長編12
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りぃぱぁかんぱにー

憎い……。

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憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!!

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女は黒髪を振り乱しながら、一心不乱に神木に釘を打ち付けていた。

草木も眠る丑三つ時、闇夜に紛れて儀式を行う女が一人、眼を血走らせて木槌を振るっている。

静寂の雑木林に定期的に鳴り響く「カーン!!カーン!!」という不気味な音。

そんな禍々しい儀式を黙って見つめる者がいた。

「ねぇ……そんなことして楽しい?」

不意に声をかけられた女の背中に冷水を浴びせられたかのようにビクンッと身を跳ね上げた。

恐る恐る声の主を振り返ると、小さな女の子が切り株の上に腰掛けて、頬杖をつきながら女を見ていた。

「ねぇ……楽しい?」

女の子の無垢な瞳に見つめられた女は、動揺しながらも木槌をしっかりと握り締めた。

見られたからには殺さなければ……。

女の脳裏をそんなことが駆け巡った。

「お姉さんさぁ……二つ言わせてもらうね?一つ、やり方を間違えてる。もう一つ、やることを間違えてる」

女の子はサッと立ち上がって女に近寄ると、手に握られた木槌をひょいと取り上げて言った。

「刻参りなんてイマドキ誰もやらないよ?やるんならもっとスマートにしなくちゃ♪」

女の子は木槌をポイっと後ろへぶん投げて、女に一枚のカードを差し出した。

女はカードを見ると『りぃぱぁかんぱにー』と書かれた名刺のようなものだった。

「この『りぃぱぁかんぱにー』って何よ?」

女の質問を待ってましたとばかりに、女の子がニパッと笑いながら手揉みしながら話し出した。

「当社は簡単に言うと復讐の代行屋です!!」

「復讐の代行屋?」

「そうそう!呪いや実力行使はリスクが高いでしょ?それを当社が請け負うんですよ」

女の子は輝く笑顔で元気一杯に物騒なことを言った。

呪いの代行屋?こんな小学生みたいな子が?

女は九分九厘信じていないながらも、話だけは聞いてやることにした。

「いくらなの?」

女は不思議な女の子の言葉に興味を示し、食いついた風に装いながら問うと、女の子は腕組みしながら値踏みするように女を見て答える。

「そうですねぇ……お姉さんの場合、ポイント使えば3週間ですねぇ」

「3週間って何よ?」

女が首を傾げながら訊くと、女の子は快活に答えた。

「寿命だよ!お姉さんの残りの人生から手数料として3週間もらうの!でも、ポイント使えばの話だけどね」

「ポイント?」

女の頭に『?』が浮かぶ。

ポイントとはマイルか何かなのだろうか?

一瞬、そんな考えが女の頭を通りすぎた。

「お姉さんは今まで割りと真面目に生きてきたみたいだから、そこそこ貯まってるよ?」

「だから、ポイントって何のポイントなのよ!!」

女が苛立ちながら女の子に食って掛かるが、女の子は呆れたように眉をハの字にして言った。

「そんなに怒んなくても教えたげるよ……ポイントってのは『サンクスポイント』だよ!誰かにありがとうって言われたり、思われたりすると貯まってくんだ♪」

屈託なく女の子が笑う。

女は突然何処からか現れて、訝しいことを言う女の子を猜疑の目で見ていると、女の子が口を尖らせながら女に言った。

「で?どうする?アタシに復讐の代行頼む?それとも、ご神木を穴だらけにするまでバカみたいに釘を打ち続ける?」

女の子の言い方は解せなかったが、アイツに復讐ができるなら何でもいいと思った女は、女の子に復讐を依頼することにした。

「んじゃ!契約成立ってことで♪」

女の子は右手を出しながら、またニパッっと笑った。

「まぁ……よろしく頼むわね」

女が女の子と握手をした瞬間、体からジワリと力というか、何かが少し抜け出たような感じがした。

「期待してなよ?お姉さん♪」

そう言いながら手を振る女の子は、何処かあどけない笑顔を浮かべながら、女の目の前から煙のように消え失せた。

目の前で起こった出来事に、女は目をパチクリさせて辺りを見回すが、女の子の姿は何処にもなく、右手に握られた女の子の名刺だけが、それが現実であることを示していた。

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結局、謎の少女との不可思議な出逢いにすっかりモチベーションを削がれた女は、儀式を途中で止めてしまい、とぼとぼとアパートに戻った。

