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短編2
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八月六日の記憶

生まれ変わりというものは、存在するのでしょうか。

今回のお話は、そんな内容です。

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今年も、八月六日を迎えました。

広島に、原子爆弾が落とされた日です。

私の家に遊びに来た姉が、テレビの電源を入れました。

『その川には、大量の死体が折り重なってーー』

パチ

瞬間的に姉はテレビを消しました。

「……どうかしたか?」

と、聞いてみたのですが、

「……アハ」

答えてくれません。

どうかした?ともう一度聞くと、姉は小さく答えました。

「苦手なんだよ、ああいうの」

呟いて、和室の畳にぺたんと座りました。

「なんか、気持ち悪いんだ。あの時の光景が頭に浮かんでさぁ」

姉はまだ若いです。三十代にさえ遠い。

なのに、頭に浮かぶと言いました。

私は何だか気になって、姉を問い詰めました。

「どういう事が浮かぶの?」

「あぁ、うーんとねぇ。なんて言うんだろう……自分の手のひらを、見つめてるんだ。その視界の隅で、人が逃げ惑ってる。私は私の焼けただれた手のひらを見てるだけ」

頭に浮かぶのはその映像だけで、爆弾が落とされて三日後の絵や写真を見せられても、ぴんと来ないんだとか。

「多分、落とされた直後だよ。私が“思い出す”その映像はさ」

どうやらその映像は“想像する”のではなく、“思い出す”という感覚らしいです。

ちなみにその姉は、高校野球のサイレンが苦手でした。

戦争を連想してしまって、嫌なのだとか。

姉の他にも、そのサイレンが苦手な人はいます。けれど、そういう人はみんな、戦争経験者なのです。

姉は戦争なんて経験したことはありません。そもそもあり得ないのです。

なのに姉は“覚えている”。それは、生まれ変わり以外の何ものでもないのでは……。

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翌日、姉に電話をかけました。

「昨日は大変だったねー」

と。

電話に出た姉は、きょとんとした声で、

「何の事?」

そう言いました。

昨日の、戦争のテレビの事だよ、と教えると、

「あぁ、それね」

と一言。そして、

「覚えてないや。なんかああいうの、日付 またぐとぽーんと忘れちゃうのヨ」

この、へんてこな姉。

どうやら、八月六日じゃなくなると、想像した事を全て忘れてしまうようです。

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