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当時、中学生だった私はオカルトブーム最盛期でネットで怖い話を漁っては同じ趣味の友人に話して「怖えぇ(笑)」など言い合っているだけでは飽き足らず、深夜二時に近所の心霊スポットに肝試し、自宅や友人宅でネットで見つけた怪しい降霊術を試したりと今思うとアホなことをしていました。
これは、そんなアホな私のオカルトブームの衰退を招いたお話です。
───かごめかごめ。
誰もが遊んだことはなくとも名前は聞いたことのある童謡でオカルトをかじっている人ならその歌詞に隠された様々な意味を知っていると思います。
その中の一説で『口寄せ説』というのがありました。
端的にいえば、かごめかごめをすることで真ん中の人間に霊を憑依させるものだそうでこれに目をつけた私はさっそく試してみることにしました。
……今思うと、この時から既に私はおかしかったのだと思います。
本来、『かごめかごめ』は複数人でやるものですが、その時、私は一人でやろうとしていたのです。
オカルト好きとはいえ基本的にチキンな私は肝試しにしたって降霊術にしたって必ず友人がいないとやろうとしませんでした。
どうしてそんなことをしたか今でも分かりません。
ただ、『そうするもの』となぜか分かっていたのです。
………
……
…
いよいよ実践の日、場所は私の部屋でやることにしました。
私は過去に閲覧した怪談から霊は深夜のニ時よりも明け方に近い四時頃に出やすいと思い、その時間までなんとか起き続けました。
時刻が四時を回った頃私はベットから抜け出して部屋の中央に座りました。
当時、私のスマホアプリに『心霊探知機』というものがあり、霊感が皆無だった私はよくそれを使っていました。
どうせならこのアプリを使って本当に霊がくるのか見てやろうと思った私はスマホを目の前に置いて『かごめかごめ』を始めました。
当然、部屋の電気は消してあり、スマホの画面の光が部屋をぼんやりと照らしていました。
「───かーごめかーごめ。かごのなかのとりいはいついつでやる───」
すると、『心霊探知機』のレーダの隅に四つの反応がでました。
私が部屋の中央にいるのですから、レーダの反応からして霊はちょうど部屋の四隅にそれぞれいることになります。
すごい! と思うと同時に一気に四体の霊の出現に私の心臓が縮み上がりました。
「───よあけのばんにつるとかめがすべった───」
この節まで唄った途端、四つの反応が一気にレーダの後方───つまり、私の後ろに集まりました。
これはまずいッ! そう思った私はすぐに歌を止めようとしました。
……しかし、口が止まらないのです。
まるで、何かに口を乗っ取られたように脳でどれだけ命令しても私の口が勝手に『かごめかごめ』を唄い続けるのです。
手で口を抑えようとしても身体も動かない。
私は座った姿勢のまま硬直し、口だけが『かごめかごめ』を唄い続けます。
「───うしろのしょうめん───」
すると途端に、顔を透明な何かが覆いました。
細くて柔らかい帯のような見えないなにかが私の顔の右のこめかみから左のこめかみにかけて掛かりました。
瞬間、私は恐怖のあまり涙が止まりませんでした。
───だって、それは帯なんかではなく小さな小さな腕と手だったのです。
その証拠に私の左のこめかみ辺りに掴まれたような感覚が走っていました。
しかもそれが一本ではなく複数本、私の顔に巻き付いていました。
顔の右から左にかけて腕をまわされた───つまり、私の後ろにいる『なにか』は次の一節で私を振り返らせようとしていました。
いやだ! 助けてぇ!! いやだ!!!
私は必死で口を止めようとしましたが、私の口は私の懇願を無視して唄い続けます。
いつしか、唄っていたその声も私の声ではない『だれか』の声に変わっていました。
「───ダァレェ……」
私の声でない『だれか』がその言葉を放った途端、巻き付いていた腕が私の顔を物凄い力で引っ張ります。
これで振り返ったら死ぬ!! そう直感した瞬間、動かなかった身体に自由が戻り私は抵抗します。
ですが、とんでもない力です。
とてもあんな弱々しい腕が出せるような力ではありません。
ギリギリと徐々に顔が後ろに向けられていくと私の耳に赤ん坊の声が入ってきました。
笑っている複数の赤ん坊の声、まるでやっと母親に会えたような嬉しそうな声───。
あぁ……もういいだろう。
背後で聞こえる嬉しそうな赤ん坊の声に私の母性があの子達のためなら振り向いてもいい───いや、振り向いてあげなくちゃ。
そう思い力を抜こうしたその時、部屋のドアが乱暴に開けられ中から寝間着姿の母が「やめなさいッ!!」と凄まじい怒声で一喝しました。
すると、あれほどしつこかった腕の感覚ががサッと消え私は解放されました。
状況が飲み込めず呆然とする私に母は「二度とあんなことをするんじゃないよ」と厳しくけれどとても優しく言い残し部屋を後にしました。
途端に涙と安堵が一気に湧き上がり、私は夜が明けるまでずっと一人で泣いていました。
………
……
…
〜後日談〜
朝になってとりあえず母に礼を言おうと母に礼を言うと「なんのこと?」と笑われてしまいました。
確かに、あの時飛んできたのは母でしたがその記憶が母にはありませんでした。
そして、その後、『かごめかごめ』についてネットで調べたところもう一つの説に『水子説』というのが載っていました。
母親を求める産まれることのできなかった子、子を守らんとする母親の情念───この二つの想いを私は身にしみて感じ、今後そういう不用意な行動もオカルトも慎むようになりました。
作者黒さん
はじめまして、黒さんです。
今回のお話が初投稿になります。
このお話は私が実際に体験したことをモデルに書かれています。
拙い文章ではありますが、どうか温かい目でお願いします。
似たような体験をしたよ! という方はどしどし感想のほうへお願いします!!