う〜ん…。
全然寝れん…。
僕は一人布団の中で中々重たくなってくれない瞼を無理やり閉じ、物思いに耽っていた。
昼間に起こった一連の騒動。
そして来夢と誓い合ったお護りさんと闘う道。
昨晩と同じ部屋で同じ様に横になる僕に、恐怖心が無いと言えば嘘になる。
だが、逃げる事を止め、闘う道を選んだ今の僕は今朝の僕とは違い、妙に落ち着いていた。
闘う…か。
闘うって…どうやって闘うんやろ?
来夢はあの目があるけど…俺には無いし…。
この左目もどんな力があるんか誰も分からんし…。
?!
瞼を閉じ、そんな事を考えていた僕の耳に聞こえたまだ記憶に新しい音。
途端に僕の脳裏に甦るお護りさんのあのおぞましい姿…。
「ズ…ズ…」
僕は布団から飛び起き必死に考える。
どうするどうする!
また廊下に飛び出すか?いや、それはあかんやろ!
反対側の扉から逃げ出して来夢呼ぶか?
そうやな…それしかない!
そう思い立った僕は直ぐ様、廊下と反対側にある扉に手をかけた。
?!
扉に手をかけ、その扉が開かれる瞬間、何者かによって背後から肩を捕まれた僕。
「ヒャっ!」
恐怖からなのか声にならない声を上げる。
見たくはない…。
見たくは無いがこのままでいる訳にもいかない…。
そう考えた僕は覚悟を決め、ゆっくりと後ろを振り向いた。
「どこいくんだよ?和尚。」
?!Σ(゜Д゜)
そこに立っていたのはお護りさんでは無く、笑いをこらえながら僕を見つめる来夢だった。
「お前シバくぞ!
めちゃめちゃ焦ったやんけ!
?!
おい!和尚てなんや?!
和尚ってなんや!!」
来夢は問い詰める僕の肩をポンポンと叩き宥めようとする。
だが、そんな事で僕の怒りが治まる訳がない!
「大体お前、紛らわしい歩き方すんなや!
ちゃんと足上げて歩け!
分かったかボケ!
ほんで和尚てなんや?!
誰が和尚やねん!」
背後に立っていたのがお護りさんでは無く、来夢だった事に安心はしたものの、僕の怒りはまだ治まらない。
「冗談だよ(笑)
あんな事があった後だから、ちゃんと眠れてるか心配になって見に来たんだよ。」
来夢…。
俺を心配して…。
「そ…それなら普通に来てよね!
びっくりするじゃない!」
ここでようやく落ち着きを取り戻した僕は、いつもの調子で来夢とじゃれあった。
「それよりカイ?
お前、ウチに来てから全然外に出られていないだろ?
ちょっと散歩でもするか?」
そう言えば今日、来夢の家を飛び出すまで僕は、外へ一歩も出てはいなかった。
「でも、外でたらヤバいんちゃうん?」
今の僕は来夢と同じ青い目を持つ。
そして、その目にはこの世の者で無い者達が映り込み、ソレラに見えている事が悟られてしまうと善意、悪意に関係無く、次々に寄って来てしまう。
祓う力を持たない僕にとってはかなり危険である事に代わりはない。
それに…僕に何かあれば来夢にも迷惑が…。
「カイ一人なら危ないだろうな。
でも、僕が一緒なら大丈夫。
それに昼間に出歩くと、それこそ生きている人達に迷惑を掛けかねない。
でも、この時間なら人も少ないだろうし。」
来夢…。
来夢なりに僕の事を考え、少しでも僕の不安を解消しようとしてくれている様だ。
「仕方無いわねぇ…。
そこまで言うならデ―トしてあげる!
でも先に言っとくけど、私そんなに軽い女じゃないんだからね!」
……………。
「行くぞ?和尚。」
?!Σ(゜Д゜)
来夢は華麗に僕をスル―すると部屋を後にした。
取り残された僕は慌てて来夢の後を追い、二人で家の外へ出た。
見慣れた道。
飽きる程に歩いて来た道が、今はとても新鮮に思える。
心なしか空気も美味しく感じてしまう。
まぁ、排気ガスで汚染された空気が美味しい訳は無いのだが、少なくとも今の僕にはそう感じられた。
来夢と肩を並べ、ゆっくりと歩く僕。
今は全てを忘れ、穏やかな気持ちになれる。
僕はこの状況をゆっくりと楽しんでいた。
そして僕達二人は、公園の前に差し掛かった。
昼間は子供達で賑わうこの公園も、今は静けさに包まれている。
と、そんな公園のベンチに横になっている人が見える。
ス―ツを着た男性。
サラリーマンか?
