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包帯をされてウットリと嬉しそうに腕を見つめる香織に向かって
「こんな事する前に絶対電話かメールせえ!」
と声を荒らげてしまいました。
「そうしたら...旦那も置いて助けに来てくれる?」
香織はいやらしい笑みの中に悲しげな雰囲気も混じりとても複雑な表情で私に問いました。
「はぁ...友達がこんな事するの見てられる?」
軽くため息を吐きながら私も問いました。
「分かんないの。こんな事する人居なかったし。」
「...そう。分かった。」
私は香織の近くにあったカッターを取り、パキン...と新しい刃に変えると
「分からせちゃるわボケ。」
怒りと悲しみと呆れで頭が麻痺をしていたせいもあり力の限り自身の左手首にカッターを振り下ろしました。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
香織は今までに見た事も無いくらい目を見開き叫びます。痛みなど感じませんでした。
「分かる?友達が傷付くと悲しいんだよ!!こっちだって心が痛いよ!!!!!腕の傷はいつか治るけど...心の傷は治るのに時間もかかる!いつまでも痛いんだよ!!!!!」
香織の自分勝手な言い分と、大切な身体に傷を付けて喜ぶ様を見て私もおかしかったのでしょうね。
「ハル...ごめん!お願い!!!!!もうしないで!!!!!」
「香織は!?」
「しない!しないから!!!!!もうカッター捨てて!!!!!」
ボロボロと涙を流す香織はごめん...ごめん...と呟きながら私の腕を優しく消毒し、ガーゼをあててくれました。
「香織?私だけじゃなくてさ、まー君も香織と同じ悲しみ味わってるんだよ?」
「.....はい...帰ってきたらごめんって言う...」
「ごめんなさい、でしょ?子供かっ!」
「へへっ...ハルが怒ってくれるなら子供でいいや〜」
「こんな大きい子供いらんわ!」
次第に笑顔になり、ふざけ合える事が出来た頃には日も暮れていました。
「あ〜...旦那とご飯行く約束してるからそろそろ帰るね。」
「ハル...今日は...」
俯きながらもじもじする香織...
「ごめんなさい...ありがとうございました...」
「やれば出来る子!んじゃまた何かあったら言ってな〜!」
少しでも香織が良い方向へと変わってくれたら良いな。と思いながら電車に揺られ帰路につきました。
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「そんな事あったんや〜。ばって、なんでハルが切る必要あったと?」
渋い表情をする旦那とイタリアンの個室で今日の出来事を話しました。
「よう分からんかったんやけど...カーって頭に血がのぼりよって...」
「馬鹿か、きさん...」
おっしゃる通りでございます...
「仕事に差し支えよろうが...」
「そこは大丈夫たい!メイクさんに隠してもらうき!」
それでも嫌そうな顔で私を睨む旦那から
「香織ちゃんて子とあんま関わらん方がいいんやない?」
「うーん...普段はいい子やし、今度会う?話してみる?」
「まー...時間合えば.....」
多分会う時間なんて作らないであろう旦那はそこで話を変え、やりたい事一覧を挙げよう!という話題に変えました。
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次の日の夕方の事
(((ブーブー...ブーブーブー)))
香織専用携帯に電話がかかってきました。
(まさ)
香織の彼氏だ...なんだろ?
