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中編7
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シジュウクニチ

1995年4月1日 11歳の春

まだ陽も上りきらない早朝

母親に揺り起こされ、身支度をし朝食もとらずに車に乗せられた。

父が運転 助手席に母

後ろに私と兄。

眠いしお腹すいたし寒いし・・不機嫌。

『お腹すいた。どこにいくの?私まいちゃんと遊びに行く約束してるんだけど・・』

春休み中、ひとつ上のお隣の子と自転車で雑貨屋に行く約束をしていた。

兄は隣で口をあけて寝ている

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『新潟のひいじいちゃんが、お父さんとなつみたちに会いたいんだって。

お医者さんがもう時間がないって言ってたらしいから急いで行かないといけないの。

ごはんは途中高速で何か買おうね』

あー・・うそ それは大変じゃん‼︎

まいちゃんには仕方ない、帰ってきたら謝ろう・・

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曽祖父は、100歳という高齢で

自宅で介護生活を送っていた

もう歳が歳のために病気や怪我ということではなく

穏やかに

ゆっくり ゆっくりと死へ向かっていた。

様々な臓器が寿命の終わりにちかづいて

一週間ほど前から自力でおしっこがでなくなってしまっていたのだ。

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・・ちなみに朝ごはんは結局新潟県U市のおばあちゃんちにつくまでお預けだった・・

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おばあちゃんの家につくと、曽祖父の兄弟や子供たちがまわりを囲んでいる。

すぐ傍らには、お医者さま。

『ほらお父さんコウヘイがきたよ!

コウヘイ、おじいちゃんあんたのこと待ってたんだよ!』

この声は群馬の大っきいおばさんだぁ

ちっちゃいから 人にうもれてどこにいるんだか・・

皆、私たちの為にまわりをあけてくれて

私は曽祖父のベッドに座った。

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この地方では『男ニ』

オジ

という慣習があり

農家の二男は大変可愛がられた。

理由は、諸説あるようだが

長男は家を継ぐ者として残るが 二男は嫌でも出ていかなければならないため

それまでに愛情をいっぱい注ぐということではないかと母は言っていた。

その通り二男の父は とても大切にされ

帰省の度にいたれりつくせりだった。

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うちの父がワガママなのはこれのせいなのが、明らかだったのだけど・・笑

曽祖父には特に可愛がられたようだった。

そして父にそっくりな私も曽祖父にはそれはそれは可愛がってもらったのだ。

躾は厳しかったけど。

『おお・・コウヘイかぁ。よくきたなぁ

マンマいっぱい食ってこい・・

なつみも来たかぁ・・・・』

お喋りもゆっくりだけど普通

頭も撫でてくれて ごはんの心配までしてくれる。

こんな人がすぐに死んじゃうっていうの?

お医者の人がまちがってるんじゃないかなぁ?

『ねー ばあちゃん?

なつ お腹すいた〜』

親戚一同笑いに包まれた

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少しそばにいたあと

おばあちゃんが朝食を用意してくれたので食べていると

曽祖父のベッドの側から

わっ・・という泣き声と

鼻をすする音が聞こえて来た

お箸を放ってベッドに駆け寄った

『ひいじいちゃん、死んじゃったの?

さっきまで喋ってたじゃん・・?

良い子もしてくれたのに??』

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『ひいじいちゃんねぇ、お父さんとなつみのこと待ってたんだね。お母さんのことはわからなかったみたい。

お嫁さんだから仕方ないけど

寂しいね・・』

そう言って母は泣いた。

父も目を真っ赤にしていた

私は・・

初めて目にした死に、

もう2度と目を開けないことは理解していても

悲しいとか 寂しいとは思えなかった。

その後は葬儀業者が到着するまで

ただずっと、ベッドのそばでひいじいちゃんの隣に寝てみたり手を握ったりしていた。

その手はだんだんと

ろう人形のように硬くなり

少しずつ色を無くしていったのを覚えている

子供だった私なりの 死の確認の仕方だったのだ。

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通夜 葬儀と家で執り行われ 私にとっては従兄弟たちと遊べる楽しい時間でしかなく、

はしゃぎすぎて親戚のおばさんに笑いながら叱られたことしか覚えていない・・

おじいちゃん、おばあちゃん、長男であるおじさんは

なっちゃんが元気だから明るくなっていいね、と

ニコニコしながらたまに泣いていた。

三ヶ月ほどの自宅介護だったようだが

負担も大きかっただろう

子供ながらに ひいじいちゃんが死んじゃったのは残念だけれど 一緒にいた3人は 大変だったんじゃないかなぁ

なんて考えながら

雪遊びでドロドロの身体で汚した廊下を雑巾掛けしていた

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春休みも終わり、新しいクラスにも慣れた頃

父と母が新潟にいくかどうか相談していた。

そのころうちは東京都O区から埼玉県K市に越したばかりで

なにかとバタバタしていたのだ。

『夏休みも行くし お父さんひとりで行ってくれると助かるんだけど・・なつみとリョウヘイは野球もあるし』

『そうだな、じゃあひとりだから新幹線でいってくるよ』

いつも夏休みしか行かないのになんで今いくのかな?

