ものの見え方は人によって違う。
その人の視力によっても変わってくるし、もっと難しく言えば視細胞の感度によっても変ってくる。その時の感情や周りの状況によっても変わってくるだろう。
何が正しいのかなんてことは本当は無いのかもしれない。
貴方が赤だと思って視ている色は知らない誰かからすると貴方で言うところの『緑』かもしれない。そういう事だって有り得るのだ。
答えはその人にしか解らない。
separator
高校入学前の部活体験で私には遥と、朋美という二人の友達ができた。少し人見知りな私にはこの事はとても嬉しい出来事だった。わざわざ部活動の為にそれぞれ全く違う地区からやって来た私達は、慣れない環境への不安からかいつも一緒に行動をしていた。
私達の通う高校は、県内でも有名な私立のお嬢様学校で校則もかなり厳しかった。スカートの長さ、指定の靴下、指定の鞄、髪型までもが事細かに決められていた。勿論、携帯電話は持ち込み禁止。
とは言えこのご時世、老若男女問わず誰もが携帯電話を持ち歩く時代。加えて毎日物騒な事件が跡を絶たないこの時代にそんな校則は無意味なもので、生徒達はその殆どが携帯電話を持ち込んでいた。
先生達もその事は黙認していたし、授業中に使用しなければ良しとしていた。
けれどその中の一割程、本当に校則を守り携帯電話を持ち込まない生徒も存在していた。
そんな理由からか、この学校には広い敷地の至る所に電話ボックスが置かれていた。体育館の横、ホールの横、校門前、グランドの隅、他にも10ヶ所程の場所に電話ボックスが置かれていた。
電話ボックスと言えば怖い話の鉄板で、この学校でもあそこの電話ボックスから電話をかけると女の人のうめき声が聞こえるとか、夜誰もいないのに電話が鳴っているとかそう言った話が沢山あった。
そんな話がある事もあって私はあまり電話ボックスが好きではなかった。
nextpage
部活の帰り体育館の入り口で遥かと二人、朋美を待っていると、電話ボックスを使っている生徒が目に入った。
「珍しいね。」
「そうだね。」
そんな話をしていると朋美がやって来たので私達はそのまま学校を後にした。
それから何度か電話ボックスを使っている生徒を見かけた。
半年程して、校則の携帯電話についての内容が一部変更される事になった。それに伴い、もう使われていない電話ボックスについては撤去すると言う内容の手紙が渡された。
いつもの帰り道、私はふと体育館横の電話ボックスを思い出した。
「体育館横の電話ボックスも撤去するのかな。」
「するでしょ。」
「でもあそこ、使ってるよね?」
「うん…まぁね。」
「たまにしか見かけないけど。」
「あたしは…」
「やめて!」
初めて聞いた朋美の突然の怒鳴り声に私と遥かは同時に飛び上がった。
「何でそんな話するの?」
朋美は今にも泣き出しそうだった。
「いや、だってつい最近も見たし…。」
「さっきもね。」
「さっき?」
きょうは、みていない。
「私は一度だって見てない。あそこはずっと前から使えなくなってるじゃん!」
朋美が泣きながら怒鳴る。
「ごめん、ごめん。もうこの話はしないから。」
そう言って朋美を慰めている遥の隣で私は呆然としていた。
アレは、そういうものだったのか。
「詩音も視えてるんだと思ってた。」
遥が笑った。
.
.
.
.
.
貴方の視えているもの
それはみんなに『視え』ていますか?
作者鯨