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黄昏幻影 ~川沿いの道~

中編3
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黄昏幻影 ~川沿いの道~

 土曜日の午後。時刻は二時半を回っていた。曇ってはいるが、雨は当分降りそうにない。こんな日は空気まで灰色に染まっているように感じてしまう。

 

 姉と俺は帰宅途中で寄り道をして、町はずれの川沿いの土手を歩いていた。

 

 隣を歩く姉の黒く長い髪が、風に吹かれさらさらと流れてくる。それが俺の頬に当たって少しくすぐったい。

 

 その時、風がごおおっ、と吹き上げ、辺りが一段と暗くなったような気がした。姉が横目に俺を見上げる。

 

「暁、これから誰に出会っても、返事をしては駄目よ。出来るだけ何も見えていないように振舞って。いいわね? 質問はなしよ」 

 

 姉がこういう強い口調で物を言う時は、大人しく従った方がいい。何かまずいことが起こりつつあるのだ。分かったという返事の代わりに頷いて見せる。

 

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 程なく、白いワンピース姿の若い女が向こうから歩いてきた。ロングストレートの髪を靡かせ、見る見る近づいてきた彼女は俺たちを見下ろして言った。

 

「折る? 叩く?」

 

 姉は俺の手を引いて脇をすり抜けた。

 

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 暫く進むと、赤いワンピース姿の若い女が、向こうから歩いてきた。ロングストレートの髪もぼさぼさに、見る見る近づいてきた彼女は俺たちを見下ろし言った。

 

「切る? 刺す?」

 

 姉は俺の手を引いて脇をすり抜けた。

 

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 暫く進むと、黒いワンピースの若い女が、向こうから歩いてきた。ロングストレートの髪も半ば以上焼失した姿で、見る見る近づいてきた彼女は俺たちを見下ろし言った。

 

「轢く? 燃やす?」

 

 女が道を塞いで尋ねたが、姉は俺の手を引いて脇をすり抜けた。

 

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 暫く進むと、赤黒い人の形をしたものが、向こうから歩いてきた。もはや性別すら判別できないそれが見る見るうちに近づいてきて、眼窩から抜け落ちた目玉をぶら下げながら尋ねた。

 

「見える? ねえ、私が見えるんでしょう?」

  

 女が道を塞いで尋ねた。今度は、姉は俺の手を握ったまま答えた。

  

「見えるわ」

  

「イヤアアアアアアアアア!!!!

 

 姉の返答に、それが高い悲鳴を上げた。半狂乱の叫びを上げながら身を抱き、手足を振り回し、頭部を掻きむしった。

 

「とても、綺麗よ」

 

 姉の言葉に、女がぴたりと止まった。

 

「本当?」

 

「ええ。白い肌、艶やかな髪、スレンダーで背が高くて、綺麗な顔立ち────」

 

「────あああああ!!」

 

 悲鳴のような声を上げて、女は霞のように消えていく。

 

 ため息をついた姉と俺は、ひたすら速足でその場所を離れた。

 

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 あの後、俺はあの場所で殺人事件がなかったかを調べた。だが、ネットを使っていくら過去に遡っても、それらしき事件の記事は見つからなかった。

  

 夕食後、それについて姉に話してみると、彼女は俺の顔をじっと見て答えた。

 

「多分、彼女はあの付近に埋められたまま、未だに発見されていないのね。殺人事件に巻き込まれて見つからないまま、現世を彷徨っているんだわ」

 

 黙ってしまった俺に、姉は言い含めるように言った。

 

「冷たいようだけど、これ以上関わっては駄目よ。しかるべき人が、しかるべく動いてくれることを期待しましょう」

 

 釈然としないものを感じたが、しかし俺に何ができるというのだろう? 姉の言う通り、関わるべきではないのだろう。しかし折に触れ、俺はあの川原の情報を検索していた。

 

 警察が焼き殺された女性の遺体を橋の下で発見したのは、それから一月後のことだった。テレビのレポーターが事件を伝える背後で、ショートカットの婦警が刑事らしきリーゼントの男と何か話していた。

 

 後の警察の発表によると、被害者の女性は乱暴された後、殴る蹴るの暴行を受け、刃物で傷つけられた、あげく車で轢かれ最後にガソリンで燃やされるという残忍な手口で殺害されたらしい。

 

 殺害された推定時期は、俺と姉があの川原を訪れた頃らしかった。彼女の冥福と犯人逮捕を祈るばかりだ。

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