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中編3
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歪み

私はこの世を認識してから全てを眺めてきた。

四季の移ろいに生命の活力に喜びを感じる…

自然は生命を壊し殺し…

そして新たな生命を育んだ。

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どの位の年月が過ぎただろうか?

私の場所にはいつしか"人"が集まり語らっていく…

最初は孤独な少女の行動からだった。

"結"と言う言葉が刻まれた石碑…

道端にでも落ちていた大きい石に言葉を刻み…

「貴方は"結"…貴方の名前は"結"だよ!」

盲目な少女は私の事を見て笑いながら置いた。

少女の語らいは私に新しい幸せを感じさせてくれた…

彼女は身内を亡くし親戚のもとで暮らし幸せではない…

しかし、胸を張り自分を愛し他人も愛す。

盲目だからこそ私を感じ私の存在を気いてくれた…

「盲目な私にも感じる貴方の存在は私に安らぎを与えてくださいます。貴方を感じられる私も光や風…木々のように貴方の安らぎになれたらと思います。どうか貴方の友人にさせていただければと…」

新たな友人との出会い…そして別れ…

嬉しさと悲しさ…彼女との出会いと思い出は私の大事な記憶となり、彼女からもらった真名は私の礎となり石碑は宝となった。

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更に年月は過ぎる…

"結"という真名を得た私は力を持つ…

力を得た私は希に訪れる人々の願いを叶えたり叶えなかったり、その時々の気分で気楽に存在し続ける…

そんな私の気まぐれなのだが、願いを叶えた人々の一部が社を建ててくれ…

石碑の文字から"結びの神"と奉ってくれるように…

『私には社なんて必要ないのに…』などと思ってもいるが単純に人々の気持ちは嬉しかった。

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百年も過ぎた頃…

自然霊との会話や動物の語らいを愛していた私…

しかし、大きな戦を繰り返すうちに人の姿が増え自然霊や動物が少なくなっていく…

人々は木々を伐採し土を石へと変え…天へと届く塔を作っていく…

木霊の声も聞こえずに風の語らいも濁り聞こえない。

集まるのは人々のみ…

「○○が怪我しますように…」

「私の大事な○○を奪った女を懲らしめてください」

「上司を殺してくれ」「あの男を殺してくれ」

「あの女と○○したい」「金持ちになりたい」

「私が不幸なのに何であいつは…」

箱に小銭を投げ込み私に怨みを吐き出す人々…

幼子にも汚れた願いをさせる大人もいる。

『私はお前たちのなんなのだ?今は人々の願いなど叶えてはいないだろ?何で私に怨みをはきかける?お前たちは奪うばかりだ!私の愛しい者たちを返してくれ…』

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私の心が軋み音をたてて崩れていく…

人は私を求めてはいない…

願いを叶えてくれる可能性のある存在を…

怨みの捌け口を求めているだけなのだ…

私の心を癒してくれる存在はいない…

私は人々が語るような"神"ではないのだ…

自然に生まれ…少女に真名をもらった存在でしかない…

貴方たちと大差のない無力な存在なのだ…

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私の心は黒くドロドロとした何かに塗り固められていく…

少女との思い出を自然との語らいにすがりつくように存在する。

そんな私を…人は全てを奪う…

人は私の宝を奪ったのだ…

石碑を私と少女との思い出を宝を砕き奪った。

理由は危ないから…

若者が足をぶつけて怪我したから…

何処かの金持ちの子供が酒に酔っ払い怪我をした。

私の宝を…思い出を…人は奪った…

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壊れた心…停止した思考…気がついたと時には金持ちの親子を呪い殺していた。

私の手は…心は穢れた…人の血で穢れた…

人々の願いは全て叶える…

そして願った人々も呪う…

不幸を撒き散らす…

全てを呪い…殺し…穢れていった。

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私の社には誰も来なくなった…

人は来なくなり私を汚す者はいなくなった…

しかし…

私には…

自然の声も…

動物のささやきも…

聞こえない。

存在してから初めての静寂…

呪いと穢れを撒き散らし…

生き物が存在できなくなった土地…

そんな土地に縛られ動けない私は…

過去の思い出にのみ安らぎを求める…

私の心が昔を思いだせる僅かな間…

私は…

Concrete
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毎週氏神様に感謝を込めてお参りします。
自分ではお参りと思っていても、お願いの押し付けになっているかもしれない。
自分は欲深いのか、どうしても何かをお願いしてしまう。
でもこのお話を読んで、氏神様がとても愛おしい存在に思えました。
次回からは氏神様を想い、親しみを込めてご挨拶に伺いたいです。
素敵で切ないお話をありがとうございました。

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