閉め切ったカーテンの隙間から、
目映いばかりの西日が、
六畳ある部屋のカーペットに、
キラキラと一直線の光の筋を作っている。
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暗がりの中、
天井からぶら下がり、
ゆっくり回る、
首を項垂れた子供にも、
光はチラチラとまとわりついていた。
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窓際の学習机の横には
真新しい黒いランドセルが一つ。
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机の端には、
寸胴型のカゴが一つ。
中では鮮やかな黄色の小鳥が一羽、
せわしなく動き周り、
時折、キーキーと鳴いている。
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カゴの傍らには、
大学ノートの切れ端が一枚。
きちんと置かれていた。
……
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い書
………………………………二年三組 〇〇〇〇
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父さん 母さん おはよう。
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三日前
大すきな くぼたのじいちゃんが
死にました。
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おそう式のかえり道。
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父さんに
父さんも死ぬの?ときくと
そうだよ
といいました。
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母さんも死ぬの?ときくと
そうだよ
といいました。
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じゃあ ぼくは?ときくと
そうだよ といって
人間はみんないつか死ぬんだよ
といいました。
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わるいひとも いいひとも
お友だちも きらいなやつも
たんにんの あらき先生も
ねこのミイコも
せきせいいんこのチイも
みんな みんな
いつか死ぬんだよ。
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死んだらどうなるの?ときくと
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父さんは
さあ わからん
それはさいごのおたのしみ
といってハハハハと笑い
空をみあげました。
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なにがおかしいのだろう。
ちっともおかしくないんだけど。
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ぼくは ことしの二月で
七さいになりました。
つまり 生まれてから
七年たった ということです。
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じゃあ その前のぼくは
どこでなにをしていたんだろう。
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ひっしに思いだそうとしたんだけど
だめでした。
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もしかしたら
死んだら そこにいくのかな?
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そこにいったら
もう こっちには
もどってこれないのかな?
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もどってこれないのなら
ずっとずっとずっとずっと
くらやみがつづくのかな?
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そうだったら たいくつだなあ。
ゲームとかないのかなあ。
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ぼくは 今から
じっけんをしようとおもいます。
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だれも教えてくれないから
ぼくじしんがじっけんだいになります。
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もし このあと
ここにもどってこれたら
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父さん 母さん にも
死んだらどうなるのか
教えてあげようとおもいます。
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ついしん
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ほんとは
まだまだいっぱい書きたいけど
よこに立っているおじちゃんが
きのうの夜から
まっているので
これでおわります
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それでは また
…………………………………三月一日 はれ
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あ それと チイのえさは
きょうのぶんはあげたから
あしたからは よろしく
作者ねこじろう