その男性はどうやら酒に酔っているらしく、ベンチに仰向けに寝転がり、何やらブツブツと独り言を言っている。
「あんな所で…。
無用心だなぁ。
何もなきゃいいけど…。」
酒に酔い、ベンチに寝転がるサラリーマンに対しても、来夢は優しい気遣いをみせる。
こいつ…ホンマにええやつやなぁ…。
「来夢?
あのサラリーマンに危ないし家で寝ろて声掛けたろか?」
来夢の優しさに答える様に僕は提案した。
「大分酔ってるみたいだけど、話しが通じるかなぁ?」
来夢はそう言いながらもサラリーマンに歩み寄って行く。
普通なら誰しもが見て見ぬふりをするだろう。
でも来夢という人間は違う。
誰よりも他者を思い気遣える。
本当に良いヤツだ。
僕はそんな来夢にゆっくりとついていき、あと僅かでベンチに辿り着く距離まで近付いた。
その時。
「なんやねん…文句あるんやったら自分でせぇや…。
ホンマ…鬱陶しいんじゃハゲが!」
先程からサラリーマンがブツブツと言っていた話の内容が耳に届いて来た。
話を聞くと、どうやらこの男性は会社の上司に対しての不満を漏らしている様だった。
「かかってこい!ハゲ!
何を偉そうに…。
殺したろか!」
?!
「ぐぁっ!!!」
男性が上司に対し、殺すと言う言葉を口にした瞬間、僕の左目に激痛が走り、僕はその場に膝から崩れ落ちた。
「カイ?!
おい!カイ?!
どうした?!大丈夫か?!」
僕を心配する来夢の声が聞こえる。
だが…僕にはそれに答える余裕がない…。
どんどんと痛みを増していく左目が熱をおび、小刻みに振動を始めている。
あかん…ホンマにめっちゃ痛い…なんやこれ…。
僕は左目を抑えながら、必死に痛みに耐えている。
「ホンマ…偉そうにすんなっちゅうねん!
次、偉そうにしよったら絶対殺したる!」
男性が再び殺すと言う言葉を口にした。
「がっ…あ"ぁ"ぁ"ぁ"!!」
二度目にその言葉を耳にした瞬間、僕の左目がジュクジュクと音を立て何かを放出し始めた。
「おい!カイ?!
お前…それは…。
おい!しっかりしろ!」
そんな来夢の声も僕の耳には届かない。
僕は余りの痛みに頭が真っ白になっていた。
ジュクジュクと脳に直接響く嫌な音…。
そしてその音が聞こえるたびに、僕の左目は何かを押し出していく…。
そして…。
僕の左目から放出された何かが、グジャっと嫌な音を立て地面に落ちた。
僕は朦朧とする意識の中で、その何かを確認する。
?!
ソレを確認した時、僕は自分の目を疑った…。
う…嘘やろ…?
こんなん嘘に決まってる…。
夢や!絶対夢やわ!
「カイ!
すぐにそこから離れろぉ!!!」
目の前で起こった事を信じられず呆然とする僕に、来夢がもの凄い剣幕で叫ぶ。
「ら…来夢…?」
僕に声を掛けた来夢は既に眼帯を外し、その左目からは赤い光が放たれている。
「カイ!
すぐに、すぐにその女から離れろ!!」
女??
…………。
あぁ…。
来夢にも見えてるんや…。
ほなやっぱりこれは夢ちゃうんや…。
僕は来夢から視線を外し、地面に落ちたモノを見る。
全身が酷く焼け爛れ、眼球が頬まで垂れ下がった女性…。
ソレが地面を這うように蠢いている。
コレが僕の左目から…。
これが僕の左目の力…。
人の憎しみや怨みを糧とし、この世の者では無いモノを生み出す力…。
それを悟った時、体中の力が抜けた僕は意識を失いその場に崩れ落ちた。
作者かい
連続投稿やけどめっちゃ中途半端?!Σ(゜Д゜)