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ニライカナイ~後編~【A子シリーズ】

長編13
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ニライカナイ~後編~【A子シリーズ】

迎里さんの実家に着くと、慌ただしく葬儀の準備が始まっていました。

迎里さんはタクシーを降りるなり、家へと駆け出し、私達もその後を追います。

所謂、平屋建てのオーソドックスな家で、庭がとても広いのが印象的でした。

「ネーネー!」

玄関に中学生くらいの少年が出て来て、迎里さんにしがみつき、それを宥めるように迎里さんが頭を撫でて、座り込みそうな少年を支えながら奥へと行きます。

「ウチらも行こか」

雪さんを先頭に私達も奥へ進むと、続き間の片側に祭壇が組まれ、その前に迎里さんの父親が横たわっていました。

「お父さんっ!!」

迎里さんは父親の亡骸にすがりつき、声を上げて泣き出すと、少年も釣られるようにすすり泣きます。

そんな切ない姉弟の姿を見て、私も泣いてしまいそうでしたが、A子はだだっ広い続き間を見渡しました。

「近くにいる……」

A子がボソリと呟くのを私は聞いてしまい、ゾクリと背筋に悪寒が走ります。

「ちょ、ごめんな」

雪さんは迎里さんの傍らに正座して合掌すると、顔に掛けられた白布を捲り上げました。

穏やかな死顔のエキゾチックな男性を、いろいろな角度から観察し、手の指、足の指など触ったりしました。

「硬直から診て、死後十時間くらいか……それよりコレ……」

雪さんは両手の火傷痕が何か引っ掛かるようで、少年に訊きました。

「なぁ少年。君のオトンは何処で死んだん?」

雪さん、直球過ぎ!!

あまりにもダイレクトでストレートな質問に、私が慌ててフォローに入ります。

「私達、お姉さんのお友達なんだけど、お父さんの手の火傷って、お仕事か何かかな?」

私の問いに、少年は首を横に振って言いました。

「チヌーヤ漁ンカイ出てネーンから、シグトゥじゃ ネーンと思う」

「「は?」」

少年の言葉に、私と雪さんは思わずユニゾンでリアクションしてしまいましたが、迎里さんが訳してくれました。

「昨日は漁に出てないから、仕事じゃないと思う……だそうです」

「何や、チーのオトンは鳥羽一郎かいな」

雪さん、鳥羽一郎は漁師じゃなくて演歌歌手だよ?

雪さんの口から出た『鳥羽一郎』のワードを聞いたのは、子供の頃にお祖母ちゃん家で聞いて以来です。

「雪さん……この火傷、もしかしたら不発弾かも」

「不発弾ってアンタ、そんなん爆発したらニュースになるで?」

雪さんのごもっともな意見に、私は推論で対抗しました。

「不発弾と言っても、それが手榴弾で、爆発はしなかったけど、漏れ出した中身が手に付いたんだとしたら?」

「せやけど、手榴弾の中身って何なん?」

理系の雪さんのキョトン顔の質問に、私が神妙な顔で答えます。

「リンです。黄リンや白リン……今でも発煙弾や焼夷弾として使用されています……第二次世界大戦でも使われていました」

「リンか……かも知れへんなぁ……この火傷の痕はかなりの重症やし……それにしても、アンタ!科捜研みたいやな!!」

変な感心の仕方をしている雪さんの横に、いつの間にか立っていたA子が迎里さんの父親を見下ろして言いました。

「そういうことか……声が多すぎて分からなかったけど、この諸見里ちゃんを呼んでるヤツは分かった」

迎里さんですけど?

