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ジュハツサマ『上』〜悪友シリーズ〜 

中編5
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ジュハツサマ『上』〜悪友シリーズ〜 

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 精神的に無防備になった相手を説得しろーーーこんなにも的を射た言葉はそうそう見つからないと思います。

 これは悪友が本気で一人の人間と『戦った』話です。

………

……

 私と悪友が5年生になり、その生活もあと3ヶ月となったところで私のクラス(悪友は別クラス)に転校生がやってきました。

 その転校生は女の子で長くて綺麗な髪をした小学生ながら美人な娘でした。

 しかも、とても気さくで話易く1週間もしないうちにクラスの人気者になりました。

 それも特に女子から絶大な支持を得るほどに……。

 なぜ、彼女がそこまでの人気者になれたのか? それは彼女が今までにないような『おまじない』の類をたくさん知っていたからです。

 この時は未だに全盛期程ではありませんでしたが怪談ブームが続いており、学校ではオカルトに興味を示す生徒は多くいました。

 けれど、彼らのオカルトの中にはいわゆる『実践的』なものはなかったのです。

 怪談は調べれば山ほど出てくる、けれど私達小学生にできるオカルトなんて精々、七不思議を調べてできるものを実践するくらいでした。

 だから、その転校生が教えてくれる『おまじない』は実践ができるオカルトとして私達の学校のオカルトブームに新たな風を呼びました。

 しかも、この『おまじない』当時の私達でも簡単にできるようになっていました。

 使う物は、紙や鉛筆、その辺に落ちている葉っぱ、校庭にある遊具を使ったものなど小学生でも容易に実行できるものばかり。

 おまけにその『おまじない』がかなりの確率で当たるのです。

 特に『失くした物を見つける』おまじないはその方法で失せ物を見つけたという生徒が後を絶えませんでした。

 人、特に小学生のようなピュアな人種は一度でも他人から教えてもらった方法で成果を挙げるとあっさりとその人を信用してしまいます。

 『おまじない』の実績と持ち前の人柄で転校生は転校からわずか1ヶ月で色々な人から信頼される我が校の『銀座の母』のような存在になっていました。

 転校生は一人一人の相談に親身に乗ってあげて的確なアドバイスと『おまじない』を紹介して相談してきた人の悩みを解決していきました。

 もはやその手腕は小学生とは思えず、彼女はあっさりと私達の学校の裏ボスみたいになっていたのです。

 そんな中ーーー

 「あいつは危険だ。近寄るな」

 と、私に警告を発していた人間がいました。

 そう、というか当然、悪友です。

 今、思えば確かにその通りです。

 傍から見れば転校生はいわゆる『危険な女』です。

 ですが、私も当時は小学生、彼女の持つ魔性にすっかり魅了されていたので彼女を危険視する彼の発言が不愉快でした。

 

 「なんで? 転校生さん、いい人だよ! 優しいし、面白いし!」

 「お前はバカなのか? なんで気付かんし? あいつは危険だよ。悪魔だぜありゃ」

 「転校生さんのことバカにしないでッ!! どーせ、悪友くんは転校生さんのほうがすごいから妬んでるんでしょ!?」

 「すっげー奴だから危険なんだって、かかわらないほうがーーー」

 「バカッ!! 最低!!!」 

 「…………」

 私は信頼できる転校生のことを悪友がバカにしたように思えて憤ってしまいついつい怒鳴ってしまったのです。

 私の反応に驚いたのか、いつもなら言い返してくる悪友が黙って私を凝視するだけでした。

 次の瞬間、私は急に冷静になって彼に怒鳴ったことを謝ろうとしました。

 「ーーーあっ、えっと…」

 「分かった。好きにすりゃあいいだろ」

 「えっ!?」

 「じゃ」

 そう言って、悪友は一人で帰っていってしまいました。

 私はひどく後悔して彼を呼び止めようとしました。

 けれど、なんと言っていいか分からずただただ佇んで彼の背中を見ることしかできませんでした。

 

 翌日、私は学校で悪友に謝ろうとしました。

 けれど、その日に限って彼と行き違いになってタイミングが合わず結局謝ることはできませんでした。

 そして、来る日も来る日もタイミングを逃し、ついに私は彼に話しかけることすら自ら躊躇うようになってしまいました。

 どうしたら……、そんな思いが私をひどく苦しめました。

 教室で一人、思い悩んでいると私の肩に手を置く人が現れました。

 「○○さん、大丈夫?」

 「転校生さん!?」

 「すごく顔色が悪い、なにか悩んで……もしかしてケンカしたの?」

 「ーーーッ!?」

 私はまるで頭から電流が走ったような感覚に襲われました。

 転校生は私が悪友とケンカしたことを見抜いたのです。

 私は思わず、彼女に自分が友達と喧嘩してしまって謝り損ねているということを白状しました。

 彼女は私に向かい合って座り話を聞いてくれました。

 「……そう。で、なんで○○さんは悪友くんとケンカしちゃったの?」

 「ムカついちゃって……だって! あいつ、転校生さんのことを『危険な女』とか『悪魔』って言ったから私、許せなくて……」

 「そう、私の為に……。ありがとう、○○さん。○○さんは優しいね」

 転校生は私の手を両手で包み込むように握ってまっすぐ私を見据えて柔らかい笑みを浮かべました。

 心臓が大きく脈打ち、私は彼女から目を離せなくなりました。

 まるで魔法にかかったようにボーッと意識が遠くなるようなふんわりした感覚に襲われました。

 彼女にだったらなんでも話せるーーーそんな囁きが頭の中に響きました。

 「私は……どうしたら」

 「いい『おまじない』があるの。仲直りの『おまじない』なんだけど……」

 「やりたい。私、やってみる!!」

 「そう……」

 そう言って、転校生は再びあの包み込むような優しい笑みを浮かべました。

 でも、なぜでしょう? 彼女の笑みが別の何かに向いている気がするのです……。

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