先程の出来事に軽く混乱していた女は、眠ることもできないまま朝を迎えた。

眠魔に頭をもたげながら、女は出勤の準備をする。

若干、クラクラするものの、仕事を休む訳にはいかない。

怨みをパワーに換えて、女は職場へと向かった。

満員電車に揺られながら、時たま女の尻に伸びて来る魔手に苛立ち、怒りを込めて芯を出したボールペンを突き立ててやったりして、ようやく職場に到着した。

タイムカードを切り、眠気で重い頭を無理やり奮い立たせる女が席へ着くなり、蛇の如くヌラリと近づいた若い女の顔には、厭らしい笑みが浮かんでいる。

「おはようございますぅ♪センパァイ」

金属を擦り合わせたような甲高い猫なで声で、馴れ馴れしく寄って来る若い女に、女は腸が沸騰しそうな程の熱を覚えた。

この若い女こそ、女が呪いをかけてまで復讐したい相手だった。

入社当初から5年付き合い、結婚目前まで行っていた彼をあっさり寝取った憎い女……。

愛を誓い合った彼に裏切られたこともショックではあったが、それよりもこの若い女さえ現れなければ幸せを掴めていたはずだった。

そのことの方が、女としては腹立たしく、また忌ま忌ましいことなのだ。

女が彼に一方的に棄てられてから、ことあるごとに当て付けのように、若い女は彼との仲を見せつけてくるのも鬱陶しい。

そんなストレスと戦いながら、女は淡々と仕事をこなしてきた。

この、殺しても殺し足りないアバズレに、もうすぐあの不思議な少女が天誅を下してくれる……。

女は自分に言い聞かせ、纏わり付く蠅を無視してやった。

「斎藤くん……ちょっと」

唐突に上司が女を呼びつけた。

女は無言で若い女を体で押し退けて、上司の席へ向かった。

「はい、何でしょう?」

朝っぱらから難しい顔をしている上司は、女が目の前に来るなり書類を突き出して女に言った。

「これはどういうことだ?」

眼前に突き付けられた書類を見た女は、サッパリ見当もつかなかった。

「私は知りません」

全く身に覚えのない書類に押印された自分の印鑑。

その書類の内容は、部署一つを吹っ飛ばすような重大なミスのある契約書だった。

会社に大損害を与えるような契約書に、自分の印鑑が捺されていたのだ。

女は取締役会に喚ばれ、説明を求められたが、記憶にないことに弁明など出来るはずもない。

女は責任を追及され、詳しい調査もされないまま、警察に通報しない代わりに損失を被された上に会社を叩き出された。

真面目一徹に生きてきた女にとって、濡れ衣を着せられたことは何よりも辛い出来事だった。

幸せを目前にして奪われ、在らぬ冤罪をかけられ、悲観に暮れた女は、夕闇の中を独り、虚ろな目をして歩いた。

宛てもなく、ただ、自らの人生の幕を引く場所を探し彷徨った。

フラフラとした足取りの女は、曲がり角から現れた人とぶつかった。

「大丈夫ですか?!」

ぶつかった衝撃で、力なくひっくり返った女に、ショートカットに黒縁メガネの見るからにネクラそうな女が、心配そうな顔で覗き込んできた。

「大丈夫だよ」

メガネ女の側に立つ三白眼の女が言った。

「A子じゃないよ!!大体、A子がぶつかったんだから、A子が謝りなさいよ!!」

烈火の如く説教をするメガネ女の話を聴いているのかいないのか、三白眼の女は耳をほじりながらヘラヘラとしている。

「ぶつかったのはお互い様だよ?」

そう言うなり、三白眼の女は柏手を打ち、メガネ女に問う。

「今の音、右手から鳴った?それとも左手から鳴った?」

「また!!一休さんみたいな屁理屈を言うなし!!」

大学生であろう二人の押し問答を無視して、女は無言で立ち上がり、二人をすり抜けて歩き出した。

「ちょい待ち」

言い訳の巧い三白眼の女が、脱殻のような女の細い腕を掴んだ。

「アンタ……肉、好き?」

三白眼の女は、心を失った女にほくそ笑みにも似た笑顔を向けた。

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半ば強引に女を叙々苑に拉致し、焼けたか焼けないかの肉をトングでガンガン喰らう三白眼の女の横で、ちまちまサラダを食べるメガネ女……。

