短編2
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真夜中のお見舞い

もう何年前になるでしょうか。

私は看護師で、その日は夜勤でした。

珍しいほどに何事もなく時刻は午前2時を過ぎ、私は何度目かになる巡回を始めました。

とある患者さんの部屋に差し掛かった時、カーテンが揺れていることに気がつきました。

窓が開いていたのです。

前の巡回では窓は閉まっていたはずでした。

もしかしたら、患者さんが起きて開けたのだろうか…?

高齢の女性で、昨日手術したばかりなのに?

ありえません。

まあ、病院では不思議なことが割とあるので気にしないことにしました。

窓を閉めようと近づきました。

そこで私はベッドの窓側に誰かがいることに気づいたのです。

着物を着た綺麗な女性でした。

優しげな笑みを浮かべ患者さんの頭元に座り、汗を拭っていました。

驚いて固まっていると、その女性が私をゆっくりと見ました。

私に軽く会釈をし、立ち上がるとカーテンが大きく翻り女性を隠しました。

カーテンが元に戻るとその女性は消えていました。

心臓がドキドキしていました。

胸を押さえながら窓を閉め、患者さんの様子を伺うと、患者さんがうっすら目を開けて私を見ました。

「〇〇さん、起こしちゃいました?大丈夫ですか?」

私の声かけに患者さんは頷き、

「さっきねぇ、綺麗な女の人が汗を拭いてくれていたのよ。本当に綺麗な人でねぇ」

と言いました。

そっか、と相づちをうちながら私は別のことを考えていました。

さっきの女性とこの患者さんは、驚くほどに似ていたのです。

あれほどに似ているのに患者さんはあの女性のことを知らないということは、あの女性は患者さんの先祖なのでしょうか…?

その日の夜勤はそれ以上何事もなく、朝を迎えました。

今でも看護師として働いていますが、この日をたまに思い出しては不思議な気持ちになります。

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