「なぁ、何でチーが呼ばれてるかは分からんの?」

雪さんがA子を見上げて言うと、A子は不敵な笑みを浮かべます。

「多分だけど、この子には……」

そう言いかけた時、一人のお婆さんが部屋に入って来ました。

「千尋、よう無事で……」

「オバァ!!」

迎里さんがお婆さんと抱き合いながら再会を喜び合っていると、A子がお婆さんを指差して言います。

「この人の血を受け継いだからだね……まだ本人は気づいてないけど」

意味深なA子の言葉に、お婆さんが反応してA子に言いました。

「ウンジュ……ユタか?」

「誰が本城豊よ?アタシはA子だよ!バァちゃん」

「違います!!ユタって言うのは、沖縄で言う霊能力者のことです」

すかさずフォローに入った迎里さんのお陰で、私達にも意味が分かりました。

「そりゃあ……ちぃっとばかり違うねぇ……バァちゃんのソレとアタシの力は全然異質のモンだから」

A子の力って霊能力じゃないの?

A子の意外な答えに、私も驚きました。

「それより、バァちゃんも分かってるとは思うけど、このお父つぁんは囚われてる」

「ほぅ……」

お婆さんは感心したように息を吐いて、A子を見つめます。

「千尋を助けてくれるんね?」

お婆さんがA子に問うと、A子はニヤリと笑いました。

「そのために来たんだ……アグー豚でも丸焼きして待ってなよ?バァちゃん」

何だか訳も分からず連れて来られて、勝手に話を進めるA子に、雪さんも私も堪らず物言いを入れます。

「ちょ、待ぃな!A子!!話が見えへん!!」

「どういうことか説明してよ!!」

詰め寄る雪さんと私に、A子がめんどくさそうに言いました。

「ヤツらの狙いは、そこの栃乃里ちゃんで、お父つぁんは人質に捕られてるのよ……」

「何で、チーが狙われてんねん!?」

あまりの事の大きさに、名前が力士っぽくなっていることはスルーしてあげることにして、理由を追及する雪さんと私。

「ユタの血……ってヤツ?何処ぞのバカが勘違いしてるみたいだね……一発ガツンとお仕置きしてやんなきゃ」

「お仕置きって……相手はオバケでしょ?」

「……アタシを誰だと思ってんの?アタシならぶん殴ることだってできるんだよ?」

心配する私を嘲笑うかのように鼻で笑うA子に、少しだけカチンときましたが、確かにA子はオバケに物理攻撃ができることを思い出しました。

「えぇなぁ!A子はバケモンを手加減なしでドツけんねんから」

そんな羨ましがることかなぁ……。

「じゃあ、コレあげる」

A子が雪さんに蒼碧に光る手の平サイズの石を渡しました。

「何コレ?キレイな石コロやん。ナンボしたん?」

すぐ値段を訊きたがる大阪人の悪い癖を出す雪さんに、A子がヘラっとした顔を向けます。

「アタシの力を入れた石だよ……ほら、アンタにもあげる」

私は要らないよ!!オバケなんて触りたくないもん!!

全力で嫌がる私に、A子は無理やり石を持たせました。

「お守りみたいなモンだから……」

無理くり石を持たされた私は、仕方なく石をしまいます。

「そんじゃあ、行きますか!」

何処に?!

二次会にでも行くみたいなノリで、A子が私達を外へと促しますが、絶対に行きたくありません。

誰か助けてください!!

「私も行きます!!」

迎里さんはA子について行こうとしますが、お婆さんが迎里さんの腕をギュッと強く握りしめて止めました。

「千尋は行けん!!」

泣きそうな顔のお婆さんに、A子が優しい声で言います。

「本人が行きたいってんだからいいじゃない……アタシらがちゃんと守ってあげるから、安心して豚焼いて待ってなよ?バァちゃん」

どうしても豚は譲らないんだね。

「先に言っとくけど、ヤツらの狙いはアンタだ。真っ先に狙われる……でも、この子から離れなければヤツらは手出しできないから、絶対にこの子から離れちゃダメだよ?」

A子が私を指差して、迎里さんによく言い聞かせていましたが、何故、凡人の私なのか?の説明はありませんでした。

「いやぁ……誰かを全力でブッ飛ばすの久々やわ♪」

何故か雪さんはウキウキしています。

過去に何があったのかは、訊かないでおこう……。

私達四人は、迎里さんの父親奪還と迎里さんの命を狙う謎の存在との戦いの地へ向かいました。

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時は日も沈みかけの夕方、地元民すら近寄らないと言う、とある雑木林の中にひっそりとある防空壕に到着しました。