そんな対称的な二人を目の前に見ながら、女は茫然自失でいる。

「アンタさぁ……バカなことしようとしてたでしょ?死んだら運命から逃れられるなんて、甘いこと考えてたんだよね?」

頬張った肉を飲み込んだ三白眼の女が、トングで女を指して言った。

「運命は生きてる者にしか変えられない……生きてるからこそ抗えるんだ……人は独りじゃ幸せにはなれない……だから、今ここにアンタがいて、アタシもいる……アンタは独りじゃないんだよ?」

達観したような眼で、三白眼の女が言った。

「話してみなよ……よく言うじゃん?『ぶつかり合うも多少の縁』って」

「それは『袖擦り合うも多生の縁』または『袖振り合うも多生の縁』でしょ……そんな力士の取組みたいなインパクトじゃ、多少じゃ済まないじゃん」

息の合った二人の漫才のような掛け合いも、今の女には響かなかった。

「しょうがないなぁ……」

三白眼の女が面倒くさそうに立ち上がり、女の隣に座り直すと女の背中に何やら文字をようなモノをスラスラと書いてから、「ヘイッ!!」とフランクな掛け声と共にパチンと張ると、女は意識を取り戻したかのようにハッとした、と同時にボロボロと泣き出した。

「実は……」

女はさっき会ったばかりの自分より年下の二人に、これまでの経緯を涙ながらに話した。

女の話を聴いたメガネ女は、顎に手をやりながら少し考えてから呟くように言葉を吐いた。

「それはキナ臭いですね……何か裏があると思います」

「出たな!ミステリーオタク!!」

「オタクじゃないもん!!マニアだもん!!」

オタク呼ばわりされたメガネ女が強めに否定するが、女にはどうでもいいことだった。

「A子、このお姉さんの会社の人、視られる?」

「当たり気、車力、長州力よ!」

メガネ女に促され、三白眼の女が両手の指先を絡めて、印的なモノを結んだ。

この二人の会話がどうにも見えない女は、きちんとしていそうなメガネ女に訊ねた。

「この女の子は何をしてるの?」

女の問いにメガネ女が答える。

「あなたの会社の人を視てもらってます」

「視るって何を?」

「会社の人の行動です。会話や思考などから何か分かるかも知れませんから」

「視れるの?」

真面目そうな子が到底信じ難いことをさも当然のように言っている……。

そのこと自体も信じられないが、三白眼の女はニヤリと不敵な笑みを見せて、女に言った。

「視れるんだよ……アタシならね。他人が今、何をしてるかも、ソイツが何を考えてるかも、アンタのパンツもね」

千里眼……女は昔、何かで読んだことがあるのを思い出した。

「……見えたっ!!やっぱ、アンタはハメられたみたいだね……証拠はハゲた部長の机の鍵の付いた引き出しの中だ!!」

「それなら、すぐに刑事と民事訴訟の準備に入りましょう!!弁護士はツテがありますから、私達に任せてください」

そう言うなり、何処かに電話をするメガネ女。

目まぐるしい急展開に、女の思考はついていけなかった。

「裁判するの?」

「えぇ、今なら証拠を押さえられますし……」

「証拠なんてどうやって押さえるのよ?」

「証拠は部長さんが持っていることが分かりましたし、民事訴訟法234条には『裁判所は、あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは、申立てにより、この章の規定に従い、証拠調べをすることができる』とあります」

メガネ女はさらに続けた。

「ただ、民事の場合は強制捜査権がないので、有印私文書偽造罪あたりで訴えて、先に証拠を押さえてしまうのがベストですね」

「書類を作ったのはハゲ部長とケバい女だね……うわっ……コイツら完全にデキてるじゃん……キモい上にグロいわぁ……ちょ、特上ハラミ追加で頼んどいて」

「分かったよ……キモグロ見てから食欲増すって、どういう神経してんの?」

「別腹だもん」

この二人の独特の空気感に、女は戸惑った。

そもそも、何故、この二人は自分の助けになってくれるのか。

「ちょっと待って……あなた達、何者なの?」

女の問いに、二人は声を揃えて答えた。

「通りすがりの大学生」

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それからすぐ後に、女の元勤め先に警察の強制捜査が入った。

