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封印された2番〜悪友シリーズ〜

中編5
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封印された2番〜悪友シリーズ〜

 私が小学5年生の終わり頃、図書室でとある本がブームになっていました。

 『怪談レ○トラン』───。

 皆さんももしかしたら一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?

 児童向けに執筆された怪談を集めた書籍でレストランのフルコースさながら前菜の怪談で始まりデザート怪談に終わる。

 最後はお土産という構造だったと思います。

 話の真偽はともかく文字がそこそこ読めるようになってきた年頃に易しい文で恐怖を誘う摩訶不思議な話の数々は私たちの学年でたちまちブームとなりました。

 今、思うとこの時から私のオカルトブームが始まっていたのかも知れません。

 さて、時はオカルトブーム、そして『学校』とくれば思いつくことはただ1つ───そう、『七不思議』です。

 学校の七不思議は怪談の類でも鉄板と呼べるもので、当然のことながら私たちの学校にも『七不思議』と呼ばれる噂話が流行しました。

 今回はそのうちの1つ『封印された校歌の2番の謎』について書かせていただきます。

………

……

 私たちの学校の校歌は全部で3番までありました。

 が、朝礼や集会などで歌うのはいつも1番と3番でした。

 なぜか2番を歌わないのです。

 体育館の壁には校歌の歌詞が書かれた木の板があるのですが、そこにははっきりと2番の歌詞が書かれているのにも関わらずです。

 ですが、私はみんながそうしているのだしそうすることが当たり前だと思い、特に気にすることはありませんでした。

 しかし、時はオカルトブーム。

 当然、この歌われない2番について疑問を持つ輩が出始めます。

 やがて、こんな噂が立ち始めました。

 ───『午後四時に体育館の真ん中で校歌の2番だけ歌うと戦争中に死んだ子供たちに呪われる』。

 当然、こんな噂には根も葉もありません。

 おそらく、オカルト好きの誰が怪談が書かれた本を元にでっち上げた嘘なのでしょう。

 ですが、私たちはピュアな小学5年生、なんの疑いもなくこの噂を信じました。

 しばらくすると本当に実行したという輩が現れて「やったけど何も出なかったぜ!」と笑い飛ばす奴や「本当に子供が出た……」と顔を真っ青にして言う奴もいました。

 実行したと言った奴等は発言の真偽など気にも止められず総じて時の英雄になりました。

 どうやら子供たちにとってその噂の真偽よりもその噂を実行に移したという『話』のほうが重要なのでした。

 そして、英雄志望のある私の悪友もまたその噂を実行しようとしました。

 私も噂を確かめたかったし、このところ疎遠になっていた悪友とも会えるし、やはり人気者なるのは気分も良かったのでその悪友とさらに4人加えて、合計6人で噂の検証をしようとしました。

 午後四時でも体育館が使われない水曜日に私たちは体育館に侵入しました。

………

……

 通常、体育館が使われない日は四時には体育館に鍵がかけられます。

 そこで、計画に加担していた一人が体育館の掃除担当だったので掃除の時間にわざと窓の1つの鍵を開け放ししておいて四時前にそこから私たちは体育館に侵入しました。

 私たちの学校の体育館はあまり広くはなかったのですが誰もいないそこは6人にとっては不気味なほど広かったのを覚えています。

 四時前の体育館は西日が差しているのにも関わらず薄暗く静かでなんだか寂しい印象を受けます。

 私たち6人は四時の五分前には体育館の中央に集合しました。

 そして、いよいよ午後四時に───。

 「よし、いくぞ」

 悪友がそう告げると後から付いてきた四人うちの一人が怖いから手を繋ごうと言ってきました。

 私も実際かなり怖かったので同意してみんなで手を繋いで歌うことにしました。

 そして、私たちは木の板に書かれた2番の歌詞を湧き上がってくる恐怖を抑え込むように極力元気に歌いました。

 歌い終わり、1分間ほど互いの顔を見合いましたがなにも起きません。

 なんだ、なんも起きないじゃん……白けた、帰ろうぜ〜! とみんなが帰路につこうと足を踏み出したその瞬間でした───。

shake

 突然、私の悪友が張り裂けんばかりの声で「逃げろッ!!!」と怒鳴りました。

 何事!? と考える間もなくパニックに陥った私たちはその場から一目散に逃げ出しました。

 平素、体力に全く自信のない私でしたが、この時ばかりは死力を尽くした全力疾走で走っている最中に疲れなど微塵も感じませんでした。

 悲鳴を挙げながら校門を駆け抜けていきました。

 そうして学校から一番近いマンションのエントランスに雪崩込んで体力のなかった私はその場で倒れ込みました。

 息も絶え絶えになりながら私は悪友のほうを見ると彼は立ったまま顔を伏せ肩を震わせていました。

 もしかして、泣いている? と思った次の瞬間、悪友はケラケラと大声で笑いだしたのです。

 「お前らビビり過ぎwww そんな全力で走んなよ! 俺まで疲れたじゃん!!」

 一瞬、思考が停止しましたが彼の言ってることで私は全てを悟りました。

 担がれた!? この時ばかりは目の前で大笑いしている悪友を本気で殴ってやろうと思いましたが、身体が疲れ切っていてとてもそんな体力は私には残されていませんでした。

 他の連中も同だったようで、最終的には皆で笑いながら悪友に悪態を吐くだけ吐いて解散となりました。

 私はなんとも情けない結末に苦笑するしかありませんでした……。

………

……

〜後日談〜

 皆で解散した後、私と悪友は帰路の方面が一緒だったため二人で並びながら帰りました。

 その途中で悪友がポツリと言葉を漏らしたのです。

 「なぁ、あの噂って『子供』の幽霊が出るって噂だよな?」

 「えっ? そ、うだと思うけど……」

 「床からめっちゃ『腕』が出てきたんだけど……」

 「……ちょっと待って! アレはウソでしょ!?」

 「───っていうか、なんで俺たち手を繋いで円になって歌ってたの?」

 背中からおぞましい寒気が駆け抜けます。

 そう、確かになんで私たちは手を繋いで円になっていたのでしょう? 

 ───まるで、なにかを呼び出そうとしていた。

 そんな予感がしてならないのです。

 その後、悪友は私を家まで送ってくれて別れました。

 悪友はさっき言ったことは二人だけの秘密としてほしいと言って帰っていきました。

 後日、学校内でこんな噂が新たに立ちました。

 ───『午後四時に体育館の真ん中で校歌の2番を歌うと魔物を引き寄せる』。

 その噂を耳にした私は悪友のところに真っ先に駆け込み、そのことを伝えました。

 すると、悪友はしばらく考え込んだ後に額を押さえて悔しそうに「あ〜! くっそぉ、やられたぁ!!」と言って教室を飛び出していきました。

 彼のいた教室にはわけがわからず呆けている私だけが残されたのでした……。

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