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「眼」第3章

眩しい、、

日差しに眼を細める。

光を見る度に、目にゴミが入った時の様な、視界が白くなる事があった。

この症状は、僕が再び“何か”を見る兆候だったのかも知れない。

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今日の講義は昼までだった。

珍しくバイトの予定も入れていなかったため、学校の図書室で専門書を眺めていた。

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大学の授業は、高校の時に比べ退屈しない。

専門分野の授業は、僕の好奇心を刺激しさらなる知識欲を駆り立てる。

興味のある分野についての成績は良かった。

しかしその分野が、自分の将来にいかに活用出来るかという生産的な思考は持ち合わせていなかった。

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将来の夢、やりたいことを決めあぐねているくせに、取り敢えずの安泰を有名企業に夢見る事もしない。

マイペースな毎日。

刻一刻と近づく現実に向けて、眼を背けられなくなってきた大学3年の冬。

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相変わらずアルバイトは続けているが、“赤い女”はもう見ていない。

眼の痛みは時々あり、その度動悸と共に嫌な記憶が浮かんでくる。

眼科には通っているが、眼の状態の改善はなされていないのでは?

という不安な気持ちが、日を追うごとに強くなっていく。

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夕方まで図書室にいたが、バイト仲間からの急な誘いがあった。

「乾杯!お疲れぇーい!」

コンビニバイトの新人歓迎会では、先輩の度重なる乾杯の音頭が居酒屋に響き渡る。

熊の様な見た目の大男。

カシスオレンジを二杯目にして呂律が回っていない。

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先輩「あ、お姉さ〜ん!カルーアミルクゥ!」

僕「あー先輩!それ吐いちゃうパターンですよ。

はい、ウーロンハイ。」

僕は普通のウーロン茶を先輩に渡し、他のバイト仲間と会話を楽しむ。

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「ねぇ、私最近友達から超怖い話聞いちゃったんだけど!

学校の友達とか家族はそういう話絶対無理って言って聞いてくれないんだよねー

1人で抱えとくのもちょっと怖くなって来たから、話させてくれない?」

昼番シフトの女の子が、話題を提供してくる。

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専門学生の彼女は、派手で露出の多い格好だが、普段の仕事ぶりはきちんとしている。

皆から一目置かれる存在だ。

僕「おっ!面白そうだねー、聞かせてよ。」

他の連中も彼女の話に興味があるのか、自然と騒がしかった雰囲気が静まる。

彼女はその雰囲気に困惑しながらも、静かに語り始めた。

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ある女がいた。

その女(A子)は男の子(K助)と二人で生活をしていた。

K助はA子の実の子供ではなかった。

A子には姉がいた。

K助は姉の子供だった。

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姉が忽然と姿を消し、唯一の肉親だった妹であるA子が子供を引き取ることになる。

K助は目つきが鋭く、普段笑うことがなかった。

A子はK助を大事に育てた。

小さい頃に両親を亡くしたA子。

K助の気持ちは痛いほど分かる。

だからこそ母親である姉が戻るまで、いやA子自身が母親の代わりとしてK助を立派に育てようと決心していた。

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A子とK助が二人で生活を始めて一年が経ち、K助も少しずつA子に心を開き始めた。

依然として姉の消息は掴めず、A子もK助と二人歩んでいく考えがより固まっていた。

そんなある日、K助がA子にポツリ、ポツリと姉がいなくなった日のことを話し始めた。

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姉はK助と夫である男と3人で暮らしていた。

男は決して良い父親とは言えず、子供であるK助に事あるごとに暴力を振るった。

姉はそれを見るに見かね、ある日K助と二人で男の元から逃げる計画を立てた。

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計画を決行する夜。

男が寝静まったのを見計らって、息を潜め姉とK助は家を出る。

家から少し離れてK助はある事に気付く。

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大切にしていたオモチャを家に忘れて来た。

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事もあろうにK助は、家にオモチャを取りに行きたいとせがみ出す。

