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花に酔う。花に愛された男①

中編3
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花に酔う。花に愛された男①

怖い話ではありません...

月下美人の夢の彼の話です。

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彼は花を何より愛し、季節の花々を庭に植え春夏秋冬花を愛でている。

つい昨年も月下美人から美しい夢とお願い事をされた。

その月下美人はホワイトリカーに付け、リビングのガラスケースに飾り、酒の中で美しく透き通った花を咲かせているそうだ。

花が多い為、大きく洒落たガラス瓶を買い求めそれに漬けた。

その後お礼の夢を見せてくれた月下美人に、より一層愛着が湧いた、と彼は言う。あまり飲まずに眺めていて欲しいとも言われたそうだ。

今回は春夏秋冬、花によって見せて貰える夢の話を語ろうと思う。

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春の事。彼の庭には桜の盆栽が3つ程置かれている。どれも大樹の桜の様に枝も花も美しい。これも花市に自ら出向き迎えた物だそう。

花の見頃に見た彼の夢。

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彼は桜の盆栽を縁側に並べ今年も良く咲いてくれたね。と盆栽に話しかけた。当然返事などなく独り言に終わるが満足であった。

1人花見酒をしていたせいか、畳の上でうたた寝をしてしまったそうだ。

(おや?これは...)

今が一番の見頃であろう幹も枝振りも見事な桜達が月灯りを浴び、夜空に映えていた。

しかし心地よい風が吹くにも関わらず花弁の1枚も散らないのだ。

(また夢か。)

しかし花に夢を見せて貰えるなど花好きにはなんと嬉しい事か。愛を注いで良かったと思える瞬間だと思う。

「美しいなぁ...我が家も大きな桜が植えられたら...」

などと独り言を呟いたその時、目に入った女性がいた。

漆黒の生地に桃花色の桜、鬱金色の三日月模様の着物を着ている黒髪の長く美しい女性が桜の樹にもたれ掛かっていた。

女性の横には桜の透かし彫りが施されている手持ちサイズの灯籠が一つ。

なんと美しく儚い図であろう...と彼は思ったそうだ。そして同様声を掛けた。

「そんな所にいては風邪をひきますよ。」

彼女は答える。

「いいえ、私は大丈夫ですから。この一時を楽しみませんか?」

彼は彼女の横に腰を下ろした。

「あなたは...桜の精ですか?」

「ふふふ...よくお分かりになりましたね。あなたに愛されて、私達はとても幸せです。」

彼女はコロコロと笑った。花の精とはやはり美しい。と彼は幸せに思った。

「いえ、似たような経験がありましてね。昨年の夏の事ですが。」

「はい、存じていますよ。私達花の精は季節が違えどお話好きですから。」

なんと知られていたのか。それに話好きとは...

「ははっ...」と彼は照れ笑いをした。

「今年も...」

彼女は突然悲しげな面持ちで言葉を発する。

「今年も、花弁の散りゆく最後の時まで見ていてくださいませね...。」

なんとも切なげに話す。

「もちろん。どの花達も私の大切な恋人ですからね。しっかり見届けますよ。」

と彼が言うと満足気に微笑む。

「私達秘蔵の美酒を飲み交わしませんか?」

と桜の精は言った。

「そんな良い物をいただいても?」

「いいのですよ。いつものお礼ですから。」

灯籠の後ろから盆に乗せられた徳利とお猪口、桜の塩漬けを出してくれた。

「この塩漬けは、私達の先祖から受け継いだ物でしてね?とても美味なのですよ。肴にどうぞ。」

そうして彼と桜の精は花見酒を楽しんだ。

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彼はハッと顔を上げると目の前には盆栽が3つ...

夢から覚めてしまった。

「うむ...桜達、ありがとう...」

そう言うと彼は桜の塩漬けを作ろうと決めたそうだ。

それはとても美味しく少し甘味のある味であったが作り方だけは教えてくれなかった。

彼の夢は続く...

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