営業先へ向かう途中に赤い車とすれ違った。
赤い車とはいっても別に車体が赤いわけではなくて、こちらから見えるフロントガラスに運転席、更には後部座席にリアウィンドウに至るまでの窓という窓が真っ赤に染まった車だ。
規制の緩いひと昔前までは、窓全面に真っ黒なフィルムを貼ったフルスモークの車をよく見かけたものだが、全面を真っ赤に施したフルスモークの車を見たのは初めてだったし、それが偶然にも昔に俺が乗っていた車と同じ年式の同じ車種だったので、懐かしさも相まって思わず二度見してしまった。
今の若者の間ではああいうスタイルが流行りなのかと一人納得しながら目的地で仕事をこなし、また同じ道を通って会社へ帰る途中、先ほどまではなかった思わぬ渋滞に巻き込まれた。
他に抜け道もないので諦めて渋滞に並んでいたのだが、長時間かけてようやく渋滞の根源に近付いた時、フロント部分が無残に大破した二台の車が目に入ってきた。野次馬はもちろん、現場を取り囲むようにして何台ものパトカーや消防車が並んでいる。
事故車両は黒のセダンと2トントラック。セダンの方には見覚えがあった。あれは先ほど俺がすれ違ったあの赤いフルスモークの車だ。最近はあまり見かけない珍しい車種なので、おそらく間違いないだろう。
嫌な気持ちを抱きつつもその場に止まる訳にもいかないので警察の誘導に促されるままその場を離れたのだが、夜になって晩飯を食いながらテレビを見ていたら、ちょうど昼間の事故のニュースがやっていた。
残念ながら黒のセダンに乗っていた四人家族の内、三人は亡くなったらしい。
助手席の後ろに乗っていた娘さんだけが奇跡的に無傷で助かったというが、家族を失った彼女の今後を考えるといたたまれない気持ちだ。
でもあの事故現場を見た時からずっと俺の胸に引っかかっていた何かが、このニュースを見ていてなんとなく分かった気がした。
最初すれ違った時の窓ガラスは確かに赤かった。フロントガラス、運転席、運転席の後ろ。結果的にその面に乗っていた家族三人は全員亡くなった。
しかし、こちらから見えていなかった助手席側の後ろに乗っていた女の子だけは奇跡的に助かったのだ。これは偶然だろうか。
事故現場で見たセダンの窓ガラスはもうどれも赤くなかった。もしかすると俺が見たあの赤色は、これから起こる凄惨な車の未来を暗示した赤なのではないだろうか?そんな気がするのだ。
そして何より気がかりだったのは、現場で警察に手を引かれていた女の子がずっと俺の車を指差していたこと。自分の家族が車体に押しつぶされている悲惨な状況下で、なぜ女の子はこちらを見て微笑んでいたのだろう…
次は俺の番?いやいや、さすがにそれは考えすぎだとは思うが、なんとなく明日から車に乗るのが嫌になった。
了
作者ロビンⓂ︎