やっと掴んだチャンス、今戻ったらまたあの生活に逆戻りだ。

もうこんなチャンスは無いかもしれない。

姉がいくら言い聞かせても、K助は家に戻ると聞かず、泣き始めた。

こんな夜中、近所の人に不審がられたら説明のしようがない。

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警察を呼ばれたらそれこそ事だ。

姉は少しの間考え、K助には自分が家にオモチャを取りに行くと伝えた。

K助に、目立たない場所に身を隠すよう優しく話し、姉は家に戻った。

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K助が姉を見たのは、それが最後だった。

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K助は母親の言いつけ通り、目立たない場所で身を隠していた。

しかしいくら待っても母親は来ない。

やがて朝になり空が白んだ頃、K助は家に様子を見にいく事にした。

家の玄関の扉は少し開いていた。

家の中に入ると、

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誰もいない、、、

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家の様子は普段と変わりなかった。

リビングに血のついた包丁と、大量の血溜まりが出来ていたことを除いて。

K助はその日から数日間、父親と母親を待ち続けた。

数日後、以前から虐待の疑いがあるとして、定期的に自宅訪問を行なっていた児童相談所の職員が、K助を発見する。

K助はげっそりと痩せ細っていて、憔悴しきっていた。

保護を受け、数日後身寄りである妹のA子に連絡が入り、現在に至る。

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当時の自宅の様子はA子も知っていた。

警察が入り、事件性があるとして捜査に乗り出してくれた。

しかし、姉の消息どころか男の消息すら掴めない。

時間が経った今となっては、捜査に進展は期待出来ないだろう。

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A子はK助の気持ちになって考え、涙を流した。

そしてK助を抱き寄せる。

K助の肩は震えていた。

辛かったろう、悲しかったろうと女は感情を露わに泣いた。

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ぷっ、、ふふふ

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K助は笑っていた。

A子は驚きと戸惑いの表情でK助の顔を見る。

K助はにったりと笑いながら、

「うーそっ!二人とも僕が殺した。

数日かけてバラバラにしてトイレに流したんだ。

だから見つかるわけ無いじゃん!

あはははははー」

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A子は驚嘆と絶望の淵で意識を失った。

薄れゆく意識の中で、K助の声が聞こえた。

「また会おうね。」

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その後、A子は病院で目を覚ます。

K助は姿を消していた。

彼が吐露した言葉は、A子の心の一番深く、本人すら気付かぬ場所に隠された。

警察には捜索願を出した。

しかしその後、いくら探してもK助が見つかることはなかった。

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数年後、、

A子はK助とのこともあって、人付き合いに消極的になり、一人寂しく暮らしていた。

生活していく為に、スーパーのパートタイマーの仕事に追われる日々。

仕事にも慣れて来た頃、A子にパート先での仲の良い女友達が出来た。

A子はその友達になら、心を開くことが出来、友達もそれを嬉しく思ってくれていた。

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彼女になら、、あの話をしてもいいかな、、、

A子は悩んだ末、友達にK助の事を話そうと決めた。

今まであった事、今現在までK助が行方不明な事、そして心の奥底にしまっている彼が話した衝撃的な言葉を包み隠さず打ち明けた。

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友達は、A子の言葉一つひとつをしっかりと受け止めてくれた。

「こんな自分の話を聞いてくれるだけでも、幸せだ。」

と、心から安心している表情のA子に友達は、

「これからは一人じゃない、私が付いているよ。」

暖かい言葉で答えてくれた。

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それから一週間後、友達は自宅のトイレで変わり果てた姿になって見つかる。

警察からは、原因不明の変死体としか説明がなかった。

A子は間も無く自殺をした。

自殺の数日前、A子が意味不明な言葉を口走って、自宅付近を徘徊している姿が近所の人に目撃されている。

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「また会えたねまた会えたねまた会えたね、、」

と。

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この話を聞いた人は、一週間以内に3人にこの話を話すこと。

さもないと話の最後の言葉通り、男の子が会いに来て殺される。

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同僚「うぉー!怖ぇー、、コッワ!!」

先輩「うぉー!似てる?吉○栄○」

僕「誰ですか?ふっる!クッサ!」

先輩「臭くないしっ!」

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ガヤガヤとふざけ合い、場の緊迫した空気が耐え兼ねて、一気に弾けた気がした。

僕「いやー、しかしこの系統の話困るよー。

マジ怖いじゃん。」

女の子「えへへ。怖かったです?

