匠さんを何とか救う事が出来た僕達。
その報告の為、叔父さんの元へ向かう事になった。
だが、報告とは別に僕達にはどうしても確認しなければならない事があった。
それは蛍さんが残した言葉の意味…。
口には出さないが、僕達は言い知れぬ不安にかられていた。
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匠さんの件から一週間が経ち、僕の傷も大分、良くなって来た。
トメ「たわけが!
何度言えば分かるんじゃ!
そう感情を剥き出しにしては、力に飲まれるだけじゃといっとろうが!!」
このサクラさんの怒声にも大分と慣れた。
今回の事で、紫水さんも葵さんも相当自信を無くした様で、自らサクラさんに修行をつけて欲しいと申し出たのだ。
匠「ったく…。
そこの二人は分かるけどよぉ、何で俺まで付き合わされ無きゃなんねぇんだよ…。」
トメ「なんじゃ?
元はと言えばお前がだらしないからじゃろが!
文句を言うとる暇があったらさっさと解いてみぃ!
このヒヨッ子が!」
匠「うるせぇよババア!
思いっきり掛けやがって!
こんなもん解ける訳ねぇだろが!」
匠さんは両腕を拡げたままサクラさんに文句を言っている。
余程、強力な縛を掛けられたのだろう。
葵「行きます!」
葵さんが地面に両手を付き、サクラさんの元へと闇を走らせた。
トメ「ふん!」
?!
サクラさんはそれを意図も簡単に消し去った。
トメ「術は考えて使わんか!
葵!お主の術は闇。
アタシは神の力を使う、謂わば光。
光に対して闇を当ててどうなる?
頭を使わんか!」
葵「くっ…。」
葵さんが悔しそうに下唇を噛んでいる。
ピッシャ!!
紫水さん?!
紫水さんがサクラさんに向けて雷を放った。
トメ「これも駄目じゃ!」
今度は意図も簡単に雷をかわすサクラさん。
トメ「紫水!
お主の雷は直線的過ぎる!
もっと工夫せんか!」
そう言ってサクラさんは匠さんの前に立った。
トメ「で?
お前は何をしとるんじゃ?」
匠「うるせぇつってんだろ!
こんなもん解けるかよ!」
トメ「はぁ〜。
どいつもこいつも…。
ええか?三人共、良く聞くんじゃ。
お前達の力は既にアタシを超えておる。
なのに何故アタシを倒せぬ?
こんな老いぼれ一人をな!
それはお前達が術に頼り過ぎとるからじゃ!
紫水、葵?
お前達は何故術を使う?」
紫水「人の力の及ばぬ相手と戦う為…です。」
葵「私も同じです。
人ならざるモノと対等に渡り合う為…。」
サクラさんの問いに二人が答える。
確かにそうだ…。
幾ら人間が頑張ったところで、その力では到底、化け物には敵わない。
トメ「ふん!
知った風な口を聞きおって!
だが、その考えは間違っておらん。
人間が獣と戦う為には武器が必要じゃ。
じゃがその武器を扱うのは人間…。
言うとる意味が分かるか?
幾ら良く切れる刀を持っておってもそれを使いこなせなければ、ただの鉄の塊じゃ。
正に今のお前達の様にな。」
紫水さん達が術を扱いきれていない?
二人ともあんなに凄い術を持っているのに?
トメ「良いか?
今のお前達は、術を持っておるだけで、安心しきっておる。
それだけで、相手に勝った積もりでおるんじゃ。
じゃがそうではないじゃろ?
優れた術を使いこなす為には、優れた術者が必要なんじゃよ。
今のお前達には、その心が伴っておらん。」
紫水「術に頼り過ぎている…。」
葵「心…ですか…。」
二人は俯き黙ってしまった。
匠「おいおい!
バアサン!
ちょっと言い過ぎじゃねぇか?
紫水と葵って言ったら、この世界じゃ知らねぇヤツはいねぇ位の大物だぜ?
そんなヤツらによくもそこまで…」
トメ「やかましいわ!
こやつらが大物じゃから言うとるんじゃ!
これだけの力を持った術者なら、これから先、それ相応の相手とやり合う事になる。
今は力のみで捩じ伏せられても、いずれはそれすら敵わん相手が出てくる筈じゃ。
そうなった時、今のこやつらには何も出来ん…。
じゃから今の内にこやつらを鍛えとるんじゃ!」
紫水、葵「サクラさん…。」
匠「ったく…。
バアサンも中々やるじゃねぇか。
ちょっと見直したぜ?
