私はいつも母の仕事の都合で、毎週父の実家に預けられていた。
家には祖父と祖母、(おじいちゃんとおばあちゃん)が住んでいたのだが
その家の前に道路が通っていてその先には大きな川が流れていた。
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家の中は自分が遊べそうなものなど少なく楽しめる物はテレビ、それくらいだったと思う。
たまに家から勉強道具やゲームを持ってきて遊んでいたが、主に外で遊ぶことが多くそれくらい暇だった。
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家の前の交通量の多い道路、すぐ後ろの少し落ち着くような広さの庭で遊んでいた。
ただ、家の後ろは電車が通る。危ないからそこを通るのはやめろといつもおじいちゃんから言われているところがある。
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少し説明の仕方がおかしいかもしれないが、家の後ろはすぐ後ろは通路になっていてそこまでなら許してくれた。
さらに後ろが大体5mくらいの丘状に横に連なっていてそこの上を電車が走るという仕組みになっているのだ。
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電車が通るくらいでそんなに念を押すか とは思っていたが、私はそこまで深く追求する事はしなかった。
昔は、丘の向こうがどうなっているかという疑問よりもおじいちゃんからの恐怖が勝っていたからだ。
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だが、一度だけ中二の頃に丘の向こうを覗いてしまった事がある、
それがあの後悔へと繋がってしまったのだ、、、。
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中二の夏休み とても蒸し暑く、扇風機も暖房のようだった。
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少し気分をほぐそうと外に出ようとするとまたいつものようにおじいちゃんが
「電車が通るから丘の向こうには行くなよ」
と言ってきた。またかと思い、
「分かってるよ!」と少し腹立ち気味に外に出たんだ。
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そして私が出た後におじいちゃんも用事があるらしく、どこかぎこちなさのある軽トラックに乗りどこかへ行ってしまった。
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日の当たらない影になる所で、毎日おばあちゃんが手入れしている盆栽、鉢を眺めているのがとても面白い。
そして10分ほど経っただろうか。盆栽を見るのにも少し飽きてきた頃、音が聞こえた。
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「ザク、、、ザク、、、」
と何か土に何かが刺さるような音が聞こえる、、
なんだ、、?丘の向こうからその音が聞こえてくるのだ。
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丘の向こう・・確かめて見たい、、。
そんな好奇心がどこからかわいてきた。
無意識に丘の前まで来ていた。足が勝手に動いていた。
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入ってはいけないと何度も言われてきたのに言いつけを破っていいのか?
と思ったが、おじいちゃんはあくまで電車に気をつけろと言っているだけであって、
入ってしまえば問題はない。と勝手に解釈をし、入る事を決める。
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そんな事を考えている間も
「ザク、、、ザク、、、」
という鈍い音は等間隔で聞こえてきている。
丘を越える為の横にだいぶ見えづらくはなっているが道がある事は知ってる。
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小学生の頃に見た事もない人が丘の向こうに行くのを見た事がある。
今思えばその人からは妙に生気が感じられなかったのだ。
昔の百姓のような姿見で手や足が人間とは思えないほど干からびているように見えた。
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早歩きでその道の前に着く。あまり近づかないようにしていたので気づかなかったが、黒くなった布のようなものがそこらそこらに落ちていた。それが少し気になったが、いまは音がなんなのか気になっていた為気にせず私は走る。
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向こう側が見えるか見えないかぐらいのところまで来ると少し肩が重くなった気がした。
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一番上 線路のところまで来た瞬間、音が消えた。
え?と思いながら辺りを見回してみたが、どこか殺風景でもうとっくに使われていないような農耕具や畑があるだけで、土を掘ったような形跡はない。
その奥は針葉樹がたくさん生えている山が壁のようになっている。
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勘違いなのか、?なーんだと思い、
そこを去ろうと後ろを向いた瞬間、
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どこからか視線を感じた。それと同時にツンとした感覚も体が感じた。
その視線は前からではなく後ろから見られているとそう直感的に感じた。
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恐る恐る後ろを見た。 その視線の先に映ったものは
かかし、、、?
