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ゴーストポリス3(その3)

中編6
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ゴーストポリス3(その3)

イギリス南西部 ウディコム──。

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 リダのスマートな運転で、のどかな田舎町に到着したユキザワ室長とチカゲは、長時間座りっぱなしだったこともあり、ぐぃっと大きく伸びをした。

 「あ~しんど……」

 「なかなかの田舎ですねぇ。ホントにそんな凶悪な事件があったんでしょうか?」

 あまりにも閑散としている町を見て、思わずチカゲが漏らした言葉に、リダは笑顔を曇らせる。

 「イタドリ刑事、残念ながら本当にここで起こった事件です……」

 「あ、そそそういう意味じゃなくてですね……」

 リダに変な誤解を与えたと思い、取り繕おうとあたふたするチカゲの後頭部を、ユキザワが丸めた資料でポコンと叩いた。

 「国境越えてイチャコラすんなや。さっさと行くで」

 「イ…イチャコラなんてしてませんよ!」

 「ユキザワ警視、イチャコラとは何のことです?」

 聞き慣れない単語に首をかしげるリダに、ユキザワはニヤッと笑う。

 「ちょっとした議論のぶつけ合いや……気にせんでエエよ」

 何の疑いもなくユキザワの言葉を信じたリダが、ニッコリ微笑みながら言う。

 「そうでしたか!では、現場検証が終わったら皆でイチャコラしましょう♪」

 「「ブバッ!!」」

 リダがあまりにも純真無垢な顔で言ったので、二人は盛大に噴き出した。

 「Oh……私、何か変なことを言いましたか?」

 不安げに二人を見るリダに、チカゲが手をフリフリしながら言う。

 「いえいえ、後でイチャコラしましょう♪」

 「えぇ!」

 屈託のないリダの顔を見て、チカゲがはにかみながら言うと、リダも輝く笑顔を返した。

 「リダ、あそこの小屋みたいなんが現場か?」

 ユキザワが道の先に見える一軒の掘っ建て小屋を指差すと、リダは首を縦に振って答える。

 「そうです。被害者はそこにある農具倉庫の中で発見されました」

 「ほぅか……」

 現場の小屋に歩み寄りながら胸ポケットから仔犬ロボを取り出したユキザワは、それを静かに地面に置いてアゴをしゃくった。

 「キントキ!行け!」

 「あぉんっ!」

 威勢のいい返事をして駆け出すキントキを追い、三人は農具倉庫へ入っていく。

 中ではキントキが機敏にあちこちの臭いを嗅いで回り、ある一ヶ所で「あんっ!」と高らかに一声吠えた。

 「何か見つけたみたいですねぇ」

 小さな体からぴょこっと伸びた尻尾を激しく振るキントキの側に、チカゲが駆け寄って膝を折る。

 「イタドリ、ゴーグルの解像度をあげてみぃ」

 「了解です!」

 ユキザワの指示通りにつまみをキリキリ回してゴーグルの解像度を上げると、細かい木片に青白い光がついているのが見えた。

 チカゲはそれをピンセットで慎重につまみ上げてユキザワへかざして見せる。

 「ユキザワ室長!霊子反応があります!!」

 「霊子反応?」

 チカゲの口から飛び出した今だかつて聞いたことがない単語に、リダが思わず聞き返す。

 「簡単に言うと、バケモンの痕跡っちゅうことやな」

 「バケモンの痕跡ですか……」

 今一つピンときていないリダに、チカゲが優しく説明を始めた。

 「生物は指紋や足跡、体液なんかの何かしらの痕跡が残るじゃないですか?オバケは霊子で出来てるので、痕跡は霊子の有無でわかるんですよ♪」

 「なるほど!理解しました♪」

 嬉しそうに笑うリダに微笑むチカゲの隣にユキザワが立ち、ピンセットごと取り上げてクンクンと匂った。

 「う~ん……ちびっとやけど血液の臭いもしよるのぉ……」

 ユキザワはキントキの背中をポチッと押すと、両開きにパカッと開いた。

 木片をそこに入れると勝手に閉まって、キントキは体をヴィィ…ンと震わせる。

 しばらくするとチーンと音がして、キントキの口から分析結果が印字された細長い紙が吐き出された。

 「ほーん……なるほどな」

 結果を見るユキザワを肩越しに覗くチカゲも同調する。

 「やっぱり間違いなさそうですね」

 「せやなぁ……クソめんどくさいことになりそうやわ」

 「クソめんどくさい?」

 またも首を傾げるリダに、ユキザワは苦笑しながら「超の上のめんどうなことや」と肩を叩く。

 「他に何か手がかりはないですかね」

 分析結果を受け取ったチカゲは、さらに辺りを見回すが、ゴーグルにはコレといった反応がなかった。

 「ほんなら、この小屋の周辺を調べてみるけ?」

 「「了解です!」」

 ユキザワの提案に、リダとチカゲはビシッと敬礼して答える。

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 小屋の内外に分かれてテキパキ捜索していると、外担当のチカゲに酔っ払いの男二人が近づいて来た。

