人は世につれ、世は人につれ。
人間と霊はこの世に共存しています。そしてこの世に地獄がある限り、あの世にも地獄は続きます。
身体という殻を失った彷徨える魂たちが蘇り、私たちの前に現れる時、あなたは本当の恐怖を知る事になるのです。
これから話すのは、夢半ばで人生を絶たれてしまったある悲しい男性のお話です。
その夜は都会でも星が見えるほどに空気が澄んでいました。
会社員のGさんは残業で遅くなったのでタクシーをひろいました。
タクシーの中では気さくな運転手さんといろんな話をして盛り上がりました。
しばらくして、タクシーは暗い山道にさしかかります。
両脇は背の高い鬱蒼とした森になっていて、前後に車の光はありませんでした。
すると突然、運転手は人が変わったように暗い顔をしてこう言うのです。
「いいですかお客さん、ここでは絶対に窓の外を見てはいけません。絶対にですよ。もし見てしまったとしても絶対にリアクションしてはいけませんからね、わかりましたか?」
Gさんは豹変した運転手の低い声に驚き、「は、はい」としか言えませんでした。
なおもタクシーは森の中を走ります。
しかし、どうにも腑に落ちなかったGさんは運転手にたずねました。
「なぜ車の外を見てはいけないんですか?」
運転手に反応は無く、前を向いたまま何も言いません。 Gさんはだんだん怖くなってきました。
と、その時でした。
見るなといわれていた窓側から「うば~、うば〜、」と、苦しそうな呻き声が聞こえたのです。
なんだと思ったGさんはつい、そちらを見てしまいました。
すると、窓いっぱいにぬ~っと苦悶の表情を浮かべた男の顔が現われて、Gさんを見てこう言ったそうです。
「ふんじまってごめんちょう!!」
「………… 」
一瞬、時が止まりました。Gさんの背筋にこれまで感じた事のない寒気が走ります。男はGさんのリアクションの無さに、表情が更に険しくなりました。
「ふふ!ふんじまってごめんちょう!!痛いの、痛いの、飛んで池谷選手、月面宙返り成功!!日本、やりました〜!」
「…………!!」
「金です、金!!」
「…………」
「違う…、こいつじゃない。こいつにはセンスがない」
そう負け惜しみを言うと、男の顔は煙りのように消えてしまいました。
そこからのGさんの記憶は峠を越えるまで途切れています。
運転手が言うには何年か前にその山道でひき逃げ事件があり、被害者は売れないお笑い芸人だったそうです。男は亡くなり犯人はまだつかまっていないとの事。
以来、男は毎晩そこを通る車を覗き込み、自分を轢いた犯人を探していると同時に、生前自分の持ちネタだったギャグで笑った人間に取り憑こうとするそうです。
「かわいそうに」
奇しくも車に轢かれる持ちネタが現実になるとは… 運転手さんはため息をつきました。
「まあ、つまんないギャグだから笑った人間は一人もいないんですけどね…ひひ…」と、小声で付け加えました。
それを聞いたGさんは、色々な意味で涙が止まりませんでした。
余談ですが、その後Gさんがカポエラと出会い、会社を辞めて師範代にまで上りつめたのはまた別のお話です。
了
作者ロビンⓂ︎
僕は今、この大事な時期にスランプに陥っております!…ひ…
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