「世界で一番大切なのは愛です!愛こそすべてなのです!」
声を張り上げ言う。その場にいる人たちも続いて言う
「愛こそすべて!愛があれば何でもできる!」
「教主様、今日のお布施です!」白いTシャツの真ん中に赤いハートマークを付けた一人の男が言い寄る。
「何、気にする事等無いのに・・・しかしこれが諸君らの愛だというのなら受け取らないわけにはいかない。有難う!君らの愛はしかと受け取った!」その声に歓声が上がる。
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「いやはや、凄いもんですね、奴ら。」そう話すのは先ほどハートマークを付けたTシャツを身にまとっていた男だった。今はきっちりとしたスーツに身を包んでいる。
「ああ、ああいうやつらは何かにすがりたいんだ。そこにうまく付け込めるかがカギってやつさ。」
「流石、愛橋先生!今度の選挙も勝ち戦ですな!」
「ああ、そうだな。」私は愛橋通。(マナバシ トオル)政治家で、とある信仰宗教の教主をしている。それなりに規模の大きくなってきた宗教の為、暗黙のルールのようなもので、私の宗教を信仰しているものは必然的に私に票を入れてくれる。
更にはお布施とは名ばかりの賄賂まで。最高の暮らしだ。いや、暮らしだったというべきか。
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「ここは・・・どこだ。私はあの旅館で寝ていたはず・・・。」辺りを見回しながら、何か知っているものがないか探した。だがここにあるのは暗闇。
「おーい誰かいないか!」声がやまびこの様に響くだけで何も気配を感じない。
舌打ちをし、仕方なく歩く事にした。
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しばらく歩いただろう、それにしても一向にものがない空虚さが怖くなってきた。
「誰かいないのか・・・」そうぽつりと呟いたとき、遠くの方で小さな明かりが灯っているのが見えた。
「人か!よし!」その明かりに向かってずんずん歩みを進めた。
遠くから見えていたのは一軒の木造の所謂ログハウスのような建物だった。
軽くノックをし入っていくと、一人の女が座っていた。いや、女にしてはとても白く髪も真っ白。着ている服も真っ白。一つだけ色味があるのは顔を隠す様につけている狐のお面だった。
少し唖然としていると女の方から声をかけてきた。
「どうしたんです?お掛けになっては?」私は少し驚きながらも、促されるまま座った。
すると突然
「さて、あなたはどういうお話を聞かせてくれますか?」と言った。
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「は?話?何を言っているんですか貴方は。話の前にここはどこなんですか?」と私は少し今の現状に困惑している為、きつく当たる様に彼女に言った。
「さぁ。ただ一つ言える事は、私にあなたのお話を聞かせてください。その為にここにいるのですから。」意味が分からない。何を言っているのだこの女は。
「話す事等無い。」そう跳ね返すと、彼女は「いいえ、あります。だからここに来た。因みにあなたは愛と金どっちが大事だと思います?」
唐突過ぎる質問にまたもや唖然とさせられたが、私は迷わず「金だ。」と答えた。
「ほう、ではなぜ、貴方は金が大事と考えますか?」
「金が大事な理由?決まっている、生きる為だ。この世の中を生きる為には金がすべて。私はとある信仰宗教の教主をやっていてな。そこの信者たちはほとほと呆れるほどの莫迦ばかりでな。上っ面だけの言葉さえ言っておけば黙って金を出す。
それに私は政治家でな。政治家はいいぞ。金がたんまり入る。それに国民からの税金をちょっとばかりポケットに入れても誰も気づきやしない。その税金を納めている国民の一部が私の信者として、さらに金を入れる。なんという最高の暮らし!」
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私は自分の話を、今までの暮らしを誇らしげに、語った。
どういう信仰宗教を作ってきたか、どういう経路で税金をポケットマネーとして忍ばせたか。
一通り話し終わったとき、彼女がこういった。
「では、貴方の帰り道を教えましょう。でも二つあるうちの一つしか帰り道はないんですが、貴方の様子ではもう一つしか選ばないでしょうが。右手をご覧ください。こちら側は愛の扉。左手をご覧下さい。こちらはお金の扉。貴方が大切にしている方の扉へお進みください。」
なんという親切なんだろう。そう思った私は迷わず左手側の扉へ向かった。
ノブを開けようとすると、女が私の名前を尋ねたので、フルネーム答え、扉の中へ入った。
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「出れた・・・。」そう言って辺りを見回す。天にも届きそうなくらいのビルの数々。見慣れた東京の姿だった。だが、人っ子一人見当たらない。
そこに現れた車。その中から出てきたのは一体のロボット。
「アナタハマナバシサマデスネ。オマチシテマシタコチラヘドウゾ。」そう促されるまま車に乗り、向かった先は私の別荘だった。
「おい、なんで別荘になんか行ってるんだ。」返事がない。ただただ促されるままに私は自室に足を運んでいた。
「ドウゾオハイリクダサイ。ココニハタクサンノオカネガアリマス。」
その言葉に反応し勢いよくドアを開けた。確かにそこにはたくさんの金塊、札束があった。
「おお!素晴らしい!」
「ヨカッタデス。デハ。」立ち去ろうとするロボットに私は一つお願いをした。
「腹が減った。何か食い物をよこせ。」
「ココニハタベモノハアリマセン。アルノハワタシタチロボットトオカネダケデス。」
「食い物がないと飢え死ぬではないか。」
「ハイ。デハワタシハシツレイシマス。」そう言って部屋を出て行ったロボット。
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仕方なく私は外に出てコンビニへ向かった。だが、確かにそこには食べ物は一切なかった。陳列されているものは何もない。
この異常な雰囲気に私は、近くにあったロボットに金を渡して食い物を持ってこいと命令した。だが、ロボットは一向にこちらの言う事を聞く気配はない。
それもそうだ。ロボットは食わずに生きられる。その事実に少しずつ焦りを感じても遅かった。私は、どんどん痩せていっている。食えない為。私は今もう虫の息だ。今は札束のベットで横になっている。私があの時愛を選んでいたら、そう考えて私は眠った。
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「ふふ、愛か金か。選べと言われたら私はどうしようかなぁ。それにしたって金金すごい人だったなぁ。金に溺れて愚かだね。」そう言って狐面をした彼女は手帳に何かを書きぱたんと閉じた。
作者アリー
愛か金か、どっちと聞かれたら、難しいですね。
今回の様に金だけあっても心が満たされない。
愛だけあったとしても胃が満たされない。
どっちも重要ですよね。でも正直食べ物が普通にあるならこういう誰一人人間が居ない世界行きたいと最近ずっと考えていたんですよね。
久し振りの投稿で、と言ったら言い訳になりますが、誤字脱字があるかもしれません。
また作りも稚拙極まりない文で申し訳ないです。
気になる事や誤字脱字があった際はなんなりと仰って下さい。