普通に生活を送る中で、人の死に遭遇する事って平均で何回くらいあるのだろう?
病死、寿命、などの身内や知人の死。
医者や看護師、介護士、警察官などの仕事柄携わる死を除けばそれほど多くないように思う。
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私は仕事以外に3回遭遇している。
首吊り。
飛び降り。
殺人。
仕事も含めればもう数件
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母も遺体を発見した事があると話していたから、そういうことに縁があるのかも知れない。偶然だろうけど。
今回は1番幼い頃に遭遇した死のお話。
当時は東京に住んでいた。
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私の母はN県の生まれで、母の実家は山中でミカン農家をしていた。
定かでなくて申し訳ないけど、私は当時3歳か4歳。祖父が存命の頃だから、そんなもんだと思う。
夏休みに東京の私達のところへ祖父母と叔父叔母、従姉妹が遊びにきて数日観光した後、今度は帰るのに母と姉と私の3人がくっついて、母の実家のN県に遊びに行ったんだよ。
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車で山道をずーっと上がっていくんだけど、道は狭いし舗装もされていない悪路でさ。
車の中でバウンドする度に、姉ときゃーきゃー喜びながら家に向かった。
道の周りは竹藪に包まれていて、その中を進むとぽっかりと空間が開けていて、大きな家屋が私達を迎えてくれた。
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詳しくは知らないけど
何でも、ご先祖様は武家らしくて土地だけはあるらしかった。
庭には池があって、大きな鯉が泳いでいたり
池のそばには崖をくり抜いたような洞があってね、中身は知らないけど壺が入ってた。多分昔の冷蔵庫代わりみたいなものの名残だったのかな?
カエルがよく捕れたのを覚えてる。
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玄関をくぐると広い土間があってさ、土間に台所。向かって左側にお風呂場。薪で焚く五右衛門風呂があったんだよ。
右に上がると居間とかがあるんだけど、私が1番嫌だったのはトイレがボットン便所だったこと。
しかも家の中じゃ無くて外の小屋にあったんだ。臭いし夜中に行くのが怖くて、よくおねしょをした。
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家に着いて姉と車を降りると、祖父がやっていたミカン農園の香りが鼻をくすぐった。
土地の匂いってあるんだよね。姉と声を合わせて「じいちゃんちの匂いだ!」
って思わず口にしたくらい。
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初日は移動で疲れていたのもあってグッタリ。
従姉妹の3姉妹とも遊ぶ間もなく眠りに落ちてしまった。
目が覚めたのは夜中。おねしょだ。
母達はまだ起きていたのだけれど、飲み会で騒いでいて、すっかり出来上がっていた。
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私は親に怒られるのが怖くて、こっそりトイレに向かった。いま考えると、結局バレるんだけどな。
気持ち悪く濡れたパジャマを履いたまま、サンダルに足を入れ、抜き足差し足外に出た。
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山の中だけあって、外は虫の声だか蛙の声だかで溢れかえっていた。
真ん丸のお月さまが照らした石畳がジットリと濡れていて、苔の匂いが香ってきそうな程だった。
トイレはまでの距離はせいぜい10mくらい、酔っぱらいの大人の声も、うっすら届く位の距離感だ。
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静かに木の扉を引くと、キィと嫌な音をたてて
抵抗なく扉が開く。
そして、追いかけるようにツンとした刺激臭が後から鼻を刺した。裸電球がゆらゆらと揺れる。
こんな怖いところはごめんだ。はやくしてしまおう。ズボンとパンツを脱いで(濡れて気持ち悪かったから全脱ぎ)
トイレの端に置く。
そして、残っていたオシッコをチョロチョロと用をたしていて、ふと気が付いた。
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静かだ。
先程まで聞こえていた大人達のどんちゃん騒ぎも
虫や蛙の鳴き声も聞こえない。
いくら扉をしているとはいえ、静かすぎた。
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shake
そう思った瞬間。
背中越しの扉の向こうに何か恐ろしいものが居るような気がした。
こちらを暗闇の中から伺っているのでは無いかという恐怖感に襲われた。
足が震える。
こんな時だけオシッコが長く感じる。
こちらはお尻丸出しで防御力ゼロだというのに。
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子どもの心は恐怖にとらわれると脆い。
心臓がギュッと握られたような感覚の中
何かが聞こえた。
静寂の中、聞こえた音に耳をたてなければ良いのに身体は安心を求めて音を求めた。
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…ケテ
…ケテ
微かな
消えそうな声。
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先程まで怖かった背中なんてどうでも良かった。
声はボットン便所の中から聞こえたのだから。
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そこに居たのはパカッと口をあけ
腕をこちらに伸ばした老婆だった。
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そこでプツンと記憶は途切れた
目覚めたのは居間だった。どのくらい時間が経っていたのかは覚えていないけれど、母親が心配したように「大丈夫!?」と声をかけてくれた。酔っぱらい達も多分居たし、心配してくれたのかもしれないけど覚えていない。
天井にぶら下がった電球の光が痛いくらい眩しかったのと、覗き込む母に安心してワンワン泣いたのは確かだ。
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私は局部丸出しで外に倒れていたらしい。
酔っぱらってトイレに出てきた叔父さんが、仰向けにひっくり返った私を見つけて、慌てて中に運び込んでくれたとの事だった。
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事情を聴こうとする母に、私は
お化けが出た!!お化けが出た!!と泣きわめくばかりで話にならなかったらしい。
その翌日、急遽東京に帰宅。
家に帰ると、何故か左耳が聴こえなくなっていた。
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ここまでが私の記憶。
ここからが、大人になって聴いた話。
私はお化けが出たと騒いで怖がりすぎた為に、予定を繰り上げて帰宅したのだと勝手に思っていたのだが違ったらしい。
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本当に老婆が居たのだ。
もっとも、もう亡くなっていたのだけれど
母の実家の200m程の距離の所に
その老婆と60代の知的障がいの息子さんは年金暮らしをしていたのだけれど、喧嘩になった末、母親を殴打したらしい。
動かなくなった老婆を隠そうと思った時に人の家のボットン便所に捨てたみたいだと聞いた。
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私が倒れた翌日、
祖母がトイレにいった時に、私が何をお化けと勘違いしたのかといろいろ見ていたら、中に倒れているのを発見し、てんやわんやした為に帰宅したのだと
いう。
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しかし、死因は結局
殴打ではなく真夏の暑さによるものだったみたいだ。亡くなったのがいつだったのかは怖くて聴けなかった。
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あの時、聞いた声が
タスケテだったのか
ミツケテだったのか
思い出せなかったから。
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作者二人ぼっち