穏やかな波の音を遠くに聞きながら、防空壕に対峙します。

明らかに空気が違う空間で、その重々しい圧力を前に、私は普段通りに呼吸ができませんでした。

「来るよ!!」

A子が言うのと同時に、暗い防空壕の中から何人もの人が飛び出して来ます。

「うわっ!!グロッ!」

A子からもらった石のせいか、私にもその『人ならぬモノ』が見えてしまいました。

「うらぁ!!」

飛び掛かって来るソレを雪さんが先制パンチで迎撃すると、弾かれたように吹っ飛んでいく誰か。

「ホンマにぶっ飛ばせた!!オモロ~♪」

手応えを感じた雪さんは、イキイキと迫り来る人ならざるモノ達を薙ぎ倒していきました。

「ユッキー!ヤるねぇ♪」

「当たり前や!岸和田のリーサルウェポンちゃあ、ウチのことやで?」

いや……聞いたことないです……。

私と迎里さんは、目の前で繰り広げられるアクション映画のような光景に、ただただ呆然としていました。

なんだか二人がミラ=ジョヴォヴィッチとアンジェリーナ=ジョリーに見えます。

「……しかし、キリあれへんなぁ……ゴキブリみたいに湧いて来よる」

「仕方ない……アレを出すか」

流石のリーサルウェポンにも疲労の色が見えてくると、A子が何処かで見覚えのある構えをしました。

「かぁ~……めぇ~……はぁ~……めぇ~…………」

まさか……ホントに出せるの?

「ヴぁァッ!!!!」

力強い掛け声と同時に突き出したA子の両手の平からは、眩い光のビーム的なモノが……出る訳もありませんでした。

「出ぇへんのかーい!!」

ワラワラと現れるゾンビ的なモノを張り倒しながらも、ツッコミは忘れない大阪人の雪さん。

「出ると思ったんだけどなぁ……」

私は、この時初めて誰かの全力のかめはめ波を見て、驚愕しました。

出ると思ってたんだ……ホンモノのバカだ……。

不本意そうなA子に呆れていると、急に迎里さんが叫びました。

「危ないっ!!」

迎里さんは私を庇って、いつの間にか近くにいたゾンビチックなモノから守ってくれました。

間一髪で攻撃をかわした私達は、意外に素早い動きに足がすくみます。

「アンタ!!ソイツに石をかざしてみな!!」

A子の声で、私は持たされた石を思い出し、ゾンビマンに突き出して見せると、ゾンビマンは後退りして近づこうとしなくなりました。

「ソレ出しときゃ大丈夫だから、二人でイイコにしてなよ?」

そういう大事なことは戦闘前に言っといてよ……。

私と迎里さんは四方に気を配りながら、石を二人で持ち、第一種警戒態勢を取りました。

かれこれ一時間近く二人がバトルしているのを見ていましたが、A子はともかく、雪さんもたまにゾンビの顔を踏んづけながら休憩するものの、疲労の色は隠せません。

「A子!埓がアカンし、ウチももう飽きた!!いい加減に何とかしぃ!!」

流石の岸和田のリーサルウェポンもそろそろ疲れた……んじゃなくて飽きたの?!この非常時に?!

なかなかにエグい戦いっぷりを見せつけられた私達も、グロバトルはお腹一杯です。

「こんな雑魚ばっかり相手しててもしょうがないもんね……そろそろボスのお出ましじゃない?」

A子の言葉が合図だったかのように、雑魚の皆さんは地面に吸い込まれるように消えていきました。

「ネーネー達、強い……強いねぇ」

日も沈み、辺りが暗くなってきたところで、防空壕の奥から少女の声がしました。

「やっとこボスの登場かい……ホンマ、焦らしよるなぁ」

雪さんが肩で息をしながら防空壕に悪態を吐くと、すぅっと音もなく出てきたのは、十歳くらいの女の子でした。

「ちょ!ボスってガキやないか!!」

「ユッキー、甘く見ない方がいいよ?コイツ、ユサだから」

ユタ……だよね?多分……。

「嬢ちゃん、オイタが過ぎるで?優しいお姉ちゃんも完全にオコやわ」

そう言いながら近づく雪さんに、女の子は一瞬で目の前まで来ると、左手を雪さんの胸の辺りに向けました。

ドンッ!!!!

