短編2
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叩く人

少し考えてみて欲しい。

例えば学校に向かう途中、特に何も無い通学路でここはあまり好きではないなという道は無いだろうか。

例えば駅や公共施設のトイレで、ここの個室にはあまり入りたくないなと思うところは無いだろうか。

特に何かがある訳ではない。ただ何となく避けてしまう場所。怖いテレビの見過ぎでそう感じるだけなのかもしれない。

けれど、本当にそれだけなのだろうか。

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部活を終え帰宅すると、家には誰もいなかった。

母の携帯に連絡をいれても繋がらない。買い物にでも行っているのだろう。私は家があまり好きではなかった。何が嫌いかと言われると答えられないが兎に角余り好きではなかった。

しかし、疲れきっていた私はさっさとシャワーを浴びて自分の部屋のベットに横になった。

外は茹だる様な暑さ。蝉の声が煩い位に響いている。けれど風通しの良いこの部屋は窓を開けて扇風機を付ければ十分に涼しかった。

濡れたままの髪が風に揺られ心地良い。部活の疲れもあり、私はあっという間に眠りに落ちた。

どれほどの時間が経ったのだろう。

誰かが二階へ上がって来る音で意識が戻った私は薄っすらと目を開けた。真上にあった太陽が少し西側に傾いていた。

母が買い物から帰ってきたのだろう。

目覚めたのだけれど、もう少し眠っていたかった私はそのまま瞼を閉じた。

すぐにドアが開いて、母は入って来た。ベットの足下に腰掛けて私の様子を覗っている。いつもなら声を掛けてくるのにこの日はそうでは無かった。

暫くすると母は私の足の親指の爪をゆっくりと叩き出した。

カツッ、カツッ、カツッ、カツッ…

ゆっくりと一定のリズムで母は私の爪を叩く。

眠気がピークに達していた私は、思わず母の手を蹴り上げた。

次の瞬間私の膝にとんでもない衝撃が走った。

『ガンッ!』

多分握りこぶしだったと思う。

足先まで走ったあまりの衝撃と痛みに私は飛び起きた。

しかしそこに母はいなかった。

誰もいなかった。

夢でも見たのだろうか?

寝惚けていただけだろうか?

部屋の入り口に目をやった。

ドアが半分だけ開いていた。

次の日私は靭帯を切った。

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