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中編6
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笑顔の祓い女

会社の同僚の子は、私よりも年下の笑顔がとてもかわいい子です。

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笑顔のかわいさは、もうアイドル並み。その笑顔に、部長もメロメロ。

でも、その腹の中は…。

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私は毎日、彼女にいびられていました。

私のゴミ箱の蓋を反対にする、デスクにあるものの位置を、デスク上で移動するなどの小さないやがらせからはじまりました。

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そしてある日の飲み会で、酔った部長が、私は笑顔が汚い、笑顔がかわいい彼女のほうを信用する(言うほうも言うほうですが、まあ、その通りなので気にしません(笑))と言った翌日から、朝はパソコンと向き合って仕事をしている私の顔をわざわざ覗き込んで、満面の笑顔で挨拶をしてくるようになりました。

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ある日は、風邪を引いたと言ってひどい咳をしていたお客さんが、出されたコーヒーに手をつけずに還りました。そのコーヒーを、私に「よかったらどうぞ」と行って、笑顔で差し出しました。

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私が、すごい咳をしていた人に出されたコーヒーだからと言って断ると、彼女は

「そーんな、小さいこと、気にするなんて神経質なんじゃないですかーあ??」と高笑いをして、その場を立ち去りました。

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どうやら、前に仕事の仕上がりが雑だったのを指摘したのが気に食わない様子…。

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言葉による嫌味は時折、心に矢が刺さるようなことを言ってきます。

気にしない振りをすると、フンッときびすを返して、その場を立ち去ります。

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こうして、何かにつけて、私の神経に障るようなことをするのが、彼女の日課になっていきました。

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そのうち、私が仕事中にたてた音-パソコンのキーボードをたたく音や、マウスの音を、わざと繰り返すようになりました。デスクでの仕事中はずっとです。

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私がそれに気付いたのに感づいた彼女は、ついには音を真似する時、小声で「ノイローゼになれ」と言うこともありました。

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また、彼女が仕事中に飲み物を飲むときは、私のパソコンを覗き込みながら飲むのはもはや、クセのようです。

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そうやって私に嫌がらせをしつつも、常に私の行動を監視し、何の仕事をして何をいているのかを把握する事に必死のようでした。

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「どうしたものか…」

彼女は私と同期でしたが、違う部署です。人員の関係で、私の方が先に大きな仕事をまかされたのが気に入らないようでしたが、入社当時から、彼女はなにかにつけて私にライバル心をむき出しにしてきていました。

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ある日、たまたま、彼女と仕事の話をしている時に通りかかった人に、彼女の知らない仕事のことで、確認したい事があったので、その人に話しかけ、少し会話をしました。

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私が話しかけた人は、彼女が好きなことは周知の事実でした。どうやら、自分が知らない話を、その人と話している事がまた、気に食わないようでした。

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すぐに話は終わり、彼女のほうを向き直ると、自分の知らない話をしている事が気に入らなかった彼女は、あのかわいい笑顔からは考えられない、まるで地獄から発せられたかのような声で

「ヴヴン」

とうなり、きびすを返して、その場を離れたのです。

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あのうなり声…。

それまで、あの完璧な笑顔とアイドルのようなハキハキとした明るい声で話していた彼女とは思えない声でした。

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「…この子、やばいかも。」

私は、彼女に普通ではないものを感じ始めました。

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そもそも、私は笑顔が完璧な人は、信用しません。

人の笑顔は、良く見るととても複雑な表情が入り混じったものだと思います。

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それ故に、人はとてもいとおしいと思うのですが、彼女のような、一転の曇りのない笑顔というものは…前に取材した精神病棟でなら…見た事があります。

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はっきりいえば、アイドルですら、その笑顔に複雑な感情が入り混じってはいます(もちろん、一般人よりは曇りのない笑顔ではありますが)。

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でも、彼女の笑顔の完璧さには、はっきり言って狂気を感じていました。

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それでも、仕事に忙しい日々を過ごしていたので、あまり気にせずに日々を過ごしていました。

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しかし、私が新たに大きなプロジェクトに参画したころから、彼女の私への執着はエスカレートし続け、私の話癖やしぐさ、その他、私のクセまで真似するようになっていきました。

