wallpaper:2532
お仕事が忙しいのに、今日はごめんなさいね。
来年の春にはあの子も幼稚園でしょう?
そのことで、どうしても貴方に相談したくて。
nextpage
あの子?
今日は姉に預けているわ。
今頃は、従姉とあの子の好きなおままごとでもして遊んでいるんじゃないかしら。
そうね・・・。
あの子がいないと、まるで火が消えたみたいに静かで・・・淋しいわね・・・・・・。
nextpage
あの子ったら天真爛漫そのものだから、一緒に買い物に行っても、どのお店でも可愛がられているのよ。
可愛いツインテールで、人懐っこい笑顔でお店のおじさんやおばさんに舌足らずに話しかけるんだもの。
親馬鹿だって言われそうだけど、私がお店の人でもファンになってしまうわ。
nextpage
そうよね。
貴方があの子を可愛がっているのは、勿論知っているわ。
それなのに、貴方が帰って来るのにあの子を姉に預けたって・・・そんなに怒らないで。
私だってあの子が可愛くて仕方ないわ・・・。
でも、今日は大切なお話があるから。
それよりも会社から真っ直ぐに来て下さったんでしょう?
食事を用意しているから、召し上がってね。
nextpage
wallpaper:4068
覚えてる?
貴方と初めてデートをした時、貴方が連れて行ってくれたレストランで食べたメニュー。
お肉の大好きな貴方の為に、取って置きのご馳走を作ったのよ。
昼間から煮込んでいたビーフシチューはいかが?
仔牛肉がトロトロに柔らかく煮込まれて、蕩けそうよ。
骨付き子羊のローストは貴方のお勧めだったわよね?
勿論、貴方の好きなボルドーのワインもよ。
いつか貴方が買って来たリーデルのワイングラスも磨いておいたわ。
そんな事言わずに召し上がって。
スパイスの効いたローストビーフも。
nextpage
美味しい?
お代わりなら未だ沢山あるわ。
だから、ゆっくり食べてね。
うふふ
良かった・・・。
貴方が喜んでくれるなら、長い時間下拵えして作った甲斐があるわ。
nextpage
wallpaper:4069
え?
そう?
いつもの私と違う?
そうかしら?
いつもは暗くて陰気だなんて、そんな言い方・・・ちょっと失礼だわ。
今日の私がいつもの私と違うとするなら、貴方に久し振りに会えた喜びと、私の中で吹っ切れたからかもしれないわ。
何が?って・・・
私に言わせるつもり?
nextpage
そんな・・・。
貴方に謝らせるつもりで呼び出した訳じゃないわ。
貴方に殴られたり無視されるのは、もう沢山だけど・・・。
アハハ
だから、もう謝らなくて良いから。
nextpage
え?
離婚届?
私が署名をして判を押せば良いだけ?
あの人との間に子供が出来た?
ウフフフフ・・・・・・・・・・
知ってたわ。
だから、私とあの子を捨てて出て行ったんでしょう?
nextpage
ううん。
恨んでなんていないわ。
ただ・・・
あんなに可愛がっていたあの子を貴方が捨てるなんて思わなかったから。
nextpage
え?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あの子を貴方が引き取って育てる?
nextpage
裁判?
ウフフ!
大丈夫よ。
私は争ったりしないから。
nextpage
wallpaper:4070
え?
何で?って・・・
nextpage
あの子がお腹にいる時が一番幸せだったわ・・・。
貴方は優しくて素敵で、私をとても大切に、愛してくれた・・・。
そして私のお腹で、私の血肉を分けてスクスク育って行くあの子の命が本当に愛しくて。
あの時が私の人生で一番の幸せな時間だったの。
nextpage
男の人にはそんな気持ち、分からないでしょうね。
なのに何で、そんな愛しいあの子を手放すのかって?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
nextpage
手放したりなんてしないわ。
あの子は私の命そのものだもの。
心はいつだってあの子と共にいるんだもの。
それにしても、貴方・・・よく食べたわね。
ワインも随分飲んだわね。
nextpage
wallpaper:4071
あら?
眠くなって来ちゃったの?
今日は家で休んで行かれる?
nextpage
アハハ
冗談よ。
あの人が待っているんですものね。
nextpage
あら!?
もう帰るの!?
何だ・・・トイレなのね。
急に席を立つから帰るつもりなのかと思ったわ。
デザートも用意してありますから、召し上がって行ってね。
nextpage
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
nextpage
あ・な・た!
いつまでそんなところで寝てるの?
最後にデザートを用意しているって言ってるじゃない?
だから、早くテーブルに戻って。
nextpage
だから・・・
だから・・・
早く席に戻って・・・
あんな獣みたいな悲鳴を上げるから、私ビックリしたわ。
nextpage
浴室にあの子がいた?
本当は、貴方が来るずっと前からいたのよ。
姉のところへなんて、預けてなかったのよ?
nextpage
wallpaper:4072
アハハ・・・
蕩ける様な柔らかいビーフシチューも、子羊のローストも、ローストビーフも・・・
貴方、美味しい美味しいって食べたじゃない?
nextpage
・・・
私の分身のあの子・・・
・・・
愛しい貴方と私の命と言っても言い過ぎじゃないわよね?
・・・
nextpage
・・・
あの子は貴方と私の血肉に戻って・・・
・・・
貴方と私を繋ぐ鎹(かすがい)になってくれたの。
・・・
nextpage
wallpaper:4073
あらヤダ・・・
ちょっと叩き過ぎちゃったかしら?
金槌も血塗れ
ウフフ
貴方の顔も、もう誰だか分からなくなっちゃったわ。
貴方があんな声で叫ぶから!
nextpage
これじゃ、もうあの人の元に帰れないわね。
あの子の次は、貴方・・・・・・
アハハハ
でも、どんなに上手に料理しても、もう貴方に食べさせてあげる事は出来ないけれど。
nextpage
wallpaper:4074
愛してるわ・・・・・・貴方・・・・・・
もう・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一生・・・・・・
nextpage
は・
な・
れ・
な・
い・
・・・
作者鏡水花
2015年7月に投稿しました
は・な・れ・な・い・・・です(*´ー`*)
なんとも、後味の悪い話しかと思います(_ _;)
只今、新作の作成中ですので、今暫くお待ちくださいませ♬