その瞬間、雪さんの体が木の葉のように後方に弾かれ、私達の目の前に落ちてきました。

「「雪さんっ!!」」

私と迎里さんが駆け寄ると、雪さんは力なく笑いながら言います。

「チー……ユッキー…って呼べて……言うたや…ろ?罰金……や………」

そのまま気絶する雪さんを、迎里さんが抱き締めました。

「ユッキー!!」

雪さんの姿を見て、A子が無言で女の子に向かって行きます。

「容赦しないよ……クソガキ!!」

A子の渾身の右ストレートを、女の子は左手で防御してみせました。

「ネーネー……邪魔!!」

女の子が左手を払うと、A子の体はフワリと宙を舞い、近くの木に叩きつけられます。

「あぐッ!!」

背中を強打して、ズルズルと落ちるA子を見て、私は気絶寸前でした。

殺される……。

「千尋が来ないと死人が増えるよ?」

女の子が迎里さんに言うと、迎里さんは観念したかのように俯いて、雪さんをゆっくりと寝かせて立ち上がります。

「ワンが行ったら、他ヌ ドゥシに手は出さんて約束して!!」

「千尋が素直に来ればな」

女の子の言葉を聞いて、迎里さんは歩き出そうとしますが、私が腕を掴んで止めました。

「行っちゃダメです!!」

私が怖れで泣きそうなのを見越して、迎里さんは私の手を優しく解いて笑います。

「ワン ヌ ために、ここまでしてくれたドゥシは初めてよ……もっと早く会いたかった……」

そう言って女の子の方へ歩き出す迎里さんを止めようにも、私は完全に腰を抜かしていました。

「これでワンは生き返る……みんなと暮らせる……」

女の子が呟くと、その背後から肩までの髪をなびかせた女性が、女の子を優しく抱き締めます。

「そんなことしなくても大丈夫……アタシがニライカナイに案内してあげるから」

女の子は女性を振り解いて、女性に向き直ると、左手を前に突き出しましたが、女性はあっさりとその手をかわし、両手で包むように掴んで言います。

「痛かったね……辛かったね……寂しかったよね……でも、安心して?ニライカナイには、あなたのお母さんもお父さんもお兄ちゃんもいるから……」

「嘘だッ!!」

「嘘じゃないよ?お母さん、あなたが来るのをずっと待ってるんだから……」

駄々っ子をあやすように穏やかに話しかける女性に、女の子も勢いを失いつつありました。

女性は両手を合わせて何やら呟いてから両手を開くと、その間に光の円ができました。

「怖がらないで……みんなのところへ逝きなさい……みんなが待ってるから」

女性の言葉を信用したのか、女の子は素直に光の中へ入って行きます。

女の子が消えたその光の中へ、無数のオーブが地中から現れ、続くように吸い込まれて行きました。

全てのオーブが光に入ると、光の円はジワリと余韻を残しつつ、ゆっくりと消えました。

「さてと……」

女性は場を仕切り直すように手をパンと鳴らすと、迎里さんの方に近寄って、微笑みながら言います。

「もう大丈夫よ?お父さんも無事に家に送ったわ……それより、あなたのまだ目覚めていない力は、アタシがもらって行くね?その方が、きっとあなたのためになるから……」

そう言うと、女性は迎里さんの額に人差し指を当てて、目を閉じました。

しばし、指を当てられた迎里さんが、フッと力が抜けたようにその場にペタンと座り込むと、女性は指を離して、また優しい笑みを向けて、そのまま振り返り、A子の方へ歩いて行きます。

