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中編4
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障る神 【A子シリーズ】

大学の卒業を控えたある日、私が籍だけ置いているサークルに、久しぶりに顔を出した時のことでした。

 「ねぇ……S君知らない?最近、来てないんだけど……」

 幽霊サークル会員の私が知る訳もなく、私は首を横に振りました。

 S君はサークルのムードメーカー的存在で、軽い感じのする私の苦手な人でした。

 ゼミはサボっても、サークルには顔を出すような人で、その彼が一週間も音信不通なのだそうです。

 「何かあったのかな?」

 彼を心配する声が飛び交う中、一人のサークルメンバーが私に言いました。

 「確か、あなたの友達に霊感が強い子いたよね?」

 ……そう言えば一人スゴいのが、いたかも知れない。

 「A子のこと?」

 私が名前を出すと、激しく首を縦に振りながら、肩を掴んできます。

 「そうそう!A子さん!!連絡つけてくれない?」

 「A子は高くつくよ?それよりまず、彼の住まいに行ってみたら?」

 出来るだけ関わらないように努めていた私が、やんわりと拒否しますが、サークルの子は頑なにA子とのコンタクトを取りたがります。

 「そんなの構わないから!ね?お願い!!」

 私は仕方なく、A子の携帯に電話しましたが、A子は出てくれませんでした。

 「……出ないね。とりあえず、S君の所に行ってきたらいいと思うよ?」

 バッドタイミングでサークルに来たことを後悔しつつ、部屋を出ると、ぞろぞろとサークルメンバーも出てきて、私もろともS君のアパートへ向かいました。

 「あの……何で私まで?」

 私の当然の疑問に、さっきのサークルメンバーの子が答えます。

 「A子さんと一緒にいるあなたなら、何か分かるかも知れないでしょ?」

 何故、そうなるんだ!?

 「私は何の力もないよ?ただの根暗な女子大生だもん」

 自己弁護も虚しく、S君のアパートに強制連行された私は、部屋のドアの前に一人で立たされ、少し離れた所からサークルメンバー達がジッと見守っています。

 私がサークルメンバー達の方を見ると、奴等は早く行けとばかりに、手を激しく振ってけしかけています。

 お前らが行けよ!!このやろぅ!!

 この理不尽なパワハラに、私は泣きそうになりながらドアをノックしようと、右手の拳を上げた途端、私の携帯が鳴りました。

 着信画面を見て、私は初めて前向きな気持ちで電話に出ました。

 「もしもしA子?」

 私が今いる現状を話そうとする前に、A子の怒号が響きました。

 「入っちゃダメ!!」

 声が割れてしまうほどの大音量に、私は反射的に携帯から耳を離しました。

 「その部屋は入っちゃダメだよ!!今、そっちに行くから、それまで離れて待ってて!!」

 言うだけ言って電話を切ったA子に、ただ放心した私は、フラフラとサークルメンバー達の下へ行き、A子が来ることを知らせました。

 歓喜するサークルメンバー達を恨めしく心の目で睨みつけていると、A子が血相を変えてやって来ました。

 「ちょっとアンタ達!!アタシの親友に何させてんのよ!!張り倒すよ!?」

 来るなり、サークルの代表に食ってかかるA子。

 私のためにA子が怒る姿を見たのは初めてでした。

 「残念だけど、S君はもう助からないよ?もう連れてかれてる……アンタ達がバカなことしたから、こうなったんだ!!」

 部屋に入る前からいきり立つA子が、サークルの代表を捕まえて、S君の部屋の前へ引きずり、ドアを開けさせました。

 鍵は掛かっておらず、すんなりと開いたドアから流れ出す異臭……それは遺体から出る腐敗臭とは違い、所謂、排泄物の臭いでした。

 A子は部屋の中へ代表を蹴り入れ、その後に続きます。

 臭いに敏感な私は中へは入れませんでした。

 「うわぁぁぁぁあああ!!」

 部屋の中から響き渡る絶叫が、その壮絶さを物語っていました。

 結論から言うと、S君は死んではいないながらも、心は完全に壊れていました……廃人となったS君は、自らの排泄物を食べ、命を繋いでいたそうです。

 後にA子から聞いた話で分かったことですが、サークルは、肝試しと称してとある寂れた山にキャンプへ行き、そこに祀られていた稲荷の社を酔った勢いでS君を煽り、破壊させてしまったそうで、S君は稲荷に祟られてしまったということでした。

 「いくらアタシでも神様には逆らえないよ……勝ち目なんかないもん」

 A子も神様には勝てないんだ……さす神様。

 結局、S君は卒業を目前に退学し、そのまま病院に収容されました。

 バカなサークルメンバー達は、大枚をはたいて新しい社を建立し、毎年赦しをもらいに参拝に通っているそうです。

 神様なんて信じていない私でも、今回のことを機に、初詣くらいはしようかなと思ったのは、また別の話です。

Concrete
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