 「よぅ!お嬢ちゃん♪」

 日もまだある内から酒の臭いを撒き散らす男達に、チカゲが露骨に眉をひそめると、男達はアルコール濃度の高い息を吐きながらチカゲに詰め寄って来る。

 「お?コイツ、ジャップだぜ?」

 「いいじゃねぇか、ちょいと俺達と遊ぼうぜ?」

 男の伸ばした毛むくじゃらな手を振り払ったチカゲが反撃しようとした瞬間、もう片方の男に後ろ手を取られてしまった。

 「クッ!!……」

 「元気のいいお嬢ちゃんは嫌いじゃないぜ?」

 そのままチカゲの手を捻り上げる男の背後で、ゴリッと鈍い音がする。

 「今夜から、あなたが寝るのは暖かい家のベッドか、暗く冷たい土の中か……どちらにする?」

 美しくも表情のない顔のリダが、ピストルを男の後頭部に突きつけながら冷淡に言い、撃鉄(ハンマー)をカチャリと起こした。

 「じょ…ジョークだよ……」

 銃を突きつけられた男は、ゆっくりとチカゲの拘束を外し、両手を上げる。

 「おいおい……ウチの大切な部下に何さらしとんねん!!この白ゴリラァ!!」

 騒ぎに気づいたユキザワが、そう言い終えた頃には、チカゲに手を伸ばした男の肩と肘と手首の関節は完全に外れていた。

 「リダ、ちょぉ……エエか?」

 「どうぞ、私は何も見てません」

 軽く物騒なもの言いに笑顔で答えるリダに、ユキザワはニッコリ微笑む。

 「物分かりのエエ子は大好きやで♪」

 ふわりと髪をなびかせてナチュラルに間を詰めたユキザワは、チカゲの横を通り過ぎるとチカゲの腕を捻り上げた腕を取り、そのまま後ろに高々と捩り上げた。

 ゴキキキと乾いた音と共に、男の腕は可動領域を超えて手の平が有らぬ方を向く。

 断末魔の悲鳴を上げて、男はその場にうずくまった。

 「酒を飲むんは勝手やが、あんまオイタやらかすと痛い目に遭うで?」

 一瞬で関節を外された男達は、酒の酔いも覚めたのか、コクコク頷いて片腕をブラブラさせながら逃げて行く。

 その後ろ姿を「雑魚が……」と吐き捨てるユキザワに、チカゲが抱きついて胸に顔をうずめた。

 「室長~」

 「じゃれんなや……うっとぉしい」

 二人の仲睦まじい姿を見て、リダは銃をしまいながら何処か寂しそうに笑う。

 「ユキザワ室長、それだけの力があるのに捜査課を蹴ったのは何故です?」

 リダからの唐突な質問に、ユキザワは頭を掻きながら答えた。

 「人間相手じゃあ、うっかり殺してまうやろ?ウチにはバケモン相手がちょうどエエねん」

 妙に説得力のある答えに、リダも納得する。

 「リダさんっ!!」

 ユキザワにしがみついていたチカゲが、今度はリダに飛びついて、ふくよかな胸に顔をうずめて言った。

 「リダさんもカッコよかったです!!あたしもああいう言葉がスラスラ出てくる刑事になりたいです!!」

 「別にあんなん言わんでもエエやろ?」

 「だって、カッコいいじゃないですか!ハリウッド映画みたいで!!」

 口を尖らすチカゲに呆れた顔でユキザワが返す。

 「オマエ、ガチでバケモンと闘ってるやろ?ホンマモンやったら、流石のニコラスかてハゲるで?」

 「ニコラスはもうハゲてますよ!」

 「イタドリ刑事、少し言葉が過ぎますよ?」

 リダに優しくたしなめられ、チカゲはばつ悪そうにチロッと赤い舌を出して顔をリダの胸に戻した。

 「さて、遺留品の詳しい解析はアマノに任せなアカンし、ここでの収穫はこんなもんやな」

 「そうですねぇ…長居して室長の必殺技の餌食が増えても困りますし」

 「では、我々もロンドンに戻りましょう!」

 チカゲが速やかにキントキを回収し、三人はリダの運転でロンドンへと帰った。

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