黒い獣耳と大きなしっぽをもつ黒狐の化身、幸子(こうこ)、お店での呼び名はお幸ちゃん(おこう) 彼女が何故、うどんとごはん物の定食で有名な『黒狐屋』(こっこや) で時給724円、3食昼寝付きで、働き始めたのかと言うと山に食べるものがなくなったので、人を食べようと街におりてきた事から始まる。
nextpage
第一生 「黒狐屋さんとの出会い」
黒い獣耳と大きなしっぽをもつ黒狐の化身、幸子(こうこ)と稲荷(いなり)は、腹を空かせて山道を歩いていた。
この山は、秋にも関わらず枯れ木が多く冬のような寒々しさを感じさせる。
この山は昔は活気があったが今では野うさぎ一匹見つけることの出来ない寂しい山になっていた。
山神様が出奔して1ヶ月。山は荒れ果て生命を感じさせない死の山へと変わっていた。
「山神さーん、どこにいるんですかー?」と大声で幸子は山を歩き回って探している。
ツッコミ担当の稲荷は思う。(絶対、幸子ちゃんが山神様のクッキーを盗み食いしたのが原因だよね?)と。
それにも関わらず、山神様を探しているのは天然を越えたド天然であると周囲は遠巻きに見ている。
「稲荷さん、稲荷さん、聞いていましたか?」とボーッとしている稲荷に幸子は声をかける。
稲荷はハッとしてから「幸子ちゃん、どうしたの?」と聞き返した。
すると、「私、山を降りて人を食べようと思うんだけど、ついてくる?」と幸子は言った。
稲荷は「平安の頃もその下りを聞いたんだけど…。」と言った。
稲荷の中では平安の頃に安倍晴明にあと少しで封印されそうになった苦い思い出が甦ってくる。
それでも幸子は「大丈夫、大丈夫。きっと大丈夫。」と大丈夫しか言っていない。
稲荷は「僕はいかないよ、幸子ちゃん」と答えた。「稲荷の馬鹿。」と言って幸子は走り去った。
稲荷は(引き留めた方が良かったかな?)と内心不安になっていた。
nextpage
最近は人に化けていなかったから大丈夫かな?と思いながら鏡に写る人形の自分を見つめる。
耳も尻尾も出ていないから大丈夫であろうと思い、長い間ねぐらにした廃墟に別れを告げる。
そんな幸子の背後から「待ってー」と稲荷が叫ぶ。スーツ姿の稲荷を見て、幸子は思わず笑った。
まぁ花魁みたいな幸子の出で立ちの方が稲荷を笑って良いほどの物ではない。
二人で山を歩くこと三時間。山の麓にたどり着いた。昔は人がいたが今は子供1人居ない。
そこから、道路沿いを歩き続ける。やっと建物を見つけた。
その建物は、知る人ぞ知る名店、うどんとごはん物の定食で有名な『黒狐屋』(こっこや) 。
人も多く集まっているから、ここなら食事(人)が簡単にできそうだと店に入る。
入ると、店員から大きな声で「いらっしゃいませー」と言われ二人はたじろいだ。
店員も客も皆、老人でとても食べるきにはなれない。仕方なく料理を大人しく食べることにした。
座敷に通される。メニュー表をとりあえず手渡され、読んでみる。
ざっと目を通してから二人はきつねうどんと山菜いなりのセットを注文した。
セットが二人の元にやって来る。二人は割り箸と少し格闘してから、きつねうどんの一口目のを口にいれる。
(美味い!美味すぎる!こんな美味いものは始めてだ!)と平安以来の人間が作った料理に驚く。
次に山菜いなりを食べる。やはり二人にとっては大いなる衝撃だったに違いない。
食べ終えてから二人は満足そうに席を立つ。会計に向かう。
「合計で2380円でございます」と言われた。稲荷はそう言えば金を持ってきてなかったと焦る。
幸子は動じず懐から金を出した。店員と稲荷は真っ青になった。
そう江戸時代に旅人を襲ったときに手に入れた小判を差し出したのだ。
店員は急いで事務所に向かう。幸子は首をかしげ、稲荷は(終わった…。)と嘆いていた。
50ばかりの女店主がやって来て「お釣りはありませんがよろしいでしょうか?」と二人に尋ねた。
幸子は「良いけど、ここで働かせてくれない?ここ気に入っちゃった」と言い放った。
店主は「良いですよ」と答えた。
nextpage
こうして幸子と稲荷は黒狐屋で時給724円で3食昼寝付きで住み込みで働くことになった。
作者退会会員
ラグトさんアイデアありがとうございました。
『顔のない妻』http://kowabana.jp/stories/29671
『執着せし雛姫』http://kowabana.jp/stories/29443
を投稿されている方です、
シリーズにする予定なので、その時はよろしくお願いします!