「おはよう、レイラちゃん。今日は天気も良いし、ママとお散歩しましょう。」
そう言ってベットから小さい体を抱き上げ、長く細い少しウェーブがかかった赤毛をかき分けて顔を覗く。
「まるでお人形さんの様だわぁ。」
感嘆の声をあげ、深い溜息をつくのは母親のミーナ。
一人娘のレイラを溺愛している。
「さぁ行きましょう‼」
水色のフリルが印象的なドレスを纏い、髪を1つに結ったレイラを、ミーナは抱きかかえて外に出た。
どうやらレイラは歩けないらしい。
それだけではなく喋る事も出来ないようだ。
ミーナがどんなに話かけても、声が返って来る事はない。
周りの人はミーナをいつも怪訝そうな目で見る。
それに気がついても、ミーナはレイラがいつか喋れるようになる為に、話かける事をやめなかった。
そして、いつしかミーナは周りから孤立した存在になっていった。
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「やだわぁ…またあの人よ…」
「人形に向かって話続けて気味が悪いわ」
小声で通りすがりの女性が言うのを、木々の間から聞いている男がいた。
男の名前はエリック。
ミーナの夫である。
彼はミーナを見守るしかなかった。
もし、共に歩けば自分も気味悪がられると思ったからだろう。
いつも離れた場所から見ていた。
家に帰る時も、なるたけ人に会わないよう、注意を払った。
しかし、彼女を見捨てる事は出来なかった。
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その日の夜。
このままではいけない。彼女のため、ついにエリックは行動に出た。
shake
「キャアアア‼レイラ‼」
「黙れミーナ‼もういい加減にしろ」
「レイラは私の子よ‼返して‼」
「ミーナ、受け入れるんだ。レイラはもう死んでるんだ。」
「そんなはずはないわ‼ちゃんと心臓の音はしている‼生きてるわ‼」
「ああ。確かにこの子は生きている。だが…」
「ほら、生きてるじゃない‼」
叫ぶミーナにエリックは非情の銃口を向ける。
全く状況がわからないミーナ。
いくら叫ぼうとも、エリックの態度が変わる事はない。
「あの世でレイラに会えるといいな」
ミーナに小さな穴が空いた。
転がるミーナを見下ろし、レイラだった少女を抱きながらエリックは言った。
「この子はイレーナ。僕の妹さ、歳をとりづらい病気にかかっているんだよ。レイラは産まれたと同時に死んでしまったんだよ。初めは君を悲しませないようにと思ってたんだが、君が段々おかしくなって周りから変な目で見られ始めた。僕はイレーナまでそんな風に見られるのは嫌だったのさ。」
今まで表情1つ変わらなかったイレーナの口角が上がる。
その頬に口付けをするエリック。
「今度は僕と遊ぼう。愛しのイレーナ。」
作者千堂 幾虎
先日、美術館に行きまして、「可愛いイレーナ」という素晴らしい作品を見ましてね。
そこから連想したのは、桑田佳祐さんの「可愛いミーナ」、creamの「愛しのレイラ」でした。
登場人物はそこからです。