「も...もしもし...はるさんでしょうか?」
「そうですけど。」
「初めまして...香織の彼氏のまさです。昨日はありがとうございました。」
「いえ、友達の事助けるの当たり前ですから。」
「ありがとうございます...あの!お聞きしたいことがあって...」
「はい?」
「最近...でもないんですけど、香織、ウイスキーラッパ飲みして精神安定剤?飲むんです...そうすると変な事言い始めたり、壁とか床に頭思いっきり打ったりで...どうしたら良いですか...」
香織の家に転がる酒瓶と缶はそれか...などと思い、まー君も大変だろうに...ともの哀しくなりました。
「とりあえずお酒の量を決めて、飲んだ日は薬をどうするか病院に2人で行って相談したり、自傷行為が始まったら風呂場で水でも掛けたら我に返ると思います。香織の場合は...」
「...精神病院ですか...2人で行ってみます...はるさんも居るんですよね?確か。よく眠れますように。」
「あ、ありがとうございます...」
そうして電話を切りました。
香織は大酒飲みだと話しては居たものの私が呑まないので合わせて飲まないようにしていてくれたのか、1人じゃ呑まないのか、そんな姿は見た事がありませんでした。身体にも心にも薬と酒の合わせ飲みは良くないよ、香織...洗濯物を畳みながら溜息が零れていくばかりでした。
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その日の夜、旦那の顔が腫れ引っ掻き傷を作って帰って来ました。もう怒りのあまり震えております。
「何その顔!喧嘩でもしたの!?」
「お前の友達の酔っ払いから電話来て呼び出されて!!!!いきなしこんなされたんじゃ!!!!」
「え!?友達!?」
「香織ちゃん!!!!」
何故こんな事をしたのか、何故旦那の連絡先を知っていたのか聞くためすぐさま香織に電話を掛けました。
「香織!!!!何てことするん!!!!」
すると香織は楽しそうに笑いながらこう言いました。
「あはははは!!!!見た!?ハルの事独り占めするから、ハルの事奪おうとするから、だからやってあげたんだよ!」
私は香織の物でもなければそんな約束だってした覚えがありません。
「香織!!!!私の大切な旦那なんだよ!?こんなことして許されると思う!?」
「ねぇ...今なんつった?大切?そんな男が??私より大切なの??」
香織の声とは少し違い、男性の様な女性の様な聴き取りにくい声でした。
(怯んじゃダメだ!!)
「大切だから一緒に居るんでしょ!!!!まー君が同じ事されて許せる訳!?」
「無理に決まってんじゃん。だって私のだもん。」
あぁ...香織はもうダメだ...関わっちゃいけないのかもしれない...そんな考えが過り
「こんな事するんやったら香織ともう会わないし話もできん。」
「え...?なんで?私良い事したはずだよ?家庭は壊してないよ?」
香織は楽しそうに言います。
「危害加えることが...!!!!迷惑だよ!!!!良い事な訳ないやん!!!!」
するといつもの香織の声に戻り
「い...嫌だ...ハルがいない生活なんて無理だよ...!!!!」
「それに!旦那の連絡先だって勝手に携帯見たって事だよね!?親しき中にも礼儀ありって言葉知らないの!?」
「だって...ハルの旦那が羨ましかったから...」
「羨ましいからってこんな事して良い訳ないよね!?」
shake
「やだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
鼓膜が破けるんじゃないかと思う程の叫び声で、思わず携帯を耳から遠ざけました。
「子供みたいな真似するならもう友達でもなんでもない!」
ハッキリと強く厳しく言い放ってしまいましたが香織は泣くばかりで話になりませんので
「反省して謝りに来い。まー君と一緒に!」
何故香織の彼氏を同伴させるかと言いますと、香織が暴れた時に、錯乱した時に傍にいてくれる存在が居ないと危ないと判断したからです。
「う.........ぅ...ん...」
その後21時を回った頃、香織と香織の彼氏が現れ謝りに来ましたが...
(酒くっさ!!!!)
香織の彼氏は旦那の顔を見て青褪め香織の頭を床に擦り付けて延々と謝ってきたので旦那も溜息を吐きながら
「香織ちゃんの彼氏悪ないし、もう反省したならええよ。反省したなら...でも女だから何もせんかったけど、次はこっちも何するか分からんから近寄らんで。」
旦那の香織を見る蔑んだ眼は本気でした。そして言い終わるとリビングに戻るのでした。
「香織にもよく言い聞かせますし、ちゃんと反省させますんで...」
香織は哀しげでありながら絶望した、という言葉が当てはまる表情で終始俯いてぼーっとしていました。
「遅くなるから気を付けて二人共帰ってね。」
そうして二人は帰っていくのでした。
(あの時香織は何を思っていたんだろう...あんな暗い顔して...)
思い返しながら次第に薬によって眠気に誘われ、夢の中へと落ちていきました。
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その後何週間か香織とは連絡を取らず、私も仕事に追われあの日の事を忘れていきました。
仕事も落ち着きやっと休暇に入った頃
♪~♪♪~
03XXXXXXX
「なんだこの番号...」
知らない番号からの着信でした。
「もしもし...どちら様でしょうか...」
「突然失礼致します。私、りく...香織さんの職場の橘と申します。」
息を切らした男性の声と後ろからは香織の声と思しき叫び声...