よく畑で見る鳥から農作物を守るかかしがこっちを見ているようにみえた。
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遠くてよく見えないが、どこにでもあるものと変わらない形をしている。下半身は草に隠れてよく見えない。
私は驚いて動けずにいるとかかしらしきものは、後ろを向き奥へと消えて行った。
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思わず追いかけるように急な坂を駆け下りていき、そのかかしがいたところへと走って行こうとするが草が邪魔をして思うように走れない。
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やっとのことで草のない砂利道へと足をつける。
前を見ると山の上へと続くでこぼことした不安定な道があった。それをたどって上へと走って行く。
2、3分走った所に柵で囲われたお堂があった。
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柵の周りには所々にお札が貼ってあり、
それを見て不気味さを感じずにはいられなかった。
外は薄暗くなり、親が迎えに来る時間かなとふと思い、諦めようとした瞬間、
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「ザク、、、ザク、、、」
またさっき聞いた音が聞こえた、、。
え、、 お堂の中からその音が聞こえて来る。
本当はものすごく帰りたかったが、好奇心が勝ってしまった。
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柵の入り口には鍵がしてあり、よじ登るしかなかった為、音を立てないようにゆっくりと柵の中に立ち入った。
今思っても何故あそこに踏み入れたのか不思議に思う。
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music:3
地面に足をつけた瞬間、キーンと耳鳴りがし、頭が痛くなったが、音の正体を知る為にお堂の中を顔だけを出して、恐る恐る覗いて見たが、もう薄暗い為 中はあまり見えなかった。
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だが、かすかに奥で何かがうごめいているのが見える。
もう少しでなんなのかが分かる直前で、
「ギッ」と床を軋ませてしまった。
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声も出そうになり、慌てて口を塞ぐ。
暗闇の奥にいる影もそれに気づいたのか、
動きを止めた。
そして、多分立ち上がったのだろう影が奥で大きくなる。
「誰だ!」多分、そう言った。何人もの声が重なったように聞こえた。
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まずい!私は急いで柵をよじ登る。怖くて後ろは振り向けない。だが足をかける為に少し足を見た時手があった。
それはもう私の足を掴むとばかりの距離まで近づいてきている。
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だが間一髪、ギリギリで外に出ることができた。
急いで立ち上がり、走り出す。柵から少し離れた所で振り向いた。その視線にあったのは、かかしだった。
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だが、普通のかかしではなかった。足が二本あり、二本ともが、人の生足だった。さらに顔が怒り 悲しみ 面白さが、合わさったような顔をしていて、百姓のような姿見だった。
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それは柵の乗り越え私を追いかけてきていた。
私は発狂しながら逃げていた。
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music:4
真っ暗になり道を頼りに走った。恐怖に覆われ、疲れなんかまったく感じなかった。あんなに転んでいたのによく追いつかれなかったの今でも思う。
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やっとのことであの丘の畑に出た。
丘の上に立つと警察がたくさんきていた。
私が帰ってこなくて心配になったおばあちゃんかおじいちゃんが通報してくれたのだろう。
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やっとの事で戻り、戻ってきた自分を見て二人は少し驚いた顔をしていた。怒られるのかなと思ったが、戻ってきた自分に対して泣いてくれた。私も泣きながら一生懸命謝り、もう2度とあそこへは行くなよと最後に言われた。
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後に分かったことだが、昔この辺りに村があったらしい。
おかしい風習があったわけでもなく、いたって普通の村だったらしいのだが、1人の中年男性が引っ越してきたらしいのだ。
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それがまずかったらしく、その男はかかしを一体作りたいといったそうでそれをみんなに聞いて回ったそうだ。
何故こんなことをしたのかと疑問を持っただろう。
そんな事を村人に聞いて、いいんじゃないですか?と返事が返ってきたらその村人の体の一部(手 足 顔の一部)を切断したそうだ。何人もの村人の一部を組み合わせてかかしを作り上げたらしい。
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だがその男は、1年もしないうちに不可解な死を遂げた。
建物が倒れ男が下敷きになったらしい。顔は笑ってるのか怒っているのか分からない表情をしながら潰れ、手も足も曲がってはいけない場所に曲がっていたそうだ。
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それからあのかかしはあの男の家には無く、何人もの村人が探したらしいが結局見つからなかったという。
いまでもあの家の庭に行く時がある。
「ザク、、、ザク、、、」
という音が聞こえる時があるが、もう行かないようにしている。
作者monkeysaiber