短編2
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愛しのイレーナ

「おはよう、レイラちゃん。今日は天気も良いし、ママとお散歩しましょう。」

そう言ってベットから小さい体を抱き上げ、長く細い少しウェーブがかかった赤毛をかき分けて顔を覗く。

「まるでお人形さんの様だわぁ。」

感嘆の声をあげ、深い溜息をつくのは母親のミーナ。

一人娘のレイラを溺愛している。

「さぁ行きましょう‼」

水色のフリルが印象的なドレスを纏い、髪を1つに結ったレイラを、ミーナは抱きかかえて外に出た。

どうやらレイラは歩けないらしい。

それだけではなく喋る事も出来ないようだ。

ミーナがどんなに話かけても、声が返って来る事はない。

周りの人はミーナをいつも怪訝そうな目で見る。

それに気がついても、ミーナはレイラがいつか喋れるようになる為に、話かける事をやめなかった。

そして、いつしかミーナは周りから孤立した存在になっていった。

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「やだわぁ…またあの人よ…」

「人形に向かって話続けて気味が悪いわ」

小声で通りすがりの女性が言うのを、木々の間から聞いている男がいた。

男の名前はエリック。

ミーナの夫である。

彼はミーナを見守るしかなかった。

もし、共に歩けば自分も気味悪がられると思ったからだろう。

いつも離れた場所から見ていた。

家に帰る時も、なるたけ人に会わないよう、注意を払った。

しかし、彼女を見捨てる事は出来なかった。

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その日の夜。

このままではいけない。彼女のため、ついにエリックは行動に出た。

shake

「キャアアア‼レイラ‼」

「黙れミーナ‼もういい加減にしろ」

「レイラは私の子よ‼返して‼」

「ミーナ、受け入れるんだ。レイラはもう死んでるんだ。」

「そんなはずはないわ‼ちゃんと心臓の音はしている‼生きてるわ‼」

「ああ。確かにこの子は生きている。だが…」

「ほら、生きてるじゃない‼」

叫ぶミーナにエリックは非情の銃口を向ける。

全く状況がわからないミーナ。

いくら叫ぼうとも、エリックの態度が変わる事はない。

「あの世でレイラに会えるといいな」

ミーナに小さな穴が空いた。

転がるミーナを見下ろし、レイラだった少女を抱きながらエリックは言った。

「この子はイレーナ。僕の妹さ、歳をとりづらい病気にかかっているんだよ。レイラは産まれたと同時に死んでしまったんだよ。初めは君を悲しませないようにと思ってたんだが、君が段々おかしくなって周りから変な目で見られ始めた。僕はイレーナまでそんな風に見られるのは嫌だったのさ。」

今まで表情1つ変わらなかったイレーナの口角が上がる。

その頬に口付けをするエリック。

「今度は僕と遊ぼう。愛しのイレーナ。」

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