だがよ…?
てめえはサクラじゃ無くて、トメだろうが!
何、当たり前の様にサクラって呼ばせてんだよ!」
パァ―ン!!
渇いた音がした…。
匠「うそだ…。
バアサン!
今のは嘘だ…待て!
あ"ぁぁぁ〜!」
こんな調子で三人の修行は続き、気が付けば一ヶ月が経っていた。
紫水「サクラさん。
本当にお世話になりました。
どうかお体にお気を付け下さい。」
葵「本来なら忌み嫌われる私の様な呪術師にまで、ご指導頂き、本当に感謝しております。」
トメ「お前達もよう頑張った(笑)
一ヶ月前とは見違えたわい。
じゃが忘れるでないぞえ?
決して慢心してはならん。
その一瞬が命取りになるからの。」
匠「俺は別に感謝なんてしてねぇぜ?」
トメ「やかましいわ!
お前はこやつらの手となり足となり、必死に恩返ししてくるんじゃ!」
匠「手となり足となり…か…。
それも悪かねぇな…。」
トメ「匠…。
気を付けての?」
匠「あぁ。」
僕「さ、サクラさん!
ま、また寄せて貰ってもいいですか?」
トメ「あぁ(笑)
いつでも帰っといで(笑)
漬け物屋のカイ君がいんようなったら皆寂しがるからのぉ(笑)」
僕「あ、ありがとうございます!」
サクラさんに別れを告げ、いよいよ僕達は叔父さんの元へ向かう事になった。
匠さんは叔父さんの事を知らないので、紫水さん達に叔父さんについて執拗に質問を浴びせている。
匠「お前ら程の術者が一目置くその叔父さんってどれ位、すげぇんだよ?」
紫水「叔父さんですか?
それはもう凄いなんてもんじゃありませんよ(笑)」
葵「会えばすぐに分かりますよ(笑)」
匠「かぁ〜!
早く会いてぇなぁ!」
そんな話をしながら僕達は山中を歩いていた。
と、不意に三人が足を止めた。
僕「どうしたんです?
先を急ぎましょうよ。」
紫水「やれやれ…。」
葵「またですか…。」
匠「おい…。
カイ…お前いい加減にしろよ…。」
ん?
僕…?
僕には三人が言うことに何も思い当たる節がない。
葵「何度目でしょうか?」
匠「さぁな。
五回は、いってるんじゃねぇか?」
五回???
何の話だろう??
紫水「気付きませんか?
今、カイさんに纏わり付いているその、得体の知れないモノに。」
?!
僕に纏わりついている?!
五回って…僕は五回も得体のしれないモノに憑かれていたのか?!
僕「は、早く祓って下さい…。」
匠「ったく…面倒くせぇなぁ…。」
そういうと匠さんは僕の肩にそっと手を乗せた。
匠「さ、行くぞ。」
え?!
今ので祓えたのか??
僕「紫水さん?
もう僕には何も憑いていませんか?
本当に今ので祓えたんですか?」
紫水「おや?
彼を信じてはいないのですか?(笑)」
僕「そ、そうじゃないですけど…。
余りにも簡単に…と言うか…。」
葵「彼の力がそれ程。という事ですよ(笑)
今、カイさんに憑いていたモノも性質の悪い、決して弱いとは言えないレベルでしたけどね。
それを意図も容易く祓ってしまう彼の力は本物ですよ(笑)」
この二人がそこまで…。
匠さんもやっぱり凄い術者なんだ…。
その後も何度か匠さんに祓って貰いつつ、ようやく僕達は叔父さんのいる小屋へと辿り着いた。
僕「やっと戻ってこれましたね(笑)」
紫水「えぇ。
随分と報告が遅くなってしまいました。」
そう言って紫水さんは小屋の中へと声をかけた。
紫水「叔父さん!
遅くなりましたが、只今戻りました!」
「開いてるよ?」
中から叔父さんの声がした。
葵「さぁ。
行きましょうか。」
葵さんの言葉を合図に僕達は小屋の中へと入ろうとした。
匠「ちょっ、ちょっと待ってくれ。」
不意に匠さんが僕達を呼び止めた。
僕「どうしたんです?」
匠「足が動かねぇんだよ…。」
足が動かない?