「どうされました!?」
「接客中だったのですが、突然お客様に暴言が始まりまして、駆け付けるとお客様に暴行を加えようとしていたので抑えつけたところです!そしてハル!!!!!!!!!!!!!!!助けて!!!!!!!!と叫び始めたのでお電話差し上げました...」
「電話はできそうな状態ですか??」
「いえ...何を言っても聞こえていない状態です...こちらに来てはいただけませんか?勿論タクシー代はこちらで負担させていただきます!!!」
吉原など行ったこともなく、未踏の地であったのもあり躊躇っていると
「決して怪しいことも危ない事も致しません!事務所様の目もありますし...それにりく...いえ、香織さんをどうにかしてくれそうな方が貴女しか居なそうだったので...」
「分かりました。タクシーに乗るので場所の説明をお願いします。」
バッグを手に取りエレベーターに乗り階下へ降りるとマンションのロータリーにちょうどタクシーが来ていたので急いで乗り込みました。
「すみません!電話代わっていただけますか?」
タクシーの運転手さんにそう告げると場所の説明を受け、タクシーは走りだしました。運転手さんも聞いたであろう香織の叫び声に顔を引き攣らせ終始無言で香織の職場へ向かい30分程すると
「到着致しました。」
そこには京都に建てられた一軒家のような見た目はお茶屋さんの様な大きなお店があり、黒いスーツを着た男性がこちらへ走ってきました。
「お会計は私が。」
とその男性は支払いを済ませ先程お電話を差し上げた橘と申します。と名乗り速足でお店の中に通されました。
「香織はどこに?」
問うと松鶴という部屋へ通されました。正直異様な風景でした。10畳程の部屋に簡易ベッドと風呂場...初めて見る物に目をキョロキョロさせてしまいました。そのベッドの上に香織は寝ていました。しかも酒臭い...また飲んだんだ...
香織の周りにはウーロン茶のペットボトルと先程まで飲んでいたであろう酒瓶が置かれていました。
「香織????かーーーおーーーりーーーー!!!!!!!!」
「ふぇ~...やっぱり来てくれたんらぁれ~」
香織は笑顔で私を抱きしめ、えへへ~と笑っていました。呂律の回らない香織...
「この馬鹿!酒のんで暴れて...迷惑考えんと大人なんやから!!」
本当に本当に香織は酒臭く耐えがたかったので、お店の方へこのお風呂を借りてもいいか?と許可を取り身体から頭まで洗ってやりました。
「ハル~...頭痛いろ...そこのペットボトル取っれ...」
ウーロン茶のペットボトルを取れと言います。仕方なく開けると...それは酒でした。
「馬鹿が!水でも飲め!!」
「仕事やらよ...クレームばっかで指名ももらえない...」
「よく分からんけど...酒臭い女なんか嫌やろ!」
香織はアルコールにも依存が激しく隠れて飲んでは接客するお客さんに新しい酒をせがんで、休憩中にそれと安定剤をのんでいた様です。
「香織...もうこの仕事辞めな。迷惑かけて居場所なくなるよ...」
「うん...」
香織を洗い終えると香織はボタンのついていない受話器でどこかへ電話している様でした。
「今から支配人さんくるっえ~」
そうすると先程の橘さんという方がやってきました。
「この度はご迷惑おかけして...」と言うので
「いえいえいえいえ!こちらこそ香織がとんだご無礼を...」
二人で話している間香織はヘラヘラと笑っていました。
「香織も謝りなさい!」
「すませんれしら~えへへ~。」
橘さんは苦笑し、私に茶封筒を渡してきました。今回のお詫びと来ていただいたお礼に...と。
「受け取れません!私来ただけやし迷惑かけたん香織だし...」
「いえ、本当に助かりましたしお気持ち程度なので...受け取っていただかないと私が社長に怒られますから...」
申し訳なく思いながら受け取り、香織にも茶封筒を渡しました。
「りくさん。今日のお給料です。それと、もうこのお店では働けませんがいいですね?」
厳しく言い渡す橘さんに
「お世話に...」
shake
ガン!!!!!!!!
香織が橘さんの喉元を掴むと力の限り床に叩き付け
「なってねぇよくそったれ!!!!!!!!二度と来るか!!!!」
首を絞めているのを見て
「香織!!!!いい加減にしろ!!!!迷惑かけたのこっちやろ!!!!」
と引っ張りました。そうすると香織は
「ハル帰ろ。じゃ、ばいばーい!」
と言って私の手を引きお店から駆け出して大笑いしていました。
「気に入らなかったんだよねー!いつやってやろうかって思ってたー!あはははははは!!!!」
香織の目はどこか狂気混じりでした...
作者。❀せらち❀。
元友達であった香織の話続編です。
多分次がラストとなりますがお付き合いくださる方
お読みくださる方、ありがとうございます。