三白眼の女の言った通りの場所から証拠の契約書の偽造データのUSBも見つかった。

そのまま部長と憎き女のただならぬ関係も公になり、さらに女からの不当解雇の民事訴訟も追い撃ちとなり、会社は大混乱だった。

部長とあの女は逮捕され、強制捜査で見つかった業務上横領でも追起訴された。

女には会社から和解の申し入れがあり、多額の慰謝料と役職付の再雇用契約を勝ち取った。

そして、自分を裏切り、若い女に走った元彼が関係の再構築を打診してきたが、これを婚約破棄に対する慰謝料請求で突っぱね、敗訴した元彼は会社に居づらくなり、慰謝料を払った後に退職して行った。

こうして女の復讐は見事に果たされた。

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女は新たに引っ越したマンションで、丑三つ時に必死に釘を打っていた過去の自分を思い出し、自嘲気味に笑った。

「そうそう!お姉さんは美人さんなんだから笑顔が1番だよ!!」

何処からか聞き覚えのある女の子の声がした。

「いかがでしたか?当社の仕事は」

女の子の声で、女は交わした不思議な契約を思い出した。

「ひょっとして……あの二人との出会いは、あなたのお陰なの?」

虚空に問いかけた女の前に、あの時の女の子が現れた。

「満足していただけた?」

女の子はニパッと笑って女を見た。

「えぇ、とっても!!3週間の寿命なんて安いモノだったわ」

「そりゃ、良かったねぇ♪」

女の子も満足そうに笑って言った。

「人生はいろんなことで良くも悪くも変わるんだ。特に出会いは大切だよ」

「本当にそうね……あなたに会わなかったら、私は今頃……」

続きを言いかけた女の口に人差し指を宛がい、女の子が言った。

「そのことは、もういいじゃん!明日からはお姉さんが誰かの力になれる時が来るかも知れないよ?」

女の子の言葉に、女はニッコリ笑って返した。

「そうよね。あの二人みたいに私も誰かの力になれるように頑張るわ!!」

女の力強い宣誓に、女の子は嬉しそうに笑った。

「その意気だよ!お姉さんなら、きっとなれるよ」

女は女の子に一つお願いをした。

「二人にどうしてもお礼がしたいの……どうにか会えないかしら?」

切実な女の願いに、女の子はVサインで答えた。

「縁が合ったら、また会えるさ♪」

そう言って、女の子はすぅっと消えて行った。

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その後……。

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とあるマンションの一室で、特徴的な三白眼をギラつかせる女の前に、幼い少女がちょこんと座らされていた。

「……で、アンタは姉であるアタシをタダ働きさせた訳ね……偉くなったもんだねぇ」

「人助けもたまにはいいモンだよ?お姉ちゃん」

どす黒いオーラを吹き出す三白眼の女の前に、正座をして小動物のように怯える女の子。

「タダじゃ動かないのがアタシのポリスーなんだよ!」

「ポリスーじゃないよ!!ポリシーだよ!お姉ちゃん!!」

「揚げ足を取るんじゃないよ!アンタ、向こう半年間は外出禁止だからね!アタシの中で深く反省しろ!!」

「そんなぁ……ヒドイよ!お姉ちゃんの鬼!悪魔!!腐れ外道!!」

「腐れ外道だぁ?アンタ、そんな言葉いつ覚えたのよ!!」

「お姉ちゃんが見てた時代劇でだよ……アタシの教育にお姉ちゃんの趣味嗜好は良くないと思うよ?」

「そうなの?」

三白眼の女の勢いが弱まった隙を突いて、女の子が捲し立てる。

「そうだよ?例えばさ、勉強が出来て、料理が美味しい人のところに1ヶ月くらい預けてみたら?いるでしょ?そういう親友」

「一人いるけど、1ヶ月はダメだよ……アンタまた生気吸うから」

「分かった!1週間で手を打とう!!たまには帰ってくるしさ」

「それならいいけど……」

完全に女の子のペースにハマった三白眼の女と、その姿に笑いを噛み殺す女の子。

「じゃあ早速、修学に行ってくるね!」

「行ってらっしゃい」

三白眼の女の気が変わらぬ内に、そそくさと外に飛び出した女の子は「お姉ちゃん……チョりぃ」と思いつつ、全速力でメガネ女のマンションへと飛んでいくのだった。

Concrete
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ろっこめさんの作品他いろいろを読んで私も投稿するようになりました。
中編以降の長さの作品を書くのここまで苦労するとは……
ろっこめさんのA子シリーズ、楽しみにしています。
私の中ではA子シリーズのキャラクターは美人化が激しくなってるのは困りもんですが(笑)
では、本編・スピンオフともに楽しみにしています

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