こないだ行ったばかりなのに・・

ずる〜い!

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それからしばらくたった夜。

その日は遠足があった日で 眠くて眠くて

自分の部屋のベッドで 漫画を読みながら寝てしまった。

二階の私の部屋には大きな出窓があって

その日は蒸し暑かったので カーテンも全開

窓も網戸にして寝ていたんだ

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(え・・?????)

後頭部と背中とおしりが、ひんやりするものにぴったり張り付いている。

目線の先にはーーー自分。

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しかも、ベッドに寝ている自分。

目はしっかり閉じている。

ひんやりするものは、天井だった。

ジタバタするが

自分の身体までは、降りられない。

(変な夢・・)

いつもなら夢だとわかると目がさめるところ

だが いつまでも起きられない。

ーーその時

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ーーコンコン・・

ガラスを叩く音がし 窓の外をみると

『えっっっ ひいじいちゃん、どうしたの??』

先日亡くなったばかりの曽祖父が笑顔で、浮いている。

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ひーじいちゃんどうしたの?

ー遊びに来たよ

何して遊ぶ?!

ー散歩にいこう

嬉しくなって ジタバタと窓に近寄った。

何故かするりとガラスをすりぬけられた

でも、どんどん空へ空へと自分の意思とは関係なく浮いていってしまう。

恐怖感でお腹がキューっとなってくる

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するとひいじいちゃんが追いかけて来て

がっしりと腕を掴んでくれた

顔も身体も七福神の大黒様そっくりで

いつも重たそうだった曽祖父の身体は、空ではとても軽やかだ

自分の家を 学校を 空から見下ろし

背の高い木が生い茂る林をビュンとすりぬけ

そのうち空のの散歩に夢中になった

ひいじいちゃんは ずっと手を繋いでいてくれた。

とても素晴らしい時間を 2人ではしゃぎながら過ごしたんだ

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どれくらいの時間がたった頃か・・

身体は冷え切り、とても疲れ切っていた。

その頃には 2人とも口数が減り

空は白み始めていた。

ゆっくりと辺りを一周したあと

私の部屋の出窓の前に来た。

寒いから、中に入りなさいと言われたけど

私は嫌だ、もう少し遊びたいと駄々をこねた。

ーーおじいちゃんもう帰るよ

ヤダ!私も一緒にいく!!!

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ーーするとひいじいちゃんの表情が豹変し

まるで般若の様な顔になったのだ。

恐ろしくてたじろいでると

肩を押され 部屋の中に押し戻されてしまった。

まだ一緒にいたいのに・・

ひいじいちゃんの元に行こうとしたけど、もう窓ガラスはすり抜けられなかった。

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ひいじいちゃんは

ニコニコ顔に戻り、来ちゃダメだというジェスチャーをし

バイバイ、と手を振り

スーーーっと

泳ぐ様に遠くの遠くのお空へ消えて行った・・

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目がさめると 朝の9時だった。

太陽の光がとても眩しかった。

身体が怠い・・

喉がカラカラ

1Fのリビングに急いで降りた。

母が新聞の折り込み広告を見ているところだった。

『あら ずいぶんお寝坊さんだったね〜 お父さんもうでかけちゃったよ!』

『えっ どこに?』

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『どこって、新潟のじいちゃんち。こないだ話したでしょう?』

今日ってことは聞いてないよ、お兄ちゃんと間違えてるんじゃないのと思いながら、冷蔵庫をあけて

牛乳をマグカップにたっぷり注ぎゴクゴクと飲む。

『あ、そういえばね

なつ、変な夢みたよ!

ひいじいちゃんと空を飛んで遊んだんだ〜

すっごく楽しかったよ』

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『あらそ〜?

今日はシジュウクニチだから、なつみに会いに来たんだね!』

『シジュウクニチってなに?』

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母から四十九日について教えてもらい

おじいちゃんはさようならを言いに来てくれたんだと思ったら

初めて泣いた。

母は訳がわからず ポカンとしている。

そしてあのとき、あんなに怖い顔をしたのは

私が一緒について行ったら私も死んじゃうからだったんだ。

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あれは絶対夢じゃない。

すり抜けた林の木の葉が脚に触った感触も覚えてるし

空は寒かったことも覚えているし

今、全身筋肉痛なんだもん。

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ーあれは幽体離脱だったんじゃないか

って今でもそう思います。

リアルな感覚を20年以上たった今も鮮明に覚えていますから・・

ひいじいちゃんはこのあとお盆にも会いに来てくれましたが

またそれは別のお話で(^^)

最後までありがとうございましたm(_ _)m

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