夜9時頃。僕はテレビのホラー番組を見ていた。
今はお笑い芸人が心霊スポットの廃校に潜入しているところだ。
僕はこういうホラー系が大好きなので、いろんな番組やDVDを見てきたのだが、……言っちゃなんだがこの番組はひどすぎる。
まず、紹介していた恐怖映像が嘘臭すぎる。何だか撮影者達の会話も棒読みだし。
さらにこれは決定的だが、その恐怖映像のトリックが見切れていた。
幽霊が映る前のタイミングで、タンスから白い布がはみ出ていたのだ。幽霊が出てきた時には消えていた。
その後一瞬カメラが別のところを向いた瞬間、タンスから白い服の幽霊役が登場。いきなり現れたように見えるわけだ。
しかし、それらの映像はあくまで素人の撮影した映像の紹介だ。廃校潜入はプロのテレビマン達がやってるんだから、そんなショボい事はしないだろう。
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芸人達が扉の前までやって来た。すると、扉の上部のすりガラスをサーっと黒い影が横切った。
『わーっ!今なんかいましたよ!』
『ここから先はかなり危険ですね。危なくなったら、すぐ止めますので行ってきてください。』
芸人と幽霊研究家が話している。しかし僕は気付いているぞ。扉が半開きになっていて隙間があったのでそこから一瞬見えたのだが、扉の向こうに、かなりハッキリとした人影があったのだ。
幽霊なんかでは無い。服装も普通の胡散臭そうなロン毛の男だった。恐らくテレビ局の人なのだろう。
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芸人達が中に入っていった。……中には人一人入れそうなロッカーがある。
そして、ふいに物音がした!例えるなら人がロッカーを叩いてるかのような音だ!
芸人は叫びながら部屋から飛び出した。
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『恐怖映像第一位は……』<br/>
番組はもう終盤だ。しかし何だったんだ。このショボい番組は。
特に廃校ロケ!あんな見え見えなヤラセはそうない。
とか思いながらもテレビを見続けていると、
!
今一瞬カメラにスタッフが何人か見切れてしまった。
そしてその中にあのロン毛野郎がいたぞ!なんかニヤニヤしていた。
……ここまでいくと何かの演出なんじゃないか?最近では、視聴者をも騙して驚かせるような番組もある。
それならこの番組の出来の悪さも分かる。
そうこう考えているうちに、最後の恐怖映像が流れる。
暗い夜道が映し出された。被写体もおらず、撮影者もなにも喋らない。
電灯のついた電信柱くらいしか、見る場所も無い。かなりのあいだ静寂に包まれる。
長い。もう一分は経っているだろうに、いっこうに映像に変化はない。
たまに電灯が点滅したり、蛾が横切ったりするだけだ。
すると、いきなり、
へへ、へへへ、
と、男の気味の悪い笑い声が聞こえ始め
電信柱の後ろから半分くらい人の姿が現れた。
あのロン毛の男だ。
成る程、そういう趣向か。番組の最後の最後にこの男の映像が流れて脅かすつもりか。
へへへへへへ、
笑い声はずっと続いている。
へへ
やっぱり長い。男が現れてからも一分ほどたってそうだが。
僕は時計を見た。あれ?放送時間が過ぎてる?
へへへ、へへへ
ハッとテレビの方を見直す。
あ、もう終わってCMになってる。いつの間に。
へへ、へへへ、へへへ、
え、まだ笑い声が聞こえる。なんで?
へへへへへへへへへ
怪現象?でも、どう見てもさっきのは実体のあるはっきりした人間だったし胡散臭そうな男だったしこれもきっと演出でCMに見せかけてるけどまだ放送しててだから怪現象なんかじゃないしそもそもテレビのスタッフの中にいたんだし人間じゃないわけがないから、これはきっとそういった趣向で、
!そうだテレビを消そう。こんなつまらないもの見たくない!
へへへ、へ、へ、
駄目だ、笑い声が、どこから?
ただただ辺りを見回す。立ち上がってぐるぐる、ぐるぐる。
机につまずき転んでしまい、半開きのドアの真ん前に倒れこんでしまった。ドアの方に視線をあげると
「へへ、へへ、へ、こんばんは、へへへへへへへへへへへへ」
ロン毛男が見切れていた。
作者和一
僕「おまえ誰やねん!」