「何やってんのよ……お姉ちゃん。北風と太陽の話、知らないの?……ったく、本当に世話のやける姉だよ……」

女性が気を失っているA子の頬を思い切りつねり上げると、A子が絶叫と共に飛び起きました。

「イダダダダッ!!」

A子の悲鳴の後、気がつくと女性の姿は忽然と消えていました。

「あれっ?!さっきの人は?」

「まだ、お礼も言えてないのに……」

私と迎里さんは辺りを見回しますが、女性の姿は何処にもありませんでした。

左頬を朱くしたA子が痛々しい頬を擦りながら、こちらへ来ます。

「ケガはないかい?」

迎里さんを労るように訊くと、迎里さんは笑顔で「はい」と答えました。

「そりゃ、良かった!バァちゃん、アグー豚丸焼きしてるかなぁ♪」

丸一頭食べるつもりだったの?

A子の底知れぬ食欲に戦慄しながらも、私達は気を失っている雪さんを連れて、迎里さんの実家へ帰りました。

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実家ではちょうど通夜が終わっていて、何やらどんちゃん騒ぎの音が聴こえてきます。

「オバァ!」

迎里さんはお婆さんに抱きつき、お婆さんも嬉し泣きしながら、二人で無事を喜んでいました。

「バァちゃん!!アタシのアグーは?」

A子がお婆さんの肩をグイグイ揺さぶると、お婆さんは無言で庭を指差します。

庭では本当に豚が丸焼きにされていました。

沖縄の人は豪快なんだね……。

「うひょぅ♪」

子豚の焼死体を見るなり、A子は嬌声を上げて庭へと駆け出しました。

迎里さんがA子の痴態を見て、クスッと吹き出しながら、気がついた雪さんのケガの手当てを始めたので、私も手伝います。

「とりま、チーが助かって良かったわ♪」

雪さん曰く、恐らく肋骨が二本くらい折れてるっぽいそうですが、割りと元気そうに笑う姿に私も迎里さんも安心しました。

「しっかし、A子は元気やなぁ……ホンマはバケモンなんちゃうか?」

泡盛片手に肉を喰らうA子を見て、私も激しく同意しましたが、迎里さんは流石に頷きませんでした。

「A子さんは、シマンチュみたいに自由な人ですね」

「いや、あれは何も考えてないだけですよ。好きなことを好きな時に好きなようにやる……それがA子ですから」

私が真顔で言うと、迎里さんはプッと吹き出して笑いました。

「初めてA子さんを見た時、何故か海を感じたんです……おおらかで、温かで……まるで島の海みたいな感じがしたんです……だから、この人を信じてみようと思ったんです」

山育ちで、同級生にサルがいたと噂(私の勘)のA子から海を感じた……。

迎里さんのその言葉は、何故か私の心に強く残りました。

確かに、おおらかで、たまに優しくて、いざという時は頼りになるけれど、普段が普段だからプラスマイナス0な気もする。

「あ!そうだ!!」

沖縄名産アグー豚を貪り喰らっていたA子が、何かを思い出したかのように大きな声を上げました。

「A子?どうしたの?」

私が問いかけると、A子はニカッと笑いながら迎里さんに言います。

「アタシ、着のみ着のままで来たから、着替えがないんだよ……パンツだけ貸して?」

「私ので良ければ……」

貸しちゃダメッ!!

どんだけ、おおらかなんだよ!シマンチュは!!

何の迷いもなく即答した迎里さんをキツく叱り、私はA子を引き摺りながら、日用品のお店へ向かいました。

お店へ向かう車内で、不機嫌そうなA子を横目に、本当に世話のやける人だと思った瞬間、ふと、あの時の女性を思い出します。

私達のピンチを救ってくれたあの女性……A子のような三白眼に、A子と同じ栗色の肩までの髪……そして、A子に話しかけた時の、あの言葉……。

『世話のやける姉』

A子に妹がいるなんて聞いたことないし、どっちかと言うと、あの女性の方が大人びていてお姉さんっぽい……。

「まさか、ね……」

私はボソリと呟いて、いつの間にか寝てしまっているA子を見ました。

その後、あの女性と全く違う形で再会することになったのは、また別の話です。

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