この話はとっておきなんですよ(笑)」

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急に視界が霞む。

瞳に膜が張り付いたような、視界に靄がかかったような状態。

白い靄の中、周りの人達が、皆んな影のようで表情も分からない程だった。

薄眼にしたり、目をこすったりしていると、

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女の子「○○さん酔っちゃいました?大丈夫ですか?」

僕「ん?あー大丈夫、大丈夫。」

心配そうに僕の顔を覗き込む女の子を見ると、

顔がはっきりと見えた。

その顔は女の子のそれではなく、小学生位の男の子の顔だった。

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(!?)

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声を上げようとすると、左眼に激痛が。

僕「痛っ!」

女の子「え?え!?」

僕は眼を押さえながら、

僕「ごめん、ごめん。眼にゴミが入った。

でっかいのが(笑)」

女の子「なんだー、びっくりした。」

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定員に冷たいおしぼりを注文し、暫く左眼に当てていた。

いつもの様に、視界の異常と眼の痛みはすぐに改善された。

その後、宴は別の話題で盛り上がり二次会のカラオケに移行していく。

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カラオケボックスに移動中、先程女の子が話していた物語を思い返す。

(なんで、男の子は両親を殺したのか?)

これが僕の中で一番の疑問点だった。

サイコパス?それとも別の何かが存在したのか?

頭の中で、様々な考察を展開しながら歩く。

周りの連中は、道中もふざけ合い笑い合いながらフラフラと歩いている。

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ふと、周囲に目をやる。

街灯やネオンが灯りを灯し、街を照らしている。

いつもより街に灯っている光が綺麗に見える。

光の輪郭がぼやけていて、夢の中にでもいる様だ。

しかし反対に暗い部分は禍々しく歪んだ闇の様に見える。

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美しい原色と闇のコントラストに見惚れていると、小学生位の少年が路地裏にぼんやりと見える。

少年は禍々しい闇と共に佇んでいた。

また眼の痛みだ、、

眼の痛みは、今までとは違って激痛ではなく、ジワジワと蝕む様な痛みに変わっていた。

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蹲る事なく、少年を見据えたままであったが、

徐々に夜の闇に白い靄がかかり始めた。

やがて僕の視界がすべて白に染まった。

はっ!と我に帰るが、視界は白いまま。

(火事かボヤが起こっているのか?)

と、キョロキョロと周囲を伺うが、

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「○○さぁーん!どうしたの?行かないの?」

聞き慣れた声が掛かる。

しかし僕には白い靄の中、薄い灰色の影が揺らめいている様にしか見えない。

咄嗟に、

「悪い、急用思い出したから、今日は帰るわ!また今度!」

と言ってその場を後にした。

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眼が、見えない、、

頭の中はその事で一杯になり、正気を保つのが限界だった。

辛うじて3メートル先迄は見える。

壁伝いに繁華街を何とか抜け、先程通った駅まで戻る事が出来た。

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携帯で弟に連絡をする。

幸い直ぐに車で迎えに来てくれた。

弟は、僕に何を聞く事も無く、

「一先ず帰ろう」

と、僕の心情を少なからず察して配慮してくれた。

有り難かった。

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自宅に帰る車内で、絶望にも似た感情に襲われ、状況を悲観する自分を必死に落ち着かせる。

眼の痛みは続いているが、鈍痛の様な持続的な痛みとなっている。

車外の景色も白い靄。

今までは、眼の変調があっても直ぐに治っていた。

今回は明らかに、眼の状態が“悪化”していると実感した。

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そして、人ならざるもの、若しくは霊障の様な現象も徐々にではあるが、眼が敏感に反応している気がする。

(これからどうなるんだろう、、)

不安を通り越して、半ば何が起きるのかの好奇心さえ芽生えてきた。

まずは、早く眠りたい、、

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これまでの事、今回起こった事を整理するには、今の僕は疲弊し過ぎている。

一刻も早く休まないと、、

休まないと、、

Concrete
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