残念だけど、S君はもう助からないよ?もう連れてかれてる……アンタ達がバカなことしたから、こうなったんだ!!」
部屋に入る前からいきり立つA子が、サークルの代表を捕まえて、S君の部屋の前へ引きずり、ドアを開けさせました。
鍵は掛かっておらず、すんなりと開いたドアから流れ出す異臭……それは遺体から出る腐敗臭とは違い、所謂、排泄物の臭いでした。
A子は部屋の中へ代表を蹴り入れ、その後に続きます。
臭いに敏感な私は中へは入れませんでした。
「うわぁぁぁぁあああ!!」
部屋の中から響き渡る絶叫が、その壮絶さを物語っていました。
結論から言うと、S君は死んではいないながらも、心は完全に壊れていました……廃人となったS君は、自らの排泄物を食べ、命を繋いでいたそうです。
後にA子から聞いた話で分かったことですが、サークルは、肝試しと称してとある寂れた山にキャンプへ行き、そこに祀られていた稲荷の社を酔った勢いでS君を煽り、破壊させてしまったそうで、S君は稲荷に祟られてしまったということでした。
「いくらアタシでも神様には逆らえないよ……勝ち目なんかないもん」
A子も神様には勝てないんだ……さす神様。
結局、S君は卒業を目前に退学し、そのまま病院に収容されました。
バカなサークルメンバー達は、大枚をはたいて新しい社を建立し、毎年赦しをもらいに参拝に通っているそうです。
神様なんて信じていない私でも、今回のことを機に、初詣くらいはしようかなと思ったのは、また別の話です。
作者ろっこめ
またもストック放出します。
新作を書きたいけれど、何にしようか全く浮かびません。
オムニバス、A子シリーズ、ろっこめタイムズ、奇告蒐集といろいろありますが、どれがいいのかさっぱりです。
よろしければ、どれがいいか教えてください。
時間ができたら書きたいので。
ご協力お願いいたします。