僕「足が動かないって?」
匠「俺にも分からねぇ…。
分からねぇが、まるでこの小屋へ入る事を拒んでるみてぇだ。」
匠さんの足が小屋へ入る事を拒んでる??
紫水「それは恐らく…。」
葵「蛍さんの仕業でしょうね…。」
匠「あぁ?
蛍?
蛍が何だってそんな事を?」
紫水「蛍さんは叔父さんを余り良くは思っておられませんでしたからねぇ…。」
匠「ったく…。
おい!
蛍!聞こえてるか?
お前がどう思うかは勝手だが、今から合う人は、少なくとも俺を救ってくれた人だ。
そんな人に礼の一つも言わせねぇ気か?」
匠さんは蛍さんにそう話しかけると、足を踏み出した。
匠「分かってくれたか?
俺は大丈夫だ。
心配すんな蛍。」
動ける様になった匠さんは、僕達の後に続き小屋へと入った。
叔父「やぁ。
おかえり(笑)」
匠「こ、この人が叔父さん?!
こ、これは本当にすげぇなんてもんじゃねぇぞ…。」
葵「だから言ったでしょう?(笑)」
叔父「元に戻れて良かったね?(笑)」
匠「?!
ご、ご挨拶が遅れてすみません!
ぼ、僕は祓い屋をやっております、匠。と申します。
この度はご迷惑をおかけ致しまして本当に申し訳ありませんでした!」
どうやら匠さんは叔父さんを前にして緊張している様だ。
紫水「おやおや(笑)」
僕「あれぇ?
匠さん、そんな話し方出来るんですねぇ?(笑)」
匠「う、うるせぇよてめえ!」
叔父さん「いやぁ(笑)
本当に皆無事で良かった(笑)
それに、紫水君、葵君。
君達は以前とは見違える程に成長したね(笑)
それに匠君。
君も素晴らしい術者だ。」
紫水、葵、匠「ありがとうございます。」
叔父さん「ところで…。
僕がそんなに怖いかい?」
??
叔父さんは誰に話しているんだ?
僕以外の三人も顔を見合わせている。
叔父さん「随分と嫌われている様だね…。
でも、大丈夫だよ?
まだ大丈夫。」
僕「あの…。
さっきから誰に話しかけてるんですか?」
叔父「彼を守っている少女にだよ?(笑)
随分と警戒されている様だね(笑)」
そう言いながら匠さんを指さした叔父さん。
匠「ほ、蛍か?!
おい!失礼だろが!」
叔父「僕は構わないよ(笑)
その少女はいい勘の持ち主だ。
君にとって最高の守り手になるよ(笑)」
そう言って叔父さんは笑う。
そして、急に真剣な表情で話し出した。
叔父「紫水君。
僕はずっと君達家族とこの村を守る為に存在して来た。
でも村はもう見ての通りの廃村だ…。
それに君ももう、以前の様に一人じゃない。
君と一緒に居てくれる仲間が、こんなに出来た。」
??
叔父さんは何が言いたいのだろう?
紫水「叔父さん?
突然何を?
話の意図が全く見えないのですが?」
紫水さんも僕と同じ気持ちだった様だ。
叔父「分からないかい?(笑)
少し、遠回しに言い過ぎたかな?
すまない。
はっきり言うよ。
紫水君。
君に僕はもう必要無い。
いや、この世界に僕は必要じゃない。」
紫水「ちょっと待って下さい叔父さん!」
叔父「僕は存在しない存在…。
この世界には存在してはいけない存在なんだよ。
でも、君達を守りたい一心で僕は今までこうして存在し続けた。
でもね?
やっぱりそれはいけない事なんだよ…。」
紫水「叔父さん!
何を言ってるんですか?!」
葵「そうです!
あなたが存在してはいけないなどと!」
紫水さん、葵さんが、突然おかしな事を言い出した叔父さんを捲し立てる。
だが、そんな二人に何の反応も見せず、叔父さんは再び話し出した。
叔父「さっ。
それじゃ君達に最後の依頼だ。
これが僕からの本当に最後のね。
君達三人で…
僕を消して欲しい。」
作者かい
Σ(゜Д゜)