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そんなある夜、夢を見ました。

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そこは、寮のようなところで、私はベットのそばにたって、怯えています。

悪霊が順番に部屋を巡り、寝ている人を殺しているのがわかっています。

か細い悲鳴も聞こえます。

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次は、私の番だ。。。

私は、空いているドアを見つめ、悪霊が来るのをただ、怯えていました。

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とうとう、悪霊が部屋に入ってきました。それは、悪霊というより、ただの人間の死んだ霊のようでした。生前に悪霊払いをしていた人のようで、死んでからも悪霊を祓わなければいけないと思い込み、片っ端から悪霊払いをしているようです。

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私には、わかりました。

その悪霊払いをしている霊とは、彼女なのだと…。

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次の瞬間、私はベットに横たわっていて、彼女が私に手をかざしました。体が痺れたようになって、動かなくなっていきました。金縛りでした。私は怖くなって、目をつむりました。

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しかし、最後の勇気を振り絞って、

「出て行け、出て行け、去れ!」

と言いました。そして、目が覚めました。

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どうやら、夢の中だけでなく、実際に言っていたようです。

とはいっても、金縛りのせいで、ろれつは回っていないわ、通常の大きさではありましたが。

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「いやな夢をみたな・・・。」

でも、私にはわかっていました。彼女の邪気をはね返したことも、今頃彼女には、何かしらの影響がでていることも…。

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次の日出社すると、彼女は風邪をひいていました。一日中鼻をかんでいて、どうやら私の真似をしたり、監視をするどころではなさそうです。

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彼女の邪気を、無事はね返せた私は気分が良く、また、彼女が哀れに思えてきました。

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そこで、その日に彼女が早めに会社を出るとき、一言「お大事に」と声をかけました。

彼女が一瞬、息をのんでいるのが伝わってきました。

「ありがとうございます。」

彼女がつぶやきました。

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その日からです、彼女の態度が変わったのは。

仕事の作業音を真似することもなくなり、監視も前に比べると収まりました。

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あの無垢すぎる笑顔は相変らずですが…。

そして、知っているくせにわざと知らない振りをして、いろんなことを聞いてきたり、私へ強烈なブリッコをしかけてくるようになったので、これはこれで困ってますが(笑)。

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結局、こうやって生きてきた子なのでしょう。

イビリよりはマシなので、こちらも適当にやり過ごして、あとは関わらないようにするだけです。

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そして、またあの夢を見ました。

あの寮の私の部屋の入り口に、私は立っています。

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そして、あの霊が2階に続く階段を登っているのを、見つめています。

その霊は足元しかみえなかったのですが、足首に大きな赤いアザがあるのが見えました。

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2階にも、まだたくさんの寮生が眠っています。

そこで、目が覚めました。

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「あぁ、彼女は私を祓う必要のない人間だと判断したんだな・・・。」

そう感じました。

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また、その後彼女の足首に、赤い大きなアザがあるのを見かけました。

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数日後、彼女はとある先輩に、ひどく怒られていました。

彼女は、その場を取り繕うだけの、カラ返事をしています。

怒られている内容も、まるで把握していない様子で、先輩の怒りが収まるためだけに、いつものように愛想良く、適当に先輩に合わせればいいと思っている様子…。

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とうとう、先輩は「私の言ってる事、聞いてる?私の言ったこと、わかった?」

「ハイ!これこれですね!!」

「だーかーらー…」

こんなやり取りが、延々と続いています。とうとう部長が仲裁に入り、その場は収まりました。

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その数日後、その先輩と世間話をしていると、ふとその先輩がこんなことを言ったのです。

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「そういえばさー、私、なんか最近同じ夢を繰り返し見るんだよねー。

寮みたいなところにいてね、そこで寝ているんだけど、だれかがドアの向こう側に立って、部屋に入ろうとしているのがわかるんだよね。

私は寝てるんだけど、入ってくるなって、強く念じてるんだよね。

だから、その誰かは入ってこれないんだけど、ずーーっと、ドアの前から、離れないの。

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そして、その霊の足首だけドアの下に隙間があって見えるんだけど、赤いアザのある足首でね、

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ずーーっと地団駄踏んでるの。板張りの古い廊下の床を、バンバンバンバン鳴らしてるの。この夢、ここのところずーっと見続けてるんだよねー。」

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