私が小学生の頃の事です。
私のクラスメイトに、Aという子がいました。
いつもクラスの中心にいて、みんなを明るくしてくれるムードメーカーでした。
その子は運動神経が良く、体育ではみんなの憧れの的……というよりは憧れそのものでした。
Aはよく笑っていました。誰から見てもいつでも楽しそうといえるほどです。
そんなある日。
私が教室に忘れものをして、取りに戻った時でした。
教室の中から声が聞こえました。
Aでした。
私もAには良くしてもらった事もありましたが(係の仕事などで)、仲が良い訳ではありません。
果たしてAは、机に向かって、一人で勉強をしながら泣いていたのです。
何だか教室に入るのもいたたまれなくて、
その日は忘れ物をしたまま家に帰りました。
Aは、翌日はとても明るく笑っていましたが、それが作り物に見えて、私はその日はAを見る事ができませんでした。
一週間くらい経った頃です。
私はまた教室に忘れ物をしてしまって、
取りに戻りました。
以前と同じように、教室にはAが残っていて、私はすぐには帰宅せずに、Aの事を観察していました。
すると突然、Aは、もう嫌だ!と叫びだし、カッターでおもむろに手首を切り裂いたのです。
私はもう、足が動かなくなってしょうがなくて、一生懸命に足を動かしてその場を後にしたのです。
あの時のAの顔は、苦痛でいっぱいでした。なのに涙が少しも流れていないのが、怖くて怖くて、私は誰にも言えませんでした。
翌日は、やはりAは……手首には包帯が巻かれ、「猫にひっかかれたんだ」と、声を立てて笑っていました。
私は、前よりも強い、ただならぬ恐怖を感じましたが、前とは逆に、Aから目が離せませんでした。
あの時手首を切ったAは、Aの本当の姿なのでしょうか?だとしたら、みんなと笑っているAは……?
作者マコト
この度は、拙作を読んでくださり、ありがとうございました。コメント等